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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第10章 卒業式 前編
452/594

第409話 高校最後のお参りはお好きですか? 1

 


 十二月二十四日――


「ハッピークリスマ~ス」

「……」


 赤石は玄関で、未市と対峙した。


「なんですか?」

「なんですか、って、いや、ハッピークリスマス、って」

「なんですか?」

「分からない子だね、君も」


 未市は靴を脱ぎ、赤石の部屋へと向かった。


「もう本当に受験近いんで邪魔しないで欲しいんですけど」

「あと一カ月もないよね~」


 未市が赤石の部屋に入る。


「今日はクリスマスだから、後輩の言うことなんでも一つだけ聞いてあげる。何が良い?」

「帰ってください」


 赤石の部屋はプリントが散らばり、荒れて汚くなっていた。


「こんなにお部屋散らかしちゃって。お姉さん悲しいぞ」

「なんでこんなに何も通じないんですか?」


 赤石は未市を黙殺して、勉強机へ向かった。


「もういいんで、そこらへんで静かにしててください」

「つれないなぁ、折角のクリスマスだっていうのに」

「受験生にそんなものはない」


 赤石は小さくため息を吐く。


「いや、ね、受験当日は会場まで行くでしょ? だからお姉さんが一緒に帯同してあげよう、って話をしにだね」

「普通にチャットで良いですよ」

「あのね、君ね、文字と文字なら心が通じ合わないでしょ」

「文字の方が効率が良いんですよね。動画なんて無駄な時間多すぎて見てられないですよ」

「君は本当に若者かね!」


 やれやれ、と未市が肩をそびやかす。


「もう正直、これくらい一カ月前じゃ復習とかに力を入れた方が良いよ。新しいこと今からしだしても追いつかないから」

「入れられるだけ入れたいんですよ」

「なにそれ、えっち」

「覚えたことが頭からあふれそうで怖いです」

「受験生だねぇ」


 未市は近くに落ちていた雑誌をぱらぱらとめくる。


「あ、あとそろそろ起きる時間とかを揃えておいた方が良いよ。夜更かしとかして起きる時間が不定期になるとよくないかな。本番当日だけ早起きして頭が回らなくなったりするから」

「有益な情報ありがとうございます」


 赤石は未市に背を向けたまま頭を下げた。


「先輩もクリスマス会か何かあるんじゃないですか、部活の」

「あ、そうそう。今日夜からクリコンがあって」

「じゃあもう早く行った方が良いですよ」

「お姉さんを早くどかそうとするんじゃない」


 未市はスマホを開き、時間を見た。


「年末年始はどうする?」

「あぁ、まぁ年末年始はご参拝くらいは行こうかと思ってます」


 赤石は頭をかいた。


「誰と?」

「統とかですかね」

「ふ~ん……」

「……」


 未市はそれっきり、押し黙った。


「じゃあ邪魔してもあれだから帰るね、私」

「え、あ、ああ。はい」


 急に心変わりしたな、と赤石は未市を玄関まで送る。


「頑張ってね、受験」

「ありがとうございます……」


 思ってもない素直な応援に、赤石は面食らった。


「……あと一カ月」


 赤石は呟きながら、部屋へ戻った。






 一月一日、高梨の別荘のベルが鳴った。


「あら、いらっしゃい」


 寝間着姿の高梨が、ドアを開けた。

 赤石は高梨の姿を見ると、少しぎょっとする。


「ああ。お邪魔します」


 そんな態度をおくびにも出さず、赤石は高梨の別荘に入った。


「おかえりなさいませ、ご主人様」


 赤石が玄関に入ると、那須がうやうやしく頭を下げた。

 再び赤石はぎょっとする。


「にゃん」


 取って付けたかのように、那須は両手で猫のポーズを取った。


「ただいま帰りました……」

「……」


 那須は表情を一つも変えないまま、手を下げた。


「お外は寒くらしたでしょう? コートをお預かりいたします」

「何の説明もなしですか?」


 那須は赤石の着てきたコートを預かり、ハンガーにかけた。


「お嬢様にこうやりなさい、と」

「そうよ」


 高梨は既にストーブの近くでソファに座り、足を組み、紅茶を嗜んでいた。


「金持ちの敵みたいな座り方してるな」

「何よ、金持ちは敵って言いたいの? いかにも貧乏人が言いそうな言葉ね」

「そんなことは言ってない」


 コートを預かってもらった赤石は、高梨の反対側に座った。


「なんでそんなところに座ってるのよ。対談じゃないんだから」


 赤石と高梨はストーブを真ん中にして、お互い反対のソファに座り、対峙していた。


「ずばり、高梨さんが成功した秘訣とは?」

「盤石な環境と不断の努力、持って生まれたこの才能と、あとは一つまみの運ね。あなたのような貧乏人には分からないでしょうけど」

「なんて不愉快なやつなんだ」


 赤石は顔をしかめた。


「なんで那須さんにあんなことやらせたんだよ」

「いいじゃない、可愛いんだから」


 ねぇ、と高梨は那須に言う。那須は深々と頭を下げた。


「那須さんも、こんな奴の言うこと聞かなくていいですよ」

「お気遣いいただきありがとうございます」


 にゃん、と再び那須が付け加える。


「可愛いでしょ?」

「まぁ、否定はできないけど、無理矢理やらせたら不信感とか湧くだろ。後々裏切られたりしかねないぞ」

「死になさい。うるさいわね、分かったわよ。死になさい」

「死になさいでサンドイッチをするな」


 高梨は那須に好きにするように伝えた。


「ありがとうございます、お坊ちゃま」

「いつの間にかお坊ちゃまになってる」


 那須は赤石のコートにスチームアイロンをかけていた。


「赤石様のお顔をお久しぶりに拝見できて、嬉しく思います」

「あぁ、ありがとうございます。俺も那須さんと久々に会えて嬉しいです」


 頭を下げる那須に、赤石も頭を下げる。


「お嬢様も赤石様と仲違いをした、と言って少しお気を揉まれておりましたので」

「ちょっと!」


 高梨が那須の言葉を止める。


「余計なことは言わないで」

「すみません、差し出がましいことを」

「本当よ」


 全く、と高梨は足を組みかえた。


「そんなこと思ってくれてたのか」

「赤石様と仲違いをした、と心配になられていらっしゃいました」

「黙りなさい、那須」

「はい」


 高梨は頬を膨らます。


「次喋ったら減給よ」

「なんでだよ。俺ももっと喋りたいぞ」

「うるさいわね、分かったわよ。じゃあ好きにしなさい」

「ありがとうございます」


 はぁ、と高梨はため息を吐き、紅茶を飲んだ。


「というか、いつまであなたはそんなところにいるのよ。早くこっちに来なさい」


 高梨は隣をポンポン、と叩いた。


「ああ」


 赤石は高梨の傍に歩み寄る。


「じゃあ私の前で正座して」

「ここに?」


 高梨は足で床をコンコンとつつく。


「汚いだろ」

「失礼ね、綺麗よ、私の家なんだから」


 赤石は高梨の前で立ちすくむ。


「頭から紅茶をかけてあげるわ」

「嫌な金持ちそのものじゃねぇか」

「美少女の飲みかけの紅茶をかけてもらえるのよ? ご褒美じゃない」

「ご褒美じゃない」

「美少女は何をやっても許されるのよ」

「傲慢だ」


 赤石は普通に高梨の隣に座った。


「今日はお参りに行くのよね?」

「ああ、そうだな」


 一月一日、赤石たちは高梨と合流して参拝に行くことになっていた。


「これから準備をしてお参りに行く形ね」

「そうだな。にしても」


 赤石は辺りを見渡した。


「まだ誰も来てないのか?」


 赤石以外、誰も来ていなかった。


「当然よ、まだ集合時間まで一時間近くあるんだから」

「そんなに?」


 赤石はスマホを見た。


「俺が間違えてたのか?」


 集合時間は八時、と書いてあった。


「文字くらい読めるようになりなさいよ、うすらとんかち」

「滅多に聞かない言葉で責められてる」


 赤石は小首をかしげた。



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― 新着の感想 ―
赤石の合否がでるまで心が落ち着かない
[一言] なんかほのぼのしてしまう
[良い点] 赤石が一人だけ早めに呼び出されてる理由を 想像してニヤニヤしちゃうけど、 想像通りならもうちょい態度を軟化させてもいいんじゃよ? と思いつつ、高梨はやっぱりこうじゃないととも思ってしまう。…
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