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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第11章 卒業式 後編
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第458話 卒業旅行の計画はお好きですか?



 赤石が高梨の別荘に着いてから、三十分が経った。


「遅いな」


 赤石は時計を見た。


「何が?」

「他にも呼んでるんだろ?」

「誰も呼んでないけれど?」

「え?」

「え?」


 高梨がとぼけた顔をする。


「冗談よ」

「そうか」


 高梨はくすくすと笑った。


「今日は何のために呼んだんだ?」

「主役が来てからのお楽しみよ」

「主役……」


 そうこう雑談しているうちに、高梨の別荘の鐘が鳴った。


「真由美」

「はい」


 那須が玄関に扉を開けに行く。


「お待ちしておりました」


 那須は赤石同様、うやうやしく頭を下げた。


「や~」


 マフラーを巻いた上麦が、玄関から姿を現した。

 上麦は寒さで真っ赤になった頬を手で揉みながら、高梨の別荘に入って来る。


「上麦か」

「や~!」


 上麦は片手をあげた。


「や~!」


 そして赤石の前で再び片手をあげる。


「なに?」

「や~!」


 上麦は赤石を見ながら、片手をあげる。


「やー」


 赤石は上麦の真似をして、片手をあげた。


「赤石、久しぶり」

「ああ、本当に、な」


 上麦はふふふ、と妖しく笑う。


「元気してた?」

「ほどほどだよ」

「大学受かった?」

「ああ、受かったよ」

「そか」


 上麦は服を脱ぎ、ハンガーにかけた。


「お前は?」


 結果を言わなかった上麦に、赤石は息を飲む。

 もしかすると、落ちているのではないか。


「……」


 上麦は赤石に対峙した。


「受かった!」


 上麦は元気に、そう返事した。


「……そうか」


 なんで一回溜めたんだよ、と赤石はため息を吐く。


「大学受験後だと誘うのも一苦労ね」

「そうだな」

「白波、受かった」


 上麦は目をキラキラとさせながら言う。


「おめでとう」

「赤石も」


 上麦はマフラーや上着などを脱ぎ散らかす。


「そんな寒くなかっただろ」

「寒い!」


 上麦は息を吐き、手を温める。


「やっと主役がやって来たわね」

「主役?」


 高梨はソファに座りながら、飲み物を口にした。


「今日は卒業旅行の話をしに来たのよ」

「あ~」


 赤石は膝を打った。


「なるほどな」

「うん……」


 上麦はどこか浮かない顔で、そう答える。


「白波、皆が大学受かる、考えなかった」

「……確かに、そうだな」


 受験後に卒業旅行を企画するのは良いが、受験に失敗した卒業生と成功した卒業生とが入り混じることになる。

 上麦は個々人の気持ちや感情までも斟酌して卒業旅行を考えていたわけではなかった。


「後期試験が残ってるタイミングで卒業旅行をすると後期試験組が行けなくなるわよね。でも後期試験が終わった後だと、もう引っ越しして地元にいなくなってる子も多いのよね」

「なるほどな……」


 盲点だったな、と赤石は顎をさする。


「赤石、どうする?」

「参加者全員の後期試験が終わったタイミングが良いんじゃないか? 合格発表が出る前に、行ける人で行くしかない」

「白波、馬鹿だった」

「考えなしだったのは確かにそうかもしれないな」


 赤石、高梨、上麦の三人はテーブルに座り、卒業旅行の企画を練り始めた。








「集まったわね」


 上麦の到着から一時間、高梨の別荘にある程度の人数が集まっていた。


「おっす」

「よ」


 須田が赤石に挨拶をする。


「赤石……」

「ああ」


 急いできたことがうかがえる、乱雑に着崩している八谷が赤石に話しかける。

 そして黒野、京極、花波、新井、三矢、平田が集合する。


「久しぶり」

「ああ」


 新井がやっほ、と赤石たちに声をかける。


「受かったんだ、皆」

「ああ」

「受かった!」

「受かったけど」

 

 赤石たちが口々に答える。


「揃いも揃って馬鹿みたいな顔してるのに、やるじゃん」

「赤石、叩いて!」

「叩けるか」


 上麦がむき~、と金切り声を上げる。


「私も受かりましたわよ」

「おめでとう」


 花波は上麦の肩を寄せ、そっと抱きしめる。


「私たちは同じ大学ですの」

「俺らも俺らも」


 須田が赤石と肩を組む。


「……」


 黒野が赤石に駆け寄り、赤石と肩を組む。


「小っちゃいんだから止めとけ」


 黒野が爪先立ちをしながら、赤石と肩を組む。


「僕もだよ」

「私も」


 京極、八谷もやって来る。


「ずっと黙ってたけど、僕推薦なんだよね」

「嘘だろ」


 赤石が騙されたかのような顔で京極を見る。


「俺らが受験してる時にお前合格してたのかよ」

「ごめん、言いづらくて……」


 京極が頭をかく。


「皆、久しぶり~」

「久しぶり~」


 新井を中心にして、会話がどんどんと広がっていく。


「……」


 赤石は会話の輪から外れ、壁に背を預けた。


「……」

「……」


 赤石の隣に、ゆっくりと八谷がやって来る。


「久しぶり……」

「ああ」


 八谷は持ってて、と赤石にカバンを手渡した。


「大学楽しみね」

「まぁな」


 八谷は上着を脱ぎ、ハンガーにかける。


「元気してた?」

「ぼちぼち」

「そっか」


 八谷は優しく微笑む。


「大学は下宿?」

「ああ。そろそろ引っ越しする」


 赤石はスマホを開き、カレンダーを見た。


「どこに引っ越すのよ、あんた」

「大学の近く」

「住所は?」

「住所?」


 赤石は胡乱な目で八谷を見る。


「なんでそんな目で私のこと見るのよ」

「個人情報なので」


 赤石は八谷にノーを突き付ける。


「言いなさいよ」

「何が目的だ?」

「あんたがどれだけ乱れた食生活を送ってるのか調査しに行ってあげるわ」

「えぇ……」


 赤石は悩む。


「私のも教えるから」

「なんか、こう……」


 赤石はもやもやとした感情を吐き出す。


「自分の家を人に教えるのって、抵抗あるな」

「別に家教えるくらい良いじゃない」


 八谷は眉を顰め、赤石を睨みつける。


「私のも教えるから、って言ってんじゃん」

「ん~……」


 赤石は悩む。


「実家も知ってるんだから下宿先くらい知ってても良いでしょ、別に」

「俺が授業とか行ってる時に家に入って盗みとかされそうだろ」

「そんなことしないわよ」


 八谷は段々とイラつき始める。


「家の一つや二つでウジウジしないでよ」

「分かったよ……」


 赤石は軽くため息を吐いた。


「後で教えるよ、じゃあ」

「分かった」


 八谷はふん、と鼻を鳴らした。


「赤石君の家の話をしてるのかしら?」


 赤石と八谷の話に、高梨が割って入って来る。


「ああ」

「私も赤石君の家知りたいわね」

「お前は東京行きだろ」


 教えても意味ないだろ、と赤石は一蹴する。


「あっちで面白い物を見つけたらあなたの家に送ってあげるわよ」

「そんな月の探査機みたいな……」

「ふふふ」


 高梨は楚々として笑う。


「ほら、早く教えなさいよ」

「あんまり広めるなよ」


 赤石は家の住所を高梨と八谷に見せた。


「なるほど。メモしておくわ」

「私も」


 八谷と高梨は赤石の住所をメモした。


「いたずらとかしに来ないでくれよ」

「いちいちビビってるんじゃないわよ、あなた。男でしょ」

「初めての下宿生活くらいビビらせてくれよ」


 高梨と八谷は肩をそびやかした。


 上麦たちの卒業旅行の話し合いの結果、卒業旅行は北海道に行くことに決まった。









 櫻井は一人、街中を歩いていた。

 大学の前期試験に落ち、残すところ後期試験のみとなってしまっていた。


 水城と薔薇色の大学生活を送るはずが、一転、浪人へ追い込まれ、憔悴していた。


「……」


 櫻井はふ、と顔を上げた。

 商店街で買い物をしていた櫻井の前方で、見知った顔が歩いていた。

 

 八谷、赤石、上麦が、三人で歩いていた。


「……」


 三人は誰も会話することなく、薄暗い表情でただただ、歩いていた。


「……」


 櫻井は自分の臓物の奥から、ふつふつと怒りが湧くのを感じた。

 さんざ八谷を袖にしておいて、今になっても八谷にこの仕打ちをする赤石に対して、強い怒りを感じた。

 八谷の表情が、現状に不満があることを物語っていた。

 

 もしかすると、間違っているのは自分なのかもしれない。

 だが、間違っているのが自分だったとしても、櫻井は許せなかった。


「……おい」


 櫻井は赤石たちに声をかけた。

 そして赤石を指さす。


「俺と、決闘しろ」


 櫻井は赤石に決闘を、申し入れた。




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― 新着の感想 ―
上麦、癒し枠
流石櫻井……予想を遥かに超えてくる。この大事な時期に勉強もせず、街中ぶらついてるなんて粋だねぇ。流石櫻井さんだぁ、たまんねぇ! 絡まれる赤石は本当に気の毒です。すっごい可哀想。 決闘……楽しみです。 …
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