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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第11章 卒業式 後編
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第485話 空港までの道のりはお好きですか?




 赤石たちは観光をしながら、空港へと向かっていた。


「長かった卒業旅行も、これで終わりだね」

「そうだな」


 赤石は京極の隣の席で、窓の外を見ていた。


「どうしたのさ、赤石君。ずっと窓の外なんて見て。人と話す時は人の目を見て話しなさい、って習わなかった?」

「習ったかもしれないが、そんなどうでもいいこと覚えてない」


 京極が窓に移る赤石と視線を合わせる。


「でもお互い窓を見てるのに視線が合うのって、なんか変な気分だよね」

「そうだな」

「お互いに先を見据えてるんだね」

「そうだな」


 赤石は適当な返事をする。


「赤石君、返答パターンが単調でつまらないよ」

「そうだな」

「赤石君、僕って超キュートだよね?」

「そうだな」

「赤石君って爽やかシャイボーイだよね」

「そうだな」

「僕たち、友達だよね?」

「そうだな」

「ご飯食べてきた?」

「そうだな」

「赤石君、今日の服ダサいね」

「そうだな」

「僕の服は可愛いよね?」

「そうだな」

「……」


 京極がしばらくの間、考える。


「一足す一は?」

「二」

「そうだな、じゃないんだ」


 京極はくすくすと笑う。


「俺は乗り物に弱いんだよ。乗り物酔いが激しいから」

「へ~」

「赤石君にも苦手なものなんてあったんだね~」


 京極の隣にいる佐藤が、感心する。


「俺をなんだと思ってるんだよ」

「苦手なものなんてないかと思ってたな」

「苦手なものだらけだよ。俺の人生は嫌いなもので溢れてる」

「人生辛そう」


 佐藤は困り眉でそう答えた。


「赤石君は乗り物が苦手なんだね」

「ああ」

「赤石君は乗り物が苦手なんだろう? じゃあ乗り物は何が苦手なのか気になるね」

「そんなじゃんけんみたいなシステムないんだよ。三すくみとかないから」


 京極はむむむ、と考える。


「赤石君は何に強いの?」

「バカ」

「色んな所から怒られそう……」


 京極と佐藤は苦笑する。


「赤石君自身が、周りの人からバカと思われてるかもしれないよ?」


 京極は赤石に問いかける。お前は人にそう言えるだけの人間か、と。


「その時はお前がいるから大丈夫だ」


 赤石はこともなげに答える。


「ひっど! 僕が赤石君より頭が悪いってこと!?」

「この理解速度の遅さ、やはり京極に違いない」

「バカ!」


 京極が赤石を殴りつける。


「乗り物乗っただけで酔うような軟弱な男のくせに!」

「高度に発達した知的生命体は情報処理能力が大幅に発達しているため、揺れ動く箱の中でシェイクされたらそりゃあこうもなる」

「君は宇宙から来訪したばかりか何かなのかい?」


 京極が赤石を揶揄する。


「赤石君、頼むよ。僕たちは大学に入ってからも交流があるんだから、ちょっとはしっかりしてもらわないと。僕に何かあった時にそんなんじゃ困るよ」

「なんでお前は頼る一辺倒なんだよ。そういうつもりなら、俺が苦しんでる時はお前が俺を助けてくれ」

「確かに」


 京極は辺りを見渡した。


「背中さする?」

「それもう手遅れになった時にやるやつだから」

「何か僕に出来ることあるかな?」

「気を紛らわせといてくれ」

「仕方ないなぁ」


 京極は佐藤を見た。


「佐藤君、僕と君とでロミオとジュリエットの再現でもしようじゃあないか」

「え、えぇ!?」


 無理だよ、と佐藤は手を振る。


「僕がロミオをやるから、君はジュリエットをやってくれたまえ」

「僕がジュリエットなの……?」

「あぁ、ロミオ。どうしてあなたはロミオなの、から始めよっか」

「切り抜き止めろ。最初からやれ」


 赤石は何とか電車内での時間をやり過ごした。


「あぁ~、大変だった……」


 赤石は吐き気を抑えながら、どうにかこうにか電車から降りる。

 ふらふらと足をふらつかせながら、赤石は壁に手をついた。


「大丈夫大丈夫」


 京極が赤石の背中をさする。


「止めろ、本当に吐く」

「そっちの方が良いじゃん。旅の恥はかき捨てだよ」

「かく必要のない恥をかかそうとするな、恥かき博士」

「僕だって、皆の前でゲロ吐いたことあるよ」

「それは是非ともお目にかかりたかったものだな」

「だから、僕は赤石君のゲロも見たいんだよ」

「キモいんだよ、お前」


 赤石は青白い顔で外を見る。


「見てごらん、赤石君。外の世界はこんなに広く、美しいんだから。さ、元気出して」

「今までずっと地下に収監されてた人じゃないんだよ」


 京極は両手をいっぱいに広げ、外の世界に目を輝かせる。


「卒業旅行に僕も呼んでくれてありがとうだよ、赤石君」

「そこのちびすけにも言ってやってくれ」


 赤石は近くにいる上麦に水を向ける。


「ありがとう、上麦さん、僕は感謝してるよ、とても!」


 京極は上麦の下まで走りに行き、上麦を抱き上げた。


「のわああぁぁ! 赤石、赤石!」


 上麦は京極に抱きかかえられ、振り回される。京極に振り回され、恨めしい目で赤石を見る。


「悪は去った」


 赤石は京極を振り切った。


「……」


 後方から遅れてやって来た平田が、赤石の隣に立った。


「久しぶり」

「久しぶりって、ここ最近ずっと一緒だっただろ」


 膝に手をついてうつむいている赤石の背中を、平田がポンポンと叩く。


「これ」


 平田は赤石に水を渡した。


「お前……」


 赤石は感動的な表情で平田を見る。


「お前にもついに人の心が……」


 赤石は平田から水を受け取った。


「ついに悪の大魔神にも人の心が芽生える時がきたのか……」

「人のことを何だと思ってるわけ?」


 赤石は万感の思いで水を飲む。


「長年の俺たちの献身的な思いが通じたんだな。不良も改心できることを教えてくれた周りの皆に感謝だ」

「大袈裟でしょ」

「ワシらの祈りが通じたんじゃ……」

「いやいや……」


 赤石が合掌する。


「今まで私のことを何だと思ってたわけ?」

「素行の悪い不良」

「まぁ……うん」


 平田はうつむいた。


「まぁ、そうか。そうだな……」

「珍しく大人しい」


 平田は赤石の言葉を肯定する。


「もう本当の平田は死んでて、お前は平田のフリをした宇宙人か何かじゃないだろうな」

「そんなわけなくない?」

「よく見たら爪も変だ。一般人の爪と比べて、異常なほどに発達してる。きっと人を殺すために進化した攻撃用の武器なんだ」

「ただのネイルだから」

「耳にも変なアクセサリーをつけてる。一般人はそんなものつけてない。違う太陽系で生まれた文化だろ」

「女の子は皆つけてるから」

「おまけにヘソにまで穴をあけてやがる。そこから何かが平田の中に侵入したんだろ!?」

「どこ見てるし」


 平田はお腹を隠し、赤石を叩く。


「あと、ヘソにはあけてない」

「そうですか」

「鎖骨にはあけようかな、って悩んでる」

「どうでも良すぎる」


 急に興味を失った赤石は、平田から視線を外した。


「……」

「……」


 赤石と平田は最後方で、卒業旅行に来た同級生たちを見守っていた。


「なんか良いね、こういうの」

「……」


 平田はボソ、と呟いた。


「卒業旅行、絶対面白くないと思ってたけど、来てみたら案外面白かった」

「そうかそうか」


 赤石は満足そうに平田を見た。


「つまり君はそういう奴だったんだな」

「蛾とか盗んだ時に言われるやつじゃん、それ」


 平田は複雑な表情をする。


「蝶か蛾か、って言われたらお前は絶対蛾だもんな」

「滅茶苦茶失礼なんだけど」


 平田は赤石の頭にげんこつをお見舞いする。


「そういうお前は蝶なわけ?」

「蝶も蝶、鮮やかな青色の蝶だね。アオスジアゲハと思ってくれれば良い」

「そんなわけない。お前みたいな罪人」

「お前の方が罪人だろ」

「はぁ?」

「はぁ?」


 赤石と平田は睨み合う。


「ま、実際俺も蛾だろうな、多分」

「お前はどう考えても蛾だと思う」

「失礼だな、お前」


 赤石が平田を小突く。


「止めてよ、妊娠する」

「するか、馬鹿。下品な冗談を言うな」


 水を飲み、赤石は徐々に復調する。

 ようやく立ち上がった。


「気分は?」

「まあまあ」


 赤石は大きく深呼吸する。


「はぁ~……」


 大きく息を吐く。

 そして再び息を吸おうと口を開けたところで、


「はい!」

「……っ!」


 平田が赤石の口にお菓子を放り込んだ。

 赤石は突然口内に異物が入って来たことで、ゲホゲホと咳き込む。


「おまぇ、ガジで止めろ……」


 赤石は涙目で咳き込み続ける。


「あはははははははははははははははは!」


 平田は赤石の醜態を見て、大笑いした。


「だっさ! 赤石だっさ! あははははははは!」

「不良の平田から、人の心は失われた……」


 赤石は勢いよく水を流し込んだ。


「ごめんごめん、あははははは」


 平田は謝りながら赤石の背中をさする。


「はぁ……」


 赤石は喉を潤し、涙目のまま前を向く。


「……良いね、友達ってのも」

「そうか」


 平田と赤石は二人、腰に手を当てながら友人たちを眺めていた。




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― 新着の感想 ―
平田さんはそのまま友達枠でいて欲しい 一度は挫折しかけた人たちは立ち上がる際に共にいたぶん、裏切らなさそうだけど、その点からすると、できてしまった彼女とその友人一号が怖いんだよなぁ
みんな可愛らしくなって。 そして上麦はやっぱり上麦。
平田がオアシスのように感じる日が来るとは
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