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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第11章 卒業式 後編
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第462話 ストーカーとの決着はお好きですか?



「ふう……」


 赤石は自宅で、額に張り付いた汗を拭った。

 下宿先に持って行く荷物を、片付ける。


「汚いのとかあるくない?」

「汚いのとはなんだ、汚いのとは」


 嫌そうな顔で、平田が赤石の梱包作業を手伝う。

 先般、平田の引っ越し作業を手伝ったお礼として、平田が赤石の引っ越し作業の手伝いにやって来ていた。


「下着とか」

「気持ちの悪いことを言うな」


 赤石はせっせと部屋の荷物を梱包する。


「お前も統を見習え」


 須田は黙々と梱包作業を進めていた。


「口を動かす前に手を動かせ、手を」

「はぁ? 手伝ってやってんのに言い方うざ。死ねよ、この恩知らず」

「お前の分を手伝ったんだから恩知らずではないだろ」

「女の子の引っ越し作業を手伝えるとか逆にご褒美でしょ」

「お前じゃなけりゃな」

「殺す」


 平田と赤石が取っ組み合う。


「おい、働けお前ら~!」


 暴れる赤石と平田を見て、須田がため息を吐く。


「ふん、命拾いしたな」


 赤石がパンパンと手の埃をはらい、言う。


「お前がな。クソブス」


 平田が、ギラギラとした三白眼で赤石を睨みつける。


「ブス!」

「ブス!」

「ブス!」

「ブス!」

「ブス!」

「罪とブス!」

「はぁ!? 意味分かんねぇこと言うなし! ブス!」

「ブス!」

「ブス!」

「ブス!」

「ブス!」


 赤石と平田が醜い争いをする。


「お~い……」


 須田は淡々と作業を進める。


「俺が本気でお前と争ったら、お前は今頃ぺちゃんこでペラペラになってるからな」


 海外のカートゥーンみたいにな、と赤石は拳を平田に見せつける。


「うるさ」


 平田は赤石との話を切り上げ、作業に戻った。


「……」

「……」

「……」


 三人は黙り込んだまま、作業を進める。


「なんか喋ってくんない?」


 沈黙に耐え切れなくなった平田が、声をあげた。


「むか~しむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました」

「読み聞かせ止めて」

「おじいさんは自宅で在宅勤務をしながらウェブサイトの構築を、おばあさんはネットで動画を投稿してインフルエンサーをしていました」

「滅茶苦茶未来の世界の童話になってるじゃん」


 平田がふふ、と笑う。


「……」

「……」

「そういえば」


 思い出したかのように、赤石が口を開いた。


「お前、ストーカーの件はどうなったんだ?」


 平田にストーカーをしていた元カレの件が、妙に気になった。


「いや……別に、どうもなってないけど」


 平田はバツが悪そうに言う。


「お前が滅茶苦茶して逆恨みされてる、あの元カレの話だよ」

「詳細言わなくていいから」


 平田は眉根を寄せる。


「本当にどうにもなってないから。あれ以降、たまに見かけるだけで……」

「家に住んでる蜘蛛みたいな距離感」


 赤石は平田の元カレの件の片が付いていないことに、薄々引っ掛かっていた。


「でも、たまに見かけるんだな」

「まぁ……見つけたら逃げてるけど」

「いよいよ家の中の虫みたいな距離感」


 茶々を入れる赤石に、平田はむすっとする。


「……」

「……」


 赤石は少しの間、考える。


「やっぱり、謝った方が良いかもしれないな」

「……はぁ?」


 何を馬鹿なことを、と平田は赤石を見た。


「なんで私が謝るわけ? 私被害者だよ?」

「被害者か加害者かは被害を抑える上で、さしたる問題ではない」

「意味わかんないんだけど」


 平田は肩をそびやかす。


「何かあったら警察突き出したり、スタンガンとか持って反撃したらいいじゃん」

「あんまり反抗するもんじゃないぞ」

「女が男に反抗するもんじゃない、って? ヤバ、こいつ」


 平田が赤石を指さし、須田に声をかける。


「ヤバいこと言ってるんですけど~」

「真実は常に人を傷つける……」


 赤石は、よよよ、と泣いたフリをする。


「なんで反抗しちゃいけないわけ?」

「危ないだろ。暴力に暴力で返してたら、想定していたよりもヒドい暴力が返ってくる可能性がある」

「だから女が男に反抗するな、って? 反抗しなかったら一生やられっぱなしじゃん」

「暴力の総量が違うんだから、回避するに越したことはない」


 赤石と平田の話は平行線のまま進み続ける。


「君子危うきに近寄らず、ってやつだ。危ないことはするもんじゃない、どんな状況でも」

「謝るのは違うくない?」


 平田が腕を組み、下唇を噛む。


「つけられるかもしれない、と思いながら今後も生活したくないだろ」

「だから、そういう時はスタンガンとか……」

「勝てるかどうか分からないだろ。突然襲われてもそんなもの出せないだろ」

「じゃあ普通に殴るし、急所蹴ったりするから」

「子供の夢だな。力が弱い以上、必ずお前が負ける」

「だから女は反抗すんな、って? 頭おかしいんじゃない?」

「反抗するな、じゃなく、回避できる問題は出来るだけ回避しろ、っつってんだよ」


 分からねぇ奴だな、と赤石は声を荒らげる。


「お前のストーカーやってるくらいなんだから、そもそも暴力に対する心理的なハードルもきっと低いだろ。軽犯罪に手を染める人間なら、暴力だって簡単に振るうぞ」

「……そんなの、知らないし」


 平田は赤石の言葉の物量に、負け始める。


「暴力を振るわれたら終わりだろ。お前は一方的に負ける。一方的に負ければ当然、なし崩し的に他の犯罪にもつながる」

「……コンボ攻撃じゃん」

「コンボ攻撃じゃないんだよ」


 赤石は苦笑する。


「犯罪に手を染める人間とどう対峙するのか、お前は考えておくべきだ」

「……」


 平田は黙り込む。


「謝ったら許してくれるんだろ? もう謝って楽になったらいいんじゃないか」

「……」


 平田の矜持が、それを許さない。

 赤石にもその気持ちは、よく分かった。


「連絡手段はあるのか?」

「何言われてるか分からないと怖いから、まだブロックはしてないけど……」


 平田は赤石にスマホを見せる。


「……分かった」


 赤石は平田の前に立った。


「なら俺が強制する。お前は元カレに謝って、今すぐ関係を解消しろ」

「……」


 平田が赤石を見上げ、睨みつける。


「お前に一体どんな権限があるわけ?」

「俺が良いと思ってるから、俺がお前に強制してる。俺にそんな権限はない。お前は俺が良いと思ってることを無理矢理やらされる」


 平田の矜持を解くための、方便。

 自分は無理矢理やらされたのであり、矜持が折れたわけではない、と思いたいためがだけの、ただの方便。ただの詭弁。


「連絡した方が良い。俺はそっちの方が良いと思うから」

「……」

「お前は、どうだ」

「……」


 平田は元カレとのチャットルームを開く。


「やればいいんでしょ、やれば……」


 平田は元カレに、電話をかけた。


「……」


 平田の手が震える。

 スマホを持つ手に、力が入る。


 ガチャ、と電話に出る音が、した。


『なに?』


 機嫌の悪そうな男の声が、スマホから聞こえた。


「私だけど」

『……』


 無言。


「あの、前は私が悪かった。私が自分勝手だったから、いっぱい傷つけた。ごめん……反省してる。ごめん、本当に私が馬鹿だった……。ごめんなさい、ごめんなさい」

『……』


 平田は声を震わせながら、そう言う。

 須田も手を止め、静かにする。


 平田は赤石と目を合わせないようにしながらうつむき、震える。


「だから、もう許してほしい。私が全部悪かったから、もう、お願い、許して、欲しい……。ごめんなさい、ごめんない……」

『……』


 平田は震える声で、静かに、言葉を、紡ぐ。


『……うざ』


 スマホから、わずか二文字の言葉が、聞こえてきた。


『きしょいからもう話しかけないでくんない? てか、俺今彼女いるから。こうやって連絡すんのも止めてくんない? お前みたいなブス、もうどうでもいいから。何勝手に一人でヒロイン気取ってるわけ? 本当きしょいわ、お前。ブロックするから、もう二度と連絡してくんな』


 一方的にそう言われ、電話が切られた。


「……」


 平田はペタン、とその場に座り込み、赤石を見上げた。


「お前を悔しがらせたいための嘘か、あるいは本当か。なんにせよ、関係自体は切れたみたいだな」

「は、はは……」


 平田は力なく笑った。


「良かった、良かった……」


 平田は胸を撫で下ろす。


「赤石」


 平田はうるんだ瞳で赤石を見る。


「まぁ……ありがと」


 赤石に手を差し出した。


「やってみたら、案外一瞬なんだ」


 平田は小さく嘆息する。


「まぁ、連絡をしたらお前のことを思い出して再び粘着される可能性もあったから、結果論でしかないんだけどな」

「うざ」


 平田は苦笑する。


「次から、少しは付き合う男を選ぶべきだな」


 赤石は平田の手を取り、引っ張り上げた。


「バカ女が」

「はは、うるせ」


 平田は赤石を小突いた。



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― 新着の感想 ―
櫻井くんは頭弱いんですね。何も言う事はありません。
頭の流血について親御さんは無視だったんかい赤石?
冒頭のバリゾーゴンの投げ合いはまぁ、ある意味この二人にとってはいつも通りだが。なんだかんだ、赤石も丸くなったような感じの流れよのう。平田も、なんだかんだとストーカーはやっぱり怖いとは思ってたんやな……
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