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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第11章 卒業式 後編
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第464話 八谷との買い物はお好きですか?



「可愛い服でしょ!」


 ふふん、と八谷は胸を張る。

 困り眉の犬のイラストが描かれ、犬を囲むようにして、ハッピースペシャルドッグとの英字が円形に配置されていた。


「可愛くない……」


 赤石は八谷の服を半眼で見る。


「なんでよ、可愛いじゃない!」

「いや……」


 ハッピースペシャルドッグってなんだよ、と赤石は付け足す。


「というか、高校の頃と服のセンス変わりすぎてないか?」

「高校の頃は……お母さんの趣味だから」

「なるほど」


 八谷が自主的に選んだ服だと思っていたが、その実、八谷の母が選んだものだったのか、と赤石は得心する。

 大学になり、下宿することで、本来見えなかった八谷の趣味や嗜好が見えるようになったのか、と納得した。


「面白い趣味だな」

「でしょ!? あんたもようやく私の趣味の高尚さが分かったようね! ふふん!」

「テンション高いな……」

「当然じゃない!」


 八谷は鼻歌を歌いながら、上機嫌で赤石の前を歩く。

 腕を大きく振りながら、大股で歩く。


「遂に私たちも大学生! これから自由で楽しい学生生活が待ってるんだから!」

「……そうだな」


 赤石は苦笑した。






 赤石と八谷の二人はスーパーに着いた。


「さ、行きましょ赤石!」

「カゴを持たせてくれ、カゴを」

「大丈夫よ、私が持つから!」


 八谷は赤石のカゴをぶんどった。


「日常生活のものも買いたいんだよ」

「良いわよ。どうせあなた力ないんだから私が持つわよ」

「お前よりはある」


 赤石たちは口論をしながら店を回る。


「醤油とか、重い物も買いたいんだよ。家に調味料も何もない」

「じゃあ半分こにしましょ、半分こ」


 八谷がカゴの左側の持ち手を持ち、赤石が右側の持ち手を持った。


「……」


 八谷が率先して商品を選んでいるため、赤石は八谷について行くことしか出来ない。


「面倒くさい……」


 自分で商品を見たい赤石は八谷に視線を送る。

 赤石の視線に気が付いた八谷は、いたずらに笑った。


「だから私が持つって言ってるじゃない。私が持つから、好きな物見つけたら入れていいわよ」

「……そこまで言うなら」


 赤石は手を離し、八谷にカゴを任せた。

 八谷から離れ、目についた調味料をカゴの中に入れていく。


「……」


 赤石が調味料を選び八谷の下に戻ると、八谷は鹿爪らしい顔で食材を吟味していた。


「結局、何か作るつもりなのか?」

「そ!」

「えぇ~……」


 赤石は嫌そうな顔で八谷を見る。


「なによ、私の作る料理が食べられないって言うの!?」


 八谷は赤石に牙を見せる。


「何かどこかで聞いたことのあるセリフだな」


 赤石は八谷の威嚇を黙殺し、再び調味料を探しに行った。


「赤石~」

「ん」


 調味料を選んでいると、カゴを持った八谷がやって来る。


「どうした」

「食材買ったわよ。あとは調味料」


 八谷は赤石と二人で調味料を選び始めた。


「変な調味料買わないでくれよ。使うのは俺なんだから」

「良いじゃない、私がお金出すんだから」

「なんで俺が家で使うのにお前が金出すんだよ」

「え、違ったの……?」


 八谷は小首をかしげた。


「だからカゴ持たせたのかと……」

「なんでお前は出す予定だったんだよ」

「でも悪いわよ」

「俺が使うのにお前が出してたら意味分からないだろ」


 八谷の意図が分からず、赤石は不思議に思う。


「じゃあ赤石の家の調味料、私が使うわけ?」

「そりゃそうだろ」

「悪いわよ」

「卑屈すぎるだろ」


 調味料の少しくらいで気を遣いすぎだろ、と赤石はため息を吐いた。


「でも高いじゃない、調味料って」

「十円二十円くらいだろ」

「……」


 八谷は暗い顔でうつむいた。


「お前変だぞ、最近」

「え?」

「昔だったら自分の家の調味料も買わせてたくらいだろ」

「そんなことしないわよ、失礼ね」

「絶対あったと思う」


 雑談を交わしながら、どんどんとカゴの中に調味料が入る。

 醤油、みりん、砂糖と、重量のある調味料が増える。


「……」


 八谷はカゴを持ち直した。


「やっぱり重いんだろ」

「そんなことないわよ」

「上げたり下げたりしてみてくれ」

「この通り」


 八谷はゆっくりとカゴを上げ下げした。


「もう貸せよ」

「イヤよ!」


 赤石は八谷のカゴを受け取る。

 八谷の手首には、カゴの持ち手の痕がついていた。


「八谷……」

「べ、別に無理なんてしてないから」

「そうですか」

「でもどうしてもって言うなら、任せてあげてもいいけど」

「じゃあ、どうしても持つことにする……」


 赤石はカゴを持ちながら、調味料を入れた。


「お菓子買いましょうよ、お菓子」

「健康に良くないなぁ……」

「いいじゃない、ちょっとくらい」


 お菓子エリアに向かい、八谷がカゴの中にポイポイとお菓子を入れていく。


「あんたもお菓子不足でしょ。私がお菓子供給してあげるわ」

「年末に会うお婆ちゃんか、お前は」


 ため息を吐きながらも、苦笑して、赤石は八谷の様子を伺った。

 八谷は楽しそうにお菓子を選ぶ。


「満足したか?」

「これだけあれば一週間は乗り切れそうね」

「お菓子ごときで何を乗り切るつもりなんだよ」

「心の栄養よ」

「心を育てたり体を育てたり、お前は大変だな」

「あんたも心の栄養足りてないわよ。だからそんな理屈っぽい性格なるのよ」

「へその緒の時からこうなんだよ」


 八谷は浮足だちながら店の中を歩く。

 レジに向かい、赤石は財布を出した。


「私が買ったお菓子の分は私が出すわね」

「もう面倒くさいことしないでくれ」


 赤石はそのまま支払った。


「でも私が買ったんだし……」

「なんでお前はそんなに俺に気を遣ってるんだよ」

「……嫌われたくないから」

「お前……本当に八谷なのか?」


 久しぶりに八谷と行動を共にした赤石は、八谷の行動の変容をいぶかしむ。


「あんたがすぐに怒るからでしょ」

「失礼だな。俺は怒ったことがない」

「ほら、怒ってる」

「あ~うるさいうるさい」


 赤石は八谷の小言を受け流しながら、支払いを終えた。


「家に帰ってからの料理が楽しみね」

「お前の作る料理が食べられなくなった時のために、一応適当な惣菜とかも買っておいたぞ」

「食べられなくなるわけないでしょ。本当赤石って失礼よね」

「歴史の生き証人だからな、俺は」

「何が生き証人よ、何が。人の料理くらいで、そんな大層な言い方するんじゃないわよ」


 二人はぎゃあぎゃあと言い合いをしながら、家に帰る。


 赤石が家の鍵を開ける。


「ただいま~」

「俺の家だから」


 八谷が、いの一番に赤石の家に入る。


「さあ、始めましょうか、八谷クッキング!」

「不安だ……」


 八谷の料理が、始まる。


 

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― 新着の感想 ―
まだ罪悪感と恐怖が残ってんだろうな 頑張れー
いや、買い物カート使いなさいよw 思わず突っ込んでしまった
 八谷の料理が覚悟の要る一大イベントにw  なんか一緒に食料品買い物って疑似同棲感有って良いですね。
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