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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第2章 文化祭 前編
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第46話 神奈美穂はお好きですか? 2

高梨と赤石の過去を追記しました。



 明確ないじめがなかったとしても、生徒たち一人一人の内心の奥深くに、根源的に他者を扱き下ろそうとする気持ちがあってもおかしくはない。

 その全てを学校で対応することは出来ない。


 赤石が中学でいじめられたように、対応をしない学校も往々にして存在する。


 神奈一人にその責任を負わせるのは酷なのかもしれない。


 組織という物は、大抵は一枚岩ではない。派閥や秩序や鉄則など、さまざまな枷にがんじがらめにされる。


 最終的には、どんな問題を根治するにしても、自分が行動しなければいけない。


 他者をいたずらに遠ざける赤石は、全てを自分一人で解決しなければいけないというルールを、自身に課していた。

 最終的に信用できる人間は自分だけだ。何か問題が起きれば人を頼るよりも自分で行動しなければならない。 

 赤石は小学生の頃から中学に入るまでに経験した悶着から、そう理解していた。

 他者を頼ることを嫌い、自分の力だけを信用するきらいが、赤石にはあった。赤石は、他人を簡単には信じない。

 

 赤石の友達が少ない理由もその自身のルールに起因しており、最終的な着地点としては、自分で動くしかないと、考えていた。


 赤石の表情を見た神奈は、ゆっくりと口を開いた。


「悪いな…………赤石。全部が全部、お前に任せちまって……」

「…………」

「もう教室でお前の居場所ないんじゃないか……?」

「…………そうですね。でも元々友達もいなかったんで、いい機会でしたよ。あんまり他人とか好きじゃないですし、どっちかって言うと厭世家ですし……」

「…………」


 赤石は自重気に、嗤った。

 神奈は眉間にしわを寄せ、悲しそうな目で赤石を見る。


「本当か?」

「…………」

「それは、本当か?」


 神奈は、繰り返す。

 赤石の心根を見透かすように、二度、繰り返した。


「…………」


 何も、言えなかった。


「お前は本当に、人が嫌いなのか? 他人を遠ざけたくてそんなことをしたのか? 私はお前に感謝してるし、お前がクラスの皆に嫌われたのが、酷く悲しい。でもお前は……本当に、それでいいのか?」

「…………」


 諭すように、神奈は言葉を紡ぐ。


 赤石は、黙るしかなかった。

 須田の存在が、脳裏を駆け巡った。


 須田に対しては、無類の信頼を預けている。最後に信頼するのは自分であっても、その一つ前にいるのは、須田だった。

 須田にだけは、頼ることも憚らなかった。


 だが、須田だけにあらず他の誰にでもそういった信頼を築くことは出来るんじゃないか。


「…………」


 神奈の言っていることが、ひどく正しいように思えた。


「お前はまだ高校生だ。その時分で誰にでも嫌われていいなんて思うような性格は……歪んでる。そうは思わないはず……いや、そう思って欲しくない」

「…………」


 神奈の一言一言が、胸に突き刺さる。

 自身の性格をえぐり取るような、一言。


 自分の性格は、歪んでいる。


「人間は、一人じゃ生きられない」


 とどめを、刺された。

 もっと人間と関われ。

 卑屈になるな。自重するな。自身の本心を偽るな。


 そう言われた、気がした。


「…………」

「…………」


 神奈は無言で、赤石の言葉を待つ。

 赤石はただひたすらに、押し黙る。


「…………」

「…………」


 嫌な沈黙が、場を満たした。

 

 どうしようか、何か言うべきか、赤石がそう逡巡している時――


「悠! 帰ろうぜ!」


 教室に、元気の良い声が響いた。

 振り返ると、そこには須田がいた。


「と……統……何でお前こんなとこに。部活は……?」


 赤石は茫然とした顔で顔を向ける。


「いや、今日用事あるから休むって言ってきた! ……っていうより、お前こんなとこで何してんだ?」


 須田はカバンを背負い、赤石に歩み寄った。


 神奈は赤石を見る。

 須田との関係性を知っていて言ったのか、今知ったのか。

 神奈は諭すような目で、赤石を見る。

 赤石はやはり、自身の間違いを指摘されているような、そんな気がした。

 

 赤石は須田に向き直った。


「ま……まぁ、さっき神奈先生からなんか書類作り頼まれてさ……。今休憩中だ」

「えぇーーー…………帰ろうぜ悠! さっさと終わらせて帰るぞ!」

「わ…………分かった。神奈先生」

「そうだな…………須田、お前も手伝ってくれるのか?」

「合点承知っすよ! 俺水泳部なんですぐ終わるっすよ!」

「水泳部と書類作りは多分関係ないな」


 赤石は苦笑いを貼り付け、再度書類作りを再開した。

 須田が来たこともあり、ものの三〇分で書類作りが終了した。









「じゃあな、赤石、須田~」

「お疲れ様ーっす!」

「……」


 赤石はぺこりと会釈した。


「悠、早く帰らないと電車が……!」

「お前どうして俺がいる場所分かったんだよ?」

「いや、クラスにいなかったし、昇降口で靴あったから多分どっかに軟禁されてんだろうな~って思ってしらみつぶしに教室回ってたら悠の鞄見つけたってだけかな」

「軟禁て……。っていうか今日は自転車じゃないのか?」

「今日は用事があるから電車でさっさと帰ろうと思ったってわけよ!」

「いや、でもお前書類作り手伝わされたから結局……」

「まぁ、電車じゃなくても良かったな~」

「…………悪いな」

「まぁ、こういうイレギュラーも考慮してのことよ! 全然問題ねぇぜ!」


 須田は親指を上げ、赤石に向けた。

 赤石は須田の話を聞きながらも、神奈に言われたことを反芻し、人と関わることの何が大切なのか。

 神奈が自分に言いたかったことは何なのかを、考えていた。


 赤石は個人的に神奈を、信用に足り得る教師かもしれないと感じていた。

 中学の頃の教師たちとは違い、いじめを止めようという気概が見えた。

 赤石は、神奈に対して悪い印象を持っていなかった。好印象を、持ち始めていた。


 表も裏もなさそうな神奈は信用に足るのかもしれないと、そう思い始めた。



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