第412話 共通一次試験はお好きですか? 1
赤石たちは早めに、共通一次の会場にたどり着いた。
「ふ~……」
船頭が手を震わせる。
「アル中か?」
「アル中じゃない!」
船頭は手をこする。
「緊張してきた……」
「ガラにもなく、私も……」
三千路と船頭は二人でガタガタと震える。
「あ……」
突如、船頭が青白い顔をした。
「筆記用具忘れたかも! ヤバいヤバいヤバヤバい!」
船頭がカバンを開き、漁り始めた。
「お前どうやってテスト受けるつもりだったんだよ」
赤石が船頭に筆記用具を貸した。
「マジ!? 悠人の分は!?」
「まだあるから大丈夫」
「マジ天使! 命の恩人! さす悠人!」
船頭はその場で飛び跳ねる。
「……」
そして再び暗い顔をした。
「ごめん、やっぱりあった」
「ふざけんなよ、お前」
船頭は赤石に筆記用具を返した。
「ちょっと今から皆で持ち物チェックしあわない?」
「不安になることを言うな」
赤石たちは全員で持ち物チェックを始めた。
船頭がごそごそとカバンの中を漁る。
「皆で撮ったプリクラある?」
「あるかそんなもん」
須田がカバンを漁る。
「一年前に上げた、ガムのあたり券持ってる?」
「あたり券なんかもう売ってるところないだろ」
須田の冗談をいなす。
赤石たちは持ち物をチェックし終えた。
「大丈夫そ……」
「出る前にしとけば良かったな。悪い」
「ううん、私が悪いから」
持ち物をしまった。
「ちょっと落ち着こ、皆!」
「お前だよ」
船頭は大きく息を吸った。
「吸って~」
三千路が船頭の腹をさすりながら言う。
「吸って~」
「すぅ~」
「吸って~」
「すぅ~」
「吸って~」
「すぅ~」
「吸って~」
「掃除機か!」
船頭が三千路に突っ込みを入れる。
「吐いて~」
「はぁ~~~~」
船頭は大きく息を吐いた。
「緊張取れた?」
「……ちょっと取れたかも」
船頭はぶるぶると一度震え、脱力した。
「じゃあそろそろ行こっかな、私」
「あ、私も」
赤石たちと船頭、三千路は会場は同じだが、試験を受ける部屋が違っていた。
船頭がわざとらしく泣きじゃくり始める。
「うちはな、ここで別れんねん」
赤石たちは船頭に視線を寄せる。
「皆、頑張って合格しよな!」
船頭が赤石たちに赤石たちに拳を向ける。
「何そのキャラ」
「関西人女の子キャラ。かわいいやろ?」
「あんまり関西弁の女子が可愛いって風潮はないような……」
「せい!」
船頭が赤石の頭にチョップする。
「失礼な男はな、チョップしてええねん」
「良くないだろ」
赤石は頭をさする。
「じゃあ皆、頑張ろうね」
再び船頭が拳を向けた。
「頑張れよ」
「頑張ろうぜ!」
「皆で!」
四人は拳を合わせた。
「じゃあ、また~」
「じゃあ~」
三千路と船頭はそれぞれの持ち場へと向かった。
「よし、俺らはちょっと時間あるからそこらへん散歩すっか」
「ああ、そうだな」
赤石と須田は二人で散歩をし始めた。
「よ~」
「お、お前にしては早ぇじゃん!」
「まぁまぁまぁ」
須田が話しかけられる。
「お前私服かよ!」
「いや、私服か制服かとか書いてなかったじゃん!」
「確かに!」
須田が話しかける。
その後も、周囲を歩くたびに須田が話しかけられる。
「お前有名人だな」
「たまたま知り合いになる人が多くて、な~」
「な~、じゃないんだよ」
赤石と須田は辺りを漫然と見渡しながら歩く。
「やっぱ皆同じ会場だから、見知った顔が多いよな」
「ちょっとほっとするよな」
会場には赤石たちの同級生が数多くいた。
「赤石さん、須田さん」
「赤石~須田~」
花波と上麦がやって来る。
「ごきげんよう」
花波がスカートの端をつまみ、軽く膝を曲げた。
「なんで西洋の挨拶なんだよ」
花波はうふふ、と笑う。
「可愛くありませんくて?」
「俺好きなんだよ、この挨拶」
「あ、俺も」
須田が赤石の肩をポン、と叩く。
「これから俺と挨拶するときはずっとそれにしてくれ」
「良いですわよ」
花波は再びスカートの端を持ち、膝を曲げた。
「赤石、須田、お菓子」
上麦が須田のポケットをまさぐる。
「こらこら」
須田が上麦を引きはがす。
「お菓子なんて入ってないよ」
「須田、ポケットいつもお菓子入ってる」
「今日はテストだから」
「マイペースな奴だな、こんな時でも」
上麦は身軽な格好で来ていた。
「なん――だよ!」
「……?」
遠くから、男の声が聞こえた。
「なんですの?」
「なんだろう」
赤石たちは声のする方に顔を向けた。
「まぁでも近づいて行くのも野次馬っぽくて嫌だよな」
「そうですわね」
「なんだろうなぁ」
続々と人だかりが出来ていく。
遠くから聞こえる怒号に、赤石たちは小首をかしげていた。
「こういう時に私たちの考えが似通っているのは嬉しいことだと思いますわ」
「なんかあった時に、何があったんだ、って問題の発生源に向かってくのはなんか嫌だよな」
「お上品じゃあ、ありませんわよね。まぁ赤石さんのそれはただの天邪鬼でしょうけれど」
「皆がやってるってことは、俺はやらない方が良いってことなんだよな」
「扱いづらい人ですわね」
花波たちが談笑をする中、人だかりはどんどん大きくなっていた。
「持ち物の確認でもしましょうか」
「また?」
「初めてですわよ?」
「……いや、こっちの話だ」
花波たちは持ち物を確認し始めた。
「もうすぐ試験が始まりますもの」
赤石たちは試験が始まるのを、座して待つ。
そして、人だかりの中心で、
「なんでお前らは友達を助けてやろうって思えねぇんだよ!」
一人の男が、叫んでいた。




