表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第10章 卒業式 前編
454/594

第411話 高校最後のお参りはお好きですか? 3



 赤石たちは神社にやって来た。


「上げて!」

「我慢しなさい、白波」


 上麦が高梨に両手を広げ頼むが、高梨は一蹴した。

 赤石たち一行は神社の中でさまよい歩いていた。


「何も見えない!」

「そこまでじゃないでしょう」

「ご飯! 食べ物!」

「何をしに来たのよ、あなたは」


 何も口に出来ていない上麦が、がなり立てる。

 赤石は一行から外れ、一足先に鈴を鳴らしていた。


「……」


 高校三年生、最後の参拝。

 大学受験を目前に控え、赤石は物々しい面持ちでいた。


「……」


 一通り参拝を終えた赤石は、引き返す。


「後輩ちゃん、待ちなよ」

「ああ、先輩」


 赤石は未市に腕を掴まれる。


「何を一人で先に行ってるんだい」

「一人で行動するのが好きなんですよ」

「皆はあんなに楽しそうにしてるっていうのに」


 未市は高梨たちに目を向けた。


「人が多いと口を開くのが難しいじゃないですか」

「だから一人で?」

「集団の中で押し黙るより、一人で行動してる方が自由で気が楽ですよ」

「君は本当にひねてるねぇ。ちょっと参拝してくるから待ってな」


 未市も同様に参拝に行く。


 赤石は未市をしばらく待った。


 参拝を終えた未市が戻って来る。


「おまた~」

「はい」

「おまた!?」

「……」


 赤石は苦虫を噛み潰したような顔をする。


「もうすぐだね、共通」

「ですね」


 未市は露骨に話を変えた。


「緊張してるかい?」

「ああ、まあ」


 赤石は参拝客を目で追う。


「結局、大学は北秀院で良いのかい?」

「はい。北秀院で」

「じゃあ、あと半年もしないうちに君は私の後輩だね」

「受かってれば」


 未市は、うんうん、と鷹揚に頷く。


「まぁ共通の点数次第で狙えるか狙えないかが変わるので、何とも言えないところではありますけど」

「それは分かってるよ」


 赤石は息を吐き、マフラーで口元を隠す。


「ラストスパート、頑張ろう」

「ありがとうございます」


 赤石は頭を下げた。


「悠人~」


 赤石たちの下に、船頭がやって来る。


「おみくじ引いた?」

「ああ」


 赤石は吉、と書かれたおみくじを見せた。


「あ、しょっぼ~。私中吉!」


 船頭は中吉のおみくじを見せた。


「吉は中吉より上だぞ」

「嘘!?」


 船頭は自身のおみくじを隠した。


「……」


 そして船頭はすりすりと赤石の下ににじり寄る。


「悠人、大学どこにするの?」

「北秀院」

「……そっか」


 船頭は視線を落とした。

 少し寂し気な表情で。


「何故?」

「……う、ううん」

「……」


 顔色が良くない。


「私、やっぱり北秀院無理かも」

「……」


 赤石は寂しそうな顔をする船頭を見る。


「……っ」


 口を開き、言葉を発する前に、再び口を閉じた。


「何かあったのか?」


 ゆっくりと、尋ねる。


「もうすぐ共通でしょ?」

「ああ」

「なんか参考書とかやってても、結構正答率低かったりして、さ……。なんか自信なくなっちゃった」

「……」


 赤石は複雑な顔をする。


「大丈夫!」


 未市が船頭の肩を抱いた。


「大丈夫! 自分を信じて頑張れば、ちゃんと結果はついて来る!」


 慰めるように、未市は言う。


「あとちょっと、ラストスパート、皆で頑張ろう!」


 船頭は顔を上げ、微笑んだ。


「そう……だよね、こんな所で落ちてちゃ駄目だよね」


 目尻を拭う。


「うん、頑張る。私、悠人と一緒の大学行きたいから」

「お前が受かって俺が落ちたりしてな」

「ちょっと!」


 船頭が赤石を小突いた。


「あなたたち、もう参拝はすんだのかしら?」


 高梨が遅れてやって来る。


「ああ」

「大学受かると良いよね、って話してたっちゃ!」


 一転、船頭は明るい表情で振り返った。


「皆いるかしら?」

「来てる来てる~」


 高梨の後ろから三千路たちがやって来た。


「皆、受験まであとちょっとだけど、頑張りましょう」

「は~い!」

「緊張してきた……」

「大丈夫だよね」


 緊張する者、勇猛果敢に武者震いする者、新しい世界を希求する者、無感情な者、それぞれ三者三様に複雑な表情を湛える。


「今日はこれで解散よ。あとはそれぞれで行動しなさい。皆、頑張って大学に受かりましょう。帰ったら勉強するのよ」

「「「おーーーーー!!」」」


 赤石たちは、解散した。








 そして共通一次試験、当日。


「ふ~……」


 赤石はいつもより少し早くに起き、会場へ行く準備をして玄関に座っていた。

 ピンポン、とインターホンが鳴らされる。


 赤石は玄関の扉を開けた。


「あ、悠人~。おぽよ~」


 見たことのない髪の巻き方をした船頭が、玄関の前に立っていた。


「おぽよ~」

「……誰だお前は」


 髪を巻き、高校の制服を着ている船頭を、認識できない。


「いやいや、ゆかりちゃんじゃん」

「チャンジャ?」

「いや、チャンジャじゃなくて。どこ取ってんの」


 船頭はくくく、と笑う。


「服が違うから誰か分からなかった」

「ああ、これ?」


 船頭は服の裾を掴み、その場でくるりと一回転した。


「どう?」

「高校生っぽいな」

「それ褒め言葉?」

「普段はもっと、オーエルっぽい感じだから」

「老けてるってこと?」


 怒るよ、と船頭が額に青筋を立てる。


「老けてると捉えるか大人っぽいと捉えるかは人によるだろ」

「なんかヤな感じ」


 船頭は赤石の足を蹴った。


「脚を蹴るな、脚を。俺の黄金の右足に何かあったらどうする」

「何が黄金だ。泥団子でしょ」

「俺の泥団子に何かあったらどうするんだ」


 あははは、と船頭は呵々大笑した。


「お~っす」

「揃ってるねぇ~」


 須田と三千路が共にやって来た。


「はぁ~、寒い寒い」


 三千路が手に吐息を当て、赤石のポケットに右手を突っ込む。


「あぁ~、あったかい」


 左手を須田のポケットに、右手を赤石のポケットに入れ、三千路は幸せそうな顔をする。


「持っとけよ、カイロ。指がかじかんで試験中に動かなかったらコトだ」


 赤石は三人にカイロを渡した。


「わ~、ありがと~」


 船頭がカイロに頬ずりをする。


「止めろ、低温火傷するぞ」

「ゴメンナサイ」


 船頭はぱっ、と離した。


「今日は共通一次、よし、行くか、お前ら!」


 須田が拳を掲げる。


「全員受かるぞ!」

「ああ」

「もち!」

「もちもち!」


 赤石たちは共通一次の会場へと向かった。


 赤石たちの最後の高校生活が、終わろうとしている。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] それぞれの話が面白いから読めてるけど、どこを目指した作品なのかがよく分からなくなって来た。
[一言] そしてあのプロローグへ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ