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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第11章 卒業式 後編
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第484話 黒野の告白はお好きですか?



「須田」


 赤石の下を離れた須田は、偶然にも黒野と遭遇した。


「おぉ、おはよ~」


 須田はラフな笑顔で黒野に手を振る。


「おは、おは、おはよ」

「おはようございます」


 須田はペコリと頭を下げる。

 黒野と挨拶を交わし、そのまま料理を見始める。


「須田、暇?」

「俺なんて毎日、毎時毎分暇みたいなもんだよ。暇だけで出来てる暇暇人間」

「あぁ、そう」


 黒野はくくく、と笑った。


「黒野さんは今起きたところ?」

「さっき」


 黒野はぼさぼさの髪をいじりながら、答える。


「毛先遊ばせてるねぇ」

「髪、長いから」


 黒野は首元がよれよれになった服を着崩し、須田の横を歩く。


「黒野さんも一緒に取りに行く?」


 須田が料理の方に視線を向けた。


「あぁ~……」


 黒野は少し考えた後、


「言いたいことが、ある」


 そう言った。


「どうぞどうぞ」

「ここじゃ無理。ついて来て」


 黒野は須田を人気のない場所に誘導する。


「すごい、チュートリアルみたいだ」


 須田は黒野に言われるがままに、ついて行く。

 須田と黒野は人気の少ない通路に到着し、黒野は須田の方を振り向いた。


「好き」

「おぁぇっ!?」


 黒野は須田に、抱き着いた。


「私、黒野佐々良は須田統貴のことが、好き」

「え、え、えええぇぇぇ!?」


 唐突な展開に、須田は顔を赤くして困惑する。


「須田は、今好きな人はいる?」

「い、いや、そんな……」


 須田はうやむやな態度で返答する。


「彼女は?」

「いや、そりゃあ、いないけど……」


 須田は頬をかきながら答える。


「じゃあ、好きな人も彼女もいないなら、私が付き合いたい」


 小さな体の黒野は、上背の大きい須田を抱きしめたまま、見上げた。


「あぁ~……」


 須田は困惑した表情で黒野を見る。


「うん、そうだなぁ……」


 須田は一時、間を置く。


「告白してくれて、ありがとう」


 須田は黒野の肩に、優しく手を置いた。


「多分、こうやって人に告白するのはすごい勇気がいることだろうし、今もすごい俺のために頑張ってくれてるんだと思う」


 須田は黒野を優しく引き離した。


「でも、ごめん、俺は黒野さんとは付き合えない」

「……」


 黒野は垂れる前髪の隙間から、須田を見る。


「なんで?」

「なんで。う~ん……」


 須田は考え込む。


「黒野さんはすごい魅力的な女の子だし、可愛くて頭も良い、すごい女の子なんだと思ってる」

「じゃあ付き合って」

「でも、う~ん……」


 須田はうつむいた。


「俺の好きな人のタイプからは、ちょっとずれてるかなぁ、って……」


 須田は最大限に言葉を選び、そう言った。


「……そう」


 黒野は肩をがっくりと落とす。


「でもでも、魅力的だと思ってるのは本当だし、すごい可愛いと思ってるのも本当で!」


 須田は黒野をフォローする。


「もし黒野さんが嫌じゃなかったら、これからも俺と友達でいて欲しいかな、って……。わがままかな」


 須田は複雑な表情で、黒野にそう微笑みかけた。


「……」


 黒野は黙ってうつむく。


「うん……」


 そして絞り出すように、そう言った。


「ごめんね、こうやって告白するのもすごい勇気が必要だっただろうし、俺のことをそう思ってくれてるって気持ちは、嘘偽りなく、本当に嬉しい」

「……」

「これからも俺と、友達でいて欲しい。そしてもし俺に、あるいは黒野さんに何かあったら、支え合うような関係でいたい」


 須田は黒野に手を差しだす。


「……分かった」


 黒野は渋々ながら、須田の手を取った。


「ごめんね、黒野さん」

「……いい」


 黒野は顔を上げず、うつむいたまま小走りでその場を後にした。


「……」


 須田は申し訳なさそうな表情で、胸のあたりを掴んだ。







 赤石、上麦、鳥飼、暮石の四人は依然としてビュッフェ会場で食事を共にしていた。


「そこ、誰かいるの?」


 暮石が食事を取りながら赤石に聞く。

 赤石の前は空席になっていた。


「さっきまでアンパンヒーローのぬいぐるみ置いてて」

「ぬいぐるみと話しながら食べてたの!?」


 暮石が驚いたリアクションをする。


「パトロールがある、って言ってお前らが来る前に飛んで行ったよ」

「ぬいぐるみが!?」


 再び大仰にリアクションする。


「いや、全部嘘」

「嘘なの!?」

「いや、そこは驚くところじゃないだろ」


 再三にわたる大仰なリアクションに、赤石が突っ込みを入れる。


「本当は統。今は中座してる」

「ん~」


 暮石は軽くうなずく。


「上麦、ソース取ってくれ」

「そんなのない! 自分で取る!」

「厳しいなぁ」


 上麦はポテトとソーセージを頬張りながら、赤石を叱咤する。


「そんな頬いっぱいに料理詰め込んで。どこに食べ物隠しに行くつもりだ」

「白波リス違う。赤石はスリ」

「上手いこと言うな、じゃないんだよ。誰がスリだ、誰が」

「人の話よくスるもんね、赤石君」

「話題泥棒じゃないんだよ」


 上麦は取って来た料理をどんどんと食べる。


「本当によく食うな。そんな小さい体のどこに入ってるんだよ」

「料理は別腹」

「別腹ワンストック制じゃねぇか。大食いチャンネルとかやった方が良いんじゃないか?」

「大食いチャンネル……!?」


 上麦がカッと目を見開く。

 良いね、と上麦が赤石に親指を上げる。


「大食いじゃなくても、料理系の動画って結構人気あるし」

「考えとく。やりたい時、赤石連絡する」

「考えとく」


 赤石は料理に手を付ける。


「お待たせ~」


 須田が料理を持って、ようやく帰って来た。


「あらあら、なんか人増えてるね」


 須田は元の席に座る。


「白波、人連れてきた」

「おぉ~、ありがとう。おかげで賑やかになったよ~」

「へへ」


 上麦は嬉しそうに笑う。


「役者も揃ったことだし、この村も発展させるか」

「村だったんだ」

「統は木を切って集めて来てくれ。上麦は田畑を耕してくれ。モミを食べつくすなよ。暮石は倉庫の整理を、鳥飼は敵部隊の偵察に行ってくれ」

「なんで私だけそこそこ危なそうな指示なんだよ」


 鳥飼がケチをつける。


「赤石君は何するの?」


 暮石が純粋な疑問を呈する。


「俺は王だから、指示をするだけだ」

「せこっ!」

「頭を使ってるんだよ、頭を」


 赤石はとんとん、と頭を指でつつく。


「朝から楽しそうね、あなたたち」

「あ、おはよ~」

「おはよ」


 談笑をしながら食事を楽しむ赤石たちの下に、高梨がやって来た。


「なんか疲れた顔してるな、お前」

「何よ」


 高梨は目が十分に開いておらず、疲労した表情だった。

 髪、衣装と普段から整然とされている高梨とは、少し様子が違っていた。


「ちゃんと寝れたか?」

「……別に」

「枕が変わると寝れないタイプの人間だな」

「朝からうるさいわね、あなた本当に。耳障りだから黙っときなさいよ」


 高梨はぶっきらぼうに、赤石に当たる。

 高梨は赤石を一睨みした後、ビュッフェ会場へ向かった。


「……」


 暮石は高梨の背を見やる。


「なんだか朝からご機嫌斜めだったね、高梨さん」

「そういう日もあるだろ」

「優しっ!」


 暮石が赤石に小さく拍手する。


「今まで見た赤石君の中で一番優しかった」

「良かったな、じゃあすぐにその記録は更新されそうだよ」

「洋画見たいな言い回し」


 よっ、と暮石は赤石を持ち上げる。


「あんま見たことないなぁ、高梨があんななってるの」


 中学の頃から高梨と関係の深い須田は、物珍しそうな顔をする。


「髪もちょっと跳ねてたし、服もいつもよりきちんとしてなかった。高梨にもああいう時があるんだなぁ」

「完璧超人の高梨にも憂鬱な朝があるってことなんだろ」


 赤石はパンをちぎりながら、高梨を見た。


「高梨八宵は、憂鬱な朝を過ごさない」

「ラノベのタイトルみたい」

「ふふ」


 赤石たちはそのまま、談笑を続けた。



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― 新着の感想 ―
高梨は一晩悲しんで、上麦は同じ部屋だったよな…… そして須田の好み、 今まで絡みがあったのは三千路と高梨くらいだが…… 黒野は本作で一番普通のラブコメしているがどうなるか……
高梨さんもしかしたら一発逆転があるかもよ。須田くんが好きな人が高梨さんなのかしら、女の感って鋭いのよ❗️
高梨さんは、離れたいような、離れたくないような、なんとも言えん心境やな、これは 須田も、実は縺れそうなラインに好意を持ってそうな予感がするなぁ……
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