表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第10章 卒業式 前編
475/594

第432話 卒業式の決別はお好きですか? 1



「俺たちもついに、今日で卒業かぁ~」


 卒業式当日、今までの三年間に思いをはせながら、男子高校生、櫻井聡助はそう呟いた。


「短いようで長いようで、やっぱり短かったね~」

「はははっ、なんだよ、それ。やっぱり面白いこと言うなぁ」


 隣で微笑む甘利の肩を、櫻井は軽く叩く。


「ねね、何か飲み物買いに行かない?」


 空になったペットボトルを手に、水城が櫻井の下へとやって来る。


「お、飲み物か。良いなぁ~、皆も行くか?」

「あ、行く行く~」

「行く~」


 櫻井は甘利、そして葉月を呼び、四人で階下の自販機へと向かった。


「いやぁ、それにしても色々あったよなぁ、三年間」

「ね~、本当にね」

「私も色々嫌なこととかあったなぁ……」

「おいおい、最後の最後で出てくるのが嫌な思い出って、お前……」

「にゃはは……」


 甘利は頭をかく。


「でも確かにお前、なんか色々あったもんなぁ……。懐かしいよなぁ……」

 

 櫻井の活躍により、甘利は生徒会長である西園寺と別れることとなった。


 西園寺から精神的な圧力と暴力を受け、交際中にも様々なトラブルに巻き込まれていた甘利を、櫻井は放っておくことが出来なかった。

 櫻井の活躍の結果、甘利は西園寺と交際を終了することに成功し、それ以後、甘利と櫻井は急速に距離を縮めていた。


「ほらほら、急ご!」


 水城が櫻井たちを急かし、先んじて階下へと降りて行った。


「ちょっと待ってくれよ、志緒!」

「置いてっちゃうよぉ~」


 階下から水城の声が聞こえてくる。


「卒業式までまだもうちょっと時間あるからそんなに急がなくてもだよぉ~」


 葉月は自身の腕時計を櫻井に見せた。


「おっ、サンキューな、冬華。やっぱりいつも頼りになるなぁ」

「えへへへ」


 櫻井はぽんぽん、と葉月の頭を撫でる。

 葉月は頬を染めた。


 櫻井たちが階下に降り、学内に設置されている自動販売機へと足を向けると、自動販売機を既に利用している学生が、いた。


「何買う?」

「水」

「自動販売機で水とか買うわけ? もったいな。味も付いてない水にお金払うの馬鹿なんじゃない? お金の使い方下手くそすぎ」

「死ねば?」

「なんで水買うだけでそんな言われないといけないんだよ」


 赤石悠人、新井由紀、平田朋美の三人が、自動販売機の前にいた。

 櫻井は遠巻きから赤石たちを視認した。


 赤石は自動販売機に千円を入れる。


「私のも買ってよ」

「なんで俺がお前の飲み物に金払わないといけないんだよ」

「いいじゃん、どうせ。水にお金払うような貴族なんだから」

「貴族じゃねぇ」

「ず~る~い! 前、白波ちゃんにはお菓子とかジュースとか奢ってた! 私知ってるから!」

「お前にはかわいげがない」

「はぁ? 何、かわいげって。男のそういう所本当無理。マジでキモい。結局可愛かったら何でもするんだ。本当男ってキモい。不潔。ゴミ溜め人間だよね、本当に」

「お前キモすぎだろ、ブス」

「ブスはお前だ、ブス」

「ブス!」

「ブス!」

「ブス」

「ブス!」

「ブス!」

「ブス」

「ブス!」

「ブス!」

「止めろ、二対一で。卑怯だぞ、お前ら」


 赤石は新井と平田の挟撃にまいっていた。

 櫻井たちはゆっくりと、自動販売機に歩み寄る。


「てかこいつウザくない? ネットに投稿して炎上させよ?」


 新井が平田に提案する。


「賛成~」


 平田が手を上げる。


「ふざけんな。モラルのないクソガキ共め。炎上するのはお前らだ」

「こいつ口悪いから切り取って投稿したらすぐ炎上するんじゃない?」

「俺が一体お前らに何をしたんだ」

「えい!」


 赤石が平田にかかりきりになっているタイミングで、新井が自動販売機のボタンを押した。

 カフェオレが落ちてくる。


「やった~! ありがとう赤石!」

「おい。本人の同意を得ない自動販売機の使用は窃盗だぞ」

「あ、じゃあ私も」


 平田が自動販売機のボタンを押し、コーラが出てくる。


「おい!」


 赤石は水のボタンを押し、お釣りを受け取った。


「本人の同意を得ない――」

「良いよね?」


 新井が精一杯の可愛い表情を湛える。


「……はぁ、もういいよ」


 赤石はがっくりとうなだれ、小銭を財布に入れた。


「同意なんて後で取れば良い話だよね」


 平田がコーラを口にしながら言う。


「私にかわいげあったから許してくれたんじゃない?」

「現代人に足りない自己肯定感を持っていて羨ましいよ」

「私の可愛い顔が見れたんだから、一三〇円くらい安いもんだよね」

「あこぎな商売をするな」

「私の可愛い顔が見れたんだから――」

「お前は何もしてないだろ」


 新井に同調した平田に、返し刀で切り返す。


「ちっ。ほら」


 平田は赤石の足を踏む。


「止めろ、汚い! モラルのない女め」

「赤石最低~。女の子に向かって本当口悪いよね」

「蛮行に男も女もあるか。法の下では人類皆平等だ」


 赤石たちがやいややいやと騒いでいる最中、櫻井は自動販売機の近くまで来た。


「……」


 赤石は櫻井に道を譲り、端に寄る。

 新井、平田も同様に端に寄る。


 赤石悠人、全ての問題の元凶。

 クラス中で悪意を煽り、広め、拡散した全ての問題の元凶。


 櫻井は新井が赤石に言いくるめられ、今も道を外れてしまっていることを、知っている。

 そして今現在、赤石の近くに平田がいる。


 高校二年の際にさんざ問題行動のあった平田朋美が、そこにいる。

 大方、赤石と平田が協力をして新井をはめたということだろう。

 他大学の男と協力をして新井を篭絡し、手籠めにし、折檻し、弱みを握り、今現在もこうして新井を好きなように操っている。


 平田と赤石が手を組んで新井をゆすることで、新井は今も苦しい目に遭い続けている。


 そして櫻井は、赤石という元凶の問題行動を一部、止めることが出来なかった。


 それだけが高校三年間の、唯一の心残りだった。

 赤石という名の問題児と自分自身が向き合わなかったため、大きな被害を生んでしまった。

 

 かつて自分と仲良くしていたはずの新井は、いまや他大学の男に騙され、赤石にそそのかされ、弱みを握られ続けている。

 よく暴力を振るって来る、という小さな欠点はあったものの、なんだかんだと仲良くしていたはずの八谷は赤石の魔の手にかかり、平田にいじめられ、自分の下を去った。


 そして今、その平田が、こうして赤石と共にいる。


 つまりは、そういうことなのだろう。


 自分の推測は全て当たっていたと、そういうことなのだろう。

 新井を手籠めにしたのも、八谷をいじめたのも、高梨が他の人との付き合いを始めたのも、神奈が学校を去ったのも、花波が病室で泣いていたのも、全て、何もかもこの男が全ての元凶なのだ。


 全ての惨事は、ここから始まった。


 高校三年間の唯一にして最大の障害が、櫻井の前に、立ちはだかっていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 来た!来た!来たー! 大トリがやってきた! あー楽しみ!
[一言] 待ってましたよ、櫻井さん!!ささっ、やっちゃってください!
[気になる点] つーか今日卒業式だよね。 仮にこの妄想が全て事実だったとして、今更何をやろうっての? 今度は自分自身の卒業式すらブチ壊しにする気? [一言] ここまでキモい妄想で、無実の人間を本気で陥…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ