第431話 卒業式前の自由時間はお好きですか? 2
「赤石君」
平田が赤石を殴っている途中、赤石たちの下に一人の女子高生が現れた。
「やっほ、今起きたとこ?」
女子高生、京極は片手をあげ、ひらひらと振った。
「眠たい顔はいつも通りなんだよ」
赤石は平田の攻撃を押しとどめながら、言う。
「こんなところで何してるの? それも二人で」
「襲われている。助けてくれ」
「大丈夫!?」
京極は平田に加勢した。
「なんでだよ」
「冗談冗談」
京極は平田を押しとどめ、赤石と平田を引き離した。
「こんな朝から喧嘩? 暇だね、二人とも」
「そいつが!」
平田が赤石を指さす。
「話は署で聞こうじゃあないか、赤石君」
「何でもう俺が悪者になってんだよ」
赤石は口を尖らせる。
「何があったの?」
「簡単なゲームをしてそいつが負けたんだよ。そしたら急に怒り出した。近年の若者はこらえ性がなくていかんな」
「おじさんみたいなこと言ってる」
京極が平田を見る。
「詳しく説明しろや、ブス!」
平田が京極にことの経緯を話した。
「それは赤石君が悪いよ」
京極は平田の肩を持った。
「平田さんが言いたくもないことを、赤石君がゲームにかこつけて無理矢理言わせたってことでしょ? それはちょっと横暴なんじゃあないかなぁ」
「いや、別にそこまでじゃないけど……」
「道理ならあとからいくらでもつけれるもんだな。やりたくないならやらなければいい」
「優越的な関係を盾に平田さんを操ったんだから、平田さんが怒るのも当然だよ」
「なんだ、お前。俺が平田より優越的な位置にいると思ってるのか? ふざけるな。春巻きにするぞ」
「はいはい、そこまでそこまで」
新井が赤石と京極の間に入って来る。
「卒業式の朝から喧嘩するの止めてくんない? 士気下がるからさぁ……」
新井がため息を吐く。
「赤石君のせいで怒られちゃったじゃないか」
「なんで俺のせいなんだよ」
京極はへそを曲げながら、卒業文集を取り出した。
「皆、卒業文集持ってる?」
「さっきもらったよね」
「ええ、持ってますわ」
新井と花波が卒業文集を取り出す。
「赤石君、全然載ってなかったね」
「陰に潜み、陰に生きる人間だからな」
「いつからそんな設定が……?」
花波がいぶかしむ。
「お前はよく載ってるな」
京極は卒業文集のいたるところで、写っていた。
「結構良い顔で写ってるな」
「そう言われると照れるなぁ」
「あ、私も結構写ってるくない?」
「私はあまり写っていませんわ……」
花波がしょんぼりとした顔をする。
「お前は途中で引っ越してきたからな。前の学校には写ってるんじゃないか?」
「それは困りますわ。だってどんな写真が掲載されているか見れませんもの」
「地味に今後の生活で引っ掛かりそうだな」
花波は難しい顔をした。
「え、ところで何しに来たんだ?」
京極が来た目的を今さらながらに、赤石が問いただす。
「ああ、皆にメッセージ書いてもらおうかな、って」
京極が卒業文集の後ろの白紙のページを開いた。
既に多数のメッセージが、卒業文集に書かれていた。
「人気者だな、おい」
「名残惜しいよ、卒業するのが」
「……そうだな」
赤石たちは今日、卒業する。
長かった三年間、高校三年間の全てが今日、終了する。
「……っ」
花波が涙ぐんだ。
「おいおい」
赤石は花波を心配する。
「色々あったね、三年間」
新井が花波につられ、涙ぐむ。
「ちょっとちょっと」
赤石は新井を心配する。
「……なんで皆もう泣いてるの」
京極が笑いながらら、目尻を拭う。
「なんだ一体、次々と感染して。インフルエンザウイルスか、お前らは」
赤石は三人に突っ込みを入れる。
「赤石君は泣かないの?」
「心は泣いてるよ。大雨だ」
「詩的だね」
「ものの見方まで変わっている……?」
新井たちが感傷に浸り、お互いに高校生活の三年間を称え合った。
「あ、で、赤石君たちにもメッセージ書いて欲しいな、って思って」
京極が卒業文集の白紙ページを指さした。
「このページ目一杯にサインを書いたらいいんだな?」
赤石は袖をまくり、腕をぶんぶんと回す。
「そんなプロ野球選手のサインみたいなの止めてよ~」
京極は泣きながら、笑った。
「他の皆も書くんだから~」
あはは、と京極は赤石を叩く。
いつもと感じの違う京極に、赤石はぎょっとする。
「不気味な空間だな」
赤石はページの端に赤石と書き、丸で囲った。
「なんでサイン~!? しかも印鑑型の!」
京極が赤石に詰めよる。
「サインじゃ駄目なのか?」
「赤石君が高校三年間で僕に何を思ったのか、書いて欲しいよ」
「いうほど関わりないしな……」
「そんなことないよ。色んなことがあったじゃないか、僕たちの間には」
「給食費を盗んだことがバレて退学になりそうだった新井を助けるために、タイムマシンに乗り込んだり……」
「そんな冒険活劇はしてないよ!」
赤石は渋々ながら、京極の白紙ページの端に、サインを書いた。
「読んでいい?」
「どうぞ」
京極は赤石の書いたメッセージを読んだ。
「うっ……ひっ……」
京極は再び、号泣した。
「何書いたの、赤石……」
「赤石さん、また意地悪したんですの?」
新井と花波が赤石を見る。
「違う違う。普通のことを書いたぞ」
「赤石君のメッセージで感動して……」
京極はハンカチを取り出し、涙を拭った。
「何書いたらそんなことなるの?」
「いっそ振り切ろうと思ってな」
赤石は京極と会ってから今まで、そして未来について希望と郷愁とを同時に味わえるようなメッセージを、書いていた。
「僕も赤石君と会えて良かったよ……」
京極は手を差し出した。
「はぁ……」
赤石は京極と握手する。
「北秀院に受かったら、これからも一緒なんだけどね」
「そうだな」
京極はにか、と微笑んだ。
「あ、それでね」
京極が続ける。
「もし良かったらなんだけどね、えっとね」
京極が両手の指の腹を合わせる。
「僕も卒業旅行混ぜてもらえたらなぁ……って」
もじもじとしながら、赤石に懇願した。
「卒業旅行!?」
「何それ!?」
花波と新井が食いついた。
「また面倒くさいことになってきたな……」
赤石は上麦との間で仮に決まった卒業旅行の話を、新井たちにした。
「何それ!? 超楽しそう! 絶対行きたい!」
「まぁ俺がどうにか出来る問題でもないけど」
「何したら一緒に行けるわけ?」
「いや、そんな条件とか――」
「卒業~」
卒業旅行の話をしている途中、上麦がクラスにやって来た。
「やほ~」
「良い所に」
赤石は上麦に卒業旅行の話をパスした。




