第415話 自己採点はお好きですか?
後日――
「よし」
「よし!」
「よしっ」
「よし……」
「やるか」
高梨の別荘に、赤石たちが集まっていた。
赤石、須田、高梨、花波、上麦、船頭、三千路、七人の高校生が、一堂に会していた。
「じゃあ準備は出来たわね、あなたたち?」
「おう!」
「ああ」
「もちろん!」
共通テストの答えが発表されたため、自己採点が開始される。
「良くても悪くても恨みっこなしよ」
「大学の合格発表とかも誰かと一緒に見るか一人で見るか、って別れるよな」
共通テストの回答を手に、それぞれが丸やバツをつけていく。
「うわぁ!」
船頭が声を上げる。
「うわああぁぁ!」
落ち込んだ声を出す。
「うるさいぞ、お前」
「恨みっこなしだけど、恨みっこなしだけど!」
船頭が涙目になりながら自己採点する。
「悪い点だったら慰めてね、皆」
「……」
「……」
「しどい……」
ペンの音だけが響く部屋で、船頭は涙目になりながら答え合わせをする。
「まだ結果出てないから、慰めれるような点数かどうか分からないんだよな」
そう言う船頭の手は、赤石の予想よりもはるかに丸を付けている回数が多かった。
「百四十点くらいだと思ってるけど」
「どうやったら百四十点になるのさ! ぷんすこ!」
丸を付ける赤石たちの顔つきは険しい。
一つのバツが、小さくも、大きな負担と、なる。
「……」
「……」
「……」
ペンの音だけが、響く。
「皆で集まって採点したのは失敗だったかしらね」
高梨がぽつり、と呟いた。
「全然全然! むしろごめんね、私が皆巻き込んでこんなこと言っちゃって」
「そうだぞ」
「悠人は黙ってて」
船頭は重苦しい雰囲気を吹き飛ばすように、笑う。
「……」
そして一人、上麦はポテトチップを食べながら採点をしていた。
パリパリと、ポテトをしがむ音が部屋に響く。
「バリバリうるせぇよ」
「うるさい」
上麦が赤石を睨みつける。
「ポテト欲しいならそう言う」
「いらん」
上麦はポテトチップを三枚重ねて食べる。
「下品な食べ方だな……」
「……」
上麦は赤石を見た。
「手が……」
「おい!」
上麦が服で手を拭こうとしたため、赤石が慌てて止める。
「どこで拭こうとしてんだよ」
「手、汚くなったから」
「どんな衛生観念してんだよ」
「じゃあ」
上麦が赤石の服で手を拭こうとする。
「止めろ!」
「赤石で拭く?」
「違う! 止めろ汚い!」
赤石は上麦にティッシュを渡す。
「なんで?」
「服が汚れるだろ」
「服、洗う」
「服は洗うけど完全に綺麗になるわけじゃないだろ。服は何回も使うんだから、もっと綺麗に扱うべきだ」
「赤石、うるさい」
「普通なんだよ、俺は」
上麦は指を拭いた。
「いいじゃない、赤石君の服なんだから。ちょっとくらい拭かせてあげなさいよ」
「なんでだよ」
高梨が赤石を見ることなく、言う。
「色んな人に赤石君の服で拭いてもらったら、少しはアート性も出るでしょ」
「俺の服にアート性なんていらん」
赤石は白のシャツを着ていた。
「いいじゃない、えい」
高梨が赤石の服の裾を掴む。
「止めろ! 汚い!」
「冗談よ」
高梨は不服そうな顔をする。
「指が汚れてないのに汚いはないじゃない」
「汚れてて然るべき流れだっただろ」
「綺麗な指よ。あなたはすぐ怒るわね、本当。カルシウム足りてないんじゃないの?」
「また古臭い例えを……」
「うるさいよ、二人とも!」
船頭が赤石たちをたしなめる。
「怒るなよ」
「悠人が先に怒って来たんじゃん」
「俺は怒ってないよ。いつだって泰然自若、なだらかで山も谷もない生活を心がけている」
「はいはい」
そうも言いながら、赤石たちの採点は進んでいった。
「統貴、今どこかしら?」
「俺、数学」
「数学、今どこの採点してるのかしら?」
「いや、そうじゃなくて……」
須田が返事に困る。
「数学、水取って」
「いや、数学じゃなくて」
須田が船頭に水を渡す。
「ふふふ」
花波が静かに笑った。
「今日初めて喋ったんじゃないか?」
赤石が花波を見た。
「楽しいな、と思いまして」
「楽しいならいいけど……」
須田が困惑した顔で言う。
そして何度か雑談を挟みながら、赤石たちは採点を終えた。
「……」
「……」
上麦が最後に、採点を終えた。
「……」
「……」
お互いが牽制しあう。
「どう?」
最初に口火を切ったのは、上麦だった。
「……」
「……」
お互いのことを思いあい、誰も発言できない。
「悪く、なかった?」
「……」
「……」
全員が、頷いた。
「……そう。なら良かったわ。今日はこれで解散。あなたたち、受験が終わるまで気を抜いちゃ駄目よ」
「ありがとう、高梨ちゃん」
「ありがとう存じます」
「ありがとー」
そうして赤石たちは散り散りに、高梨の家から帰路についた。
「……」
「……」
赤石は須田、船頭、花波、上麦と共に歩いていた。
「頑張ろうね、あと二カ月」
「……」
あはは、と船頭が笑う。
「本当に、悪くなかったのか?」
赤石は船頭に問いかけた。
「……うん、この点数だと、北秀院も射程圏内」
船頭が力こぶを作る。
「実は、俺も結構良くてさ」
須田が頬をかいた。
「俺も、悠人一緒に北秀院行けるかも」
「え、嘘~!? 一緒にがんばろ!?」
船頭が須田の背中をポンポンと叩き、はしゃぐ。
「皆さんは北秀院に行かれるのですね」
船頭たちを見て、花波がうらやましそうに言った。
「お前は?」
「私は……」
花波はうつむいた。
「私は、別の大学に行きますわ」
「……まぁ、大丈夫だって! 大学入ってからも絶対会えるし!」
船頭が親指を上げる。
「皆、もし別々の大学に行っても、ちゃんと集まろうね!」
「……そうですわね」
「おー」
「おう!」
船頭たちは楽し気に、笑った。
「赤石君」
後日、高校も自由登校になり、あとは大学受験を残すのみとなった。
そんな赤石の家に、未市が訪ねていあ。
「共通テストは、どうだったかな?」
未市が赤石の回答を見る。
「これは……」
赤石はかなりの高得点を、取っていた。
「うん、良い点だね、後輩」
未市は穏やかな口調で、赤石を呼んだ。
「後輩、この点数ならもっと上も目指せるかもしれないよ」
「……いや」
赤石は振り向いた。
「行きますよ、北秀院」
「そうかい?」
未市が不安そうな顔をする。
「元々その予定でしたから」
「そうか……」
ふっ、と未市は微笑んだ。
「私は後輩、君のことを買ってるんだ。共に、充実した大学生活を送ろうではあるまいか」
未市が赤石の肩にポン、と手を置き、前方を指さした。
「赤石君が北秀院に入ってきたら、お姉さんがエッチなことも教えてあげるかもしれないよ」
「やる気出てきました」
赤石は一意専心、勉学に、励んだ。




