閑話 高校一年の夏休みはお好きですか? 3
三千路はレジ袋を持っていた赤石を見た。
「悠、なんか面白いこと言ってよ」
「ふざけるな。言えるか」
「あ、じゃあ俺が言う言う!」
須田が前に出る。
「どうぞ」
「最近悠と公園行ったんだけどさ、アオスジアゲハが飛んでるかと思ったら、ゴミが宙を舞ってただけだった」
「…………」
最近そんなことあったな、と赤石は思い出す。
「二点」
「低っ!?」
「その場のノリとかもあったんでしょうけど、あんまりおもしろくないわね。はい、じゃあ悠」
「そうだな……」
コホン、と一つ咳払いをする。
「隣の家に囲いが出来たんだって。へ~…………。で?」
「一二点」
「低すぎる。いや、これは『格好良い』と来ると思わせておいて、『で?』って一瞬で現実的に戻る所が面白くてだな」
「説明するともっと面白くないわね。五点」
「「なんだよこいつ」」
須田もアイスを食べ終わり、赤石のレジ袋にゴミを入れた。
三千路はすっ、と立ち上がり、歩き出した。
「おい、どこ行くんだよ」
「めっ……!」
どこかに行こうとする三千路の後ろ髪を、赤石は掴む。
ポニーテールとして一つにまとめ上げていることも相まって、引っ張り易い形状になっていた。
「ちょっ、引っ張るなよ悠! 髪もげるでしょ!? あなた女の子の髪の毛がどんだけ大事か分かってんの!? 大事にとっておいたプリンと同じくらいの大切さだから!」
「いまいち大切さが伝わらん」
「あんた私の髪の毛抜けて生えなくなったら責任取れんの? しばくぞ!」
「その時は俺がウィッグを作る職業に就くわ」
「責任の取り方が異次元なんだけど!?」
三千路は引っ張られた後頭部をさすりながら、顔をしかめた。
「いや、アイスなくなったし、もう一本コンビニで買ってこようと思っただけだから」
「じゃあ俺の分も頼む」
「あ、俺の分もよろしくー」
須田も乗じて、三千路に頼む。
「いや、あんたらも食べるんなら悠か統のどっちかが行けよ。私女だし、男が行くのは当然でしょ?」
「こんな時だけ女を使いやがる」
赤石は須田とじゃんけんをした。
須田に負ける。
「じゃあ悠、任せた!」
「悠、私はバニラアイスでー」
「うっせぇな…………」
赤石はとぼとぼと、コンビニにアイスを買いに行った。
「買って来たぞ」
「サンキュー、悠」
「ありがとな」
赤石はそれぞれアイスを手渡した。
「いや、ちょっと! これさっきゴミ入れたレジ袋じゃん! ちょっと私の渡しなさいよ!」
「一点だな」
「はぁ!?」
「私の渡しなさい、シンプルすぎる。」
「おぉっと、ここで最低点が更新されたぞぉ!」
須田が合の手を入れる。
「いや、違うって! 違うから! 別に面白い事言おうとしたわけじゃないから!」
「統、判定を」
「どぅるるるるるるるるる、一点です!」
「あああああぁぁぁぁ!」
三千路は頭を抱え、声を荒げた。
「あ、そういえば悠、お金」
「一四〇〇円したぞ」
「何買って来たのよあんた!」
小銭を渡そうとした三千路は声を荒げる。
須田も小銭を持ち、赤石に渡そうとしていた。
「嘘だ。金は別に要らない。そこまでしなかったしな。統も別にいいぞ」
「悪いな、悠」
「悪いわね、悠」
須田と三千路は手をひっこめた。
三人はアイスを取り出し、銘々に口にする。
須田はアイスを食べながら、三千路に話しかける。
「すう、今日の月すげぇ綺麗だぜ。悠が気付いたんだけどさ、見てみろよ」
「え、何あんたら。二人して私に告白?」
「「なんでだよ!」」
苦虫をかみつぶした顔をする三千路に、赤石と須田は突っ込む。
「いや、ごめん。私モテるから。選ぶのは忍びないからどっちか片方にしてよ」
「どっちか片方ならいいのかよ」
「うふふ、私の体を見ると良いわ」
三千路は立ち上がり、蠱惑的なポーズをとる。
赤石と須田は三千路を見る。
「いいね」
「はい」
「ちょっと止めてよ。なんかそういう目で見られると恥ずかしくなる」
三千路は顔を赤くして、椅子に座った。
「うふふ、男の子ってこういうのが好きなんでしょ?」
三千路は足をしきりに組み替える。薄い服が三千路の魅力を一層引き上げる。
「魔性の女か、お前は」
赤石は突っ込む。
三千路はしきりに足を組み替えていたが、突如硬直した。
「どうしたんだ、すう?」
「いや、ちょっと…………」
三千路は顔を青くする。
問い尋ねる須田への返答も、訥々としていた。
「さっき足組み替えてたら圧迫されてちょっとトイレに行きたくなった……」
「すう最低」
「品がない」
赤石と須田は諫める。
三千路はもじもじと体を捩らせる。
「ちょっ、ちょっと、言葉にしたら本当にトイレ行きたくなってきた! 助けて、悠、統!」
「そっちに木があるだろ。そこらでしろよ」
「出来る訳ないでしょ!」
「昔はしてたじゃねぇか」
「止めてよ! 昔のことは掘り起こさないで!」
赤石は三千路の返答を聞き、レジ袋を差し出した。
「仕方ないな。やるよ」
「いや、全然助かる雰囲気じゃないから! 全然救えてないから!」
「仕方ないな、悠。帰るか」
「そうだな。仕方ないな」
「本当ごめん」
赤石と須田はアイスを食べながら歩き出し、三千路を家まで送った。
「じゃっ…………じゃあ、私本当に帰るけど、あんたら次は絶対私呼びなさいよ!? 本当次誘わなかったらしばくからね!」
「分かったから早く帰れよ」
「じゃっ、じゃあ本当ごめん! ばいばい!」
「じゃあな」
「ばいばい」
赤石と須田は手を振り、三千路を送った。
そして、赤石と須田は二人で元来た道を帰り出した。
赤石は須田に話しかける。
「夜の散歩の美点の一つ、静かな空間がすうのせいで壊されたな」
「いやぁ、本当すうはうるさいなぁ」
「ま、ああいうのもたまにはいいかもな」
「ははっ、言えてるな」
赤石と須田は笑い合う。
「次はあいつもちゃんと呼んでやらなきゃなぁ~……」
「そうだな……」
赤石と須田は、互いに見合った。
そして、高校に入っても何一つ変わらない三千路の性格に、くく、と笑った。
これにて一章は完結です。
次からは二章です。