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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第10章 卒業式 前編
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第442話 卒業式はお好きですか? 3




 卒業式が終わり、いつもの別棟に赤石たちが集まっていた。


「……」


 赤石がスマホの前で腕を組んで座っている。


「……」


 そして高梨、上麦、暮石、鳥飼、八谷、新井、花波、平田、須田たちがスマホを取り囲んで、静かに座っていた。


「……」


 霧島により、櫻井の件が暴露された。

そして時間を置いてしばらくの後、櫻井の取り巻きたちの近況と今の状況も、暴露された。


 櫻井の暴露の後、ちなみに、と追記され、高梨、花波、新井、八谷たちの簡単な近況が、暴露されていた。

 もちろん、櫻井の件と比べれば大きくはないが、赤石たちにとって小さくも、なかった。


 赤石自身が知らなかった件も、その暴露の中に入っていた。


「一旦整理しましょう」


 高梨がパン、と手を叩いて立ち上がる。


「本当にそれ言う奴いるんだな」

「意地悪ね、あなた。大切なことでしょ」


 高梨が額に青筋を立てる。


 八谷は櫻井が水城と付き合った後に赤石に告白し、玉砕。

 高梨は父親から結婚相手を決められていたが反目。

 花波は修学旅行で櫻井と一つ屋根の下で過ごし、その後なんらかの理由で玉砕。

 平田は新井に彼氏を奪われ、失脚。

 新井は平田の彼氏とのいざこざの後、深夜に赤石の家に突撃。一つ屋根の下で過ごした後、状況不明。交際中?


 霧島の暴露には、そう書かれていた。


「これは一体何なのかしら?」


 高梨が赤石を見る。


「大変なこともあったもんだな」


 赤石は無関心に言う。


「あなたは黙ってて」


 高梨の一言で、ぴしゃりと赤石は押さえつけられた。


「まず最初に、これは真実なのかしら?」


 高梨が赤石たちを見回す。


「八谷さん」


 高梨が剣呑な目で八谷を睨みつける。


「真実です」


 八谷は目を伏せたまま、答えた。


「……」


 数瞬の、間が空く。


「私に関する近況は合ってるわ」


 高梨は自身と父親との軋轢を簡単に語った。


「次、平田さん」

「真実」


 ノータイムで平田は答える。


「別に隠してないし」

「……」


 平田はあっけらかんと答えた。


「次、花波さん」

「……」


 花波はもじもじとする。


「書き方に悪意がありますけれど……真実です」

「……」


 高梨は一人を残し、一旦ため息を吐いた。


「全部真実らしいわね」


 ある程度の脚色と若干の認識の違いがあったものの、霧島の暴露は正当性があるものと捉えられた。


「そして最後に新井さん、これ」


 高梨は新井と赤石との一件を、指さした。


「あなたこれ……」

「は~い、真実で~す」


 新井は足を組んだまま、そう答える。


「私たち、付き合ってま~す」


 新井が赤石によりかかった。


「なっ……」


 高梨が顔を赤くする。


「あなた、いつから……?」

「いやいや、違う」


 赤石は手を振る。


「どこから? どこの何がどう違うのよ? 説明して」

「説明するようなことでもないだろ」


 新井の近況を口にして良いかどうかの判断が付かなかったため、赤石は一貫して口を閉じた。


「最低ね、あなた。私たちに黙って」

「仮に付き合ってたとしても誰に言うことでもないだろ、そもそも」

「何でも相談するって言ったじゃない」

「交際相手の相談なんてするやつがいるか」


 赤石と高梨の視線が交錯する。


「まぁまぁ、落ち着いて……」

「あなたのせいじゃない」


 割って入る新井を、高梨が視線で御した。


「どこからが真実なのよ」


 高梨は赤石を見据えて聞き出した。


「夜に赤石の家に行ったのは真実」

「何故?」

「彼に襲われたから」

「彼氏に襲われたから赤石君の家に深夜に行った、って言うの?」


 高梨はぷるぷると震える。


「意味分からない」

「え、いやいやいや。てか高梨さんって何様? 私が夜に赤石の家に行ってたのと高梨さんに何か関係でもあるわけ?」

「……」


 新井が高梨に反撃する。


「仮に私が夜に赤石の家に行って襲って迷惑かけてたとして、だから何? 高梨さんに何か迷惑かけた? 何か不利益被った?」

「そ、それは赤石君が……」

「赤石君が赤石君がって、高梨さんは関係ないよね? 自分には関係ないのに、私のことばっかり責めて、本当何なの? 何様のつもり? なに、高梨さん赤石のこと好きなの?」

「好きなわけないでしょ、こんなうすらとんかち」

「うすらとんかち……」


 新井と高梨が立ち上がり、お互いに牙を見せ合う。

 売り言葉に買い言葉、高梨は新井を潰すためだけに、偽物の気持ちと偽物の言葉を借りる。


「じゃあ別に高梨さんが何か言うことじゃないよね。彼に襲われて怖かったから赤石の家に行った。それだけ」

「なら逆に聞くけれど、あなたは赤石君が好きだから家に行ったんじゃないの?」

「あの時はおかしかったから……。その直前に赤石と会ってて、逃げれるところが赤石の家しか思いつかなかったから……」

「警察に行けばいいじゃないの。何を言っているの、あなた?」

「警察は……」


 新井が話を聞かれれば困ることも、あった。

 大学の掲示板で募集されているバイトに大学生を装って参加したりと、聞きだされれば己自身に降りかかる火の粉もあった。

 グレーゾーンであったとしても、公的機関を介せば新井自身がよりヒドい目に遭う可能性が、あった。


「駄目ね、赤石君。こいつ犯罪者だわ。近づいちゃダメ」

「犯罪者じゃないもん!」


 新井が泣きそうな声で反論する。


「犯罪者じゃないもん……」


 新井が力なく、座り込んだ。


「それで赤石君に力を貸してもらって、そのお礼に一夜を共にしたってことね」


 高梨は新井と赤石がどういう関係になったかが、しきりに気になった。

 何も知らないふりをして、何も興味のないフリをして、無関心を装い、まるでなんでもないことかのように装い、高梨は新井と赤石の現状を、聞きだす。

 まるでそう聞くのが当たり前かのように。

 自分は赤石と新井との関係性を気になっているのではなく、あくまで新井のただれた関係を気になっているだけだと主張せんばかりに、高梨は聞く。


 自分が赤石に気を寄せているということがバレないように。

 自分が赤石のことを知りたいと思われないように。


 偽物の。


 気持ちを。理由を。


 でっちあげて。


「……」


 新井は口を閉じた。

 高梨は是と受け取った。


「気持ち悪い。最っ低……」


 高梨が大きな舌打ちをする。

 ゴミを見るような目で、新井と赤石を見下した。

 八谷もまた、白い目で赤石と新井を見る。


「いやいやいや、それはない。嘘を吐くな、新井。そこは反論するぞ」


 赤石はようやく口を開いた。


「まぁでも一歩前まで行ったし……」

「一歩前まで行ったのはお前だけだ。理性も論理も通じない人間風情はお前だけだ」


 赤石の言葉を聞いて未だ、高梨は、二人を見下していた。


「意味分からないわ。じゃあなんで今まで黙ってたのよ」


 意味不明な赤石の行動を咎める。

 新井と何かがあったから黙っていたんだろう、と予測を立てて、咎める。

 およそ高梨らしくもない、言動。


 赤石のことが気になるが故の、言動。


「新井の話なんだから俺が勝手に話したらまずいだろ」

「こんな女のプライバシーなんて守る価値もないわよ。どうせ自分のせいで襲われたんでしょ? 自業自得じゃない」

「自業自得かもしれないけど、守らないといけないことはあるだろ」

「ないわよ、そんなもの。このクソ女」

「言いすぎだぞ、高梨。可哀想だろうが」


 赤石は新井の肩を持つ。


「は? あなたは一体どっちの味方をするわけ?」


 高梨は赤石に迫った。


「そこの犯罪者とこの私、あなたはどっちの味方をするわけ?」

「どっちの味方をしてるとかしてないとかじゃない。仲良くしろ、って言ってんだよ」

「いつからあなたはそんな博愛主義になったわけ? 自分の嫌いなものをこき下ろして、馬鹿にして、そうして自分が人の上に立ったみたいな顔をして勝ち誇ってるだけでしょ、あなたは。なんで今になって突然その女を庇うわけ? そんなに寝た女が大切なわけ?」

「今日のお前おかしいぞ、高梨。そんなこと言う奴じゃなかっただろ」


 寝た、一夜を共にした、と高梨の口から出るはずのない言葉が出ることに、赤石は疑問を呈する。


「寝たからでしょ?」

「そんなことしてない、って言ってるだろ」

「じゃあ話しなさいよ」

「新井の許可がないと何も言えない」

「新井」

「……」


 新井はこくり、と頷いた。


「話せ」

「……はぁ」


 赤石はため息を吐いた。


「分かったよ、話す。新井もお前らも怒るなよ」

「話によるわね」


 赤石は新井と自身に起こった出来事を、ぽつぽつと語り始めた。




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― 新着の感想 ―
[一言] 高梨のようなキャラクターは、負け犬になったことが成長の一環なのかもしれないな、とふと思いました(苦笑)。
[一言] 赤石はマジで個人としてはほぼ完成の領域にいるよな。
[一言] ここでまさかの高梨、嫉妬からの修羅場である。 櫻井周りの暴露から思わぬ方向に飛び火したものよのぉ
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