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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第9章 新井由紀:Rising
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第391話 得ポイントはお好きですか?



 11月になった。


「……」


 電車が揺れる。

 朝。

 八時前、赤石はいつものように通学用の電車に揺られ、外を眺めていた。


「ここ、いい?」

「……」


 女子学生が、赤石に話しかける。


「どうぞ」


 赤石は窓の外を見たまま、そう答えた。


「ありがとう」


 女子学生は赤石の隣に、座った。


「……」

「……」


 赤石と女子学生は二人、外を見る。


「ブス」

「いたっ」


 女子学生が赤石の脇腹を突いた。


「ブス?」

「いや、効果音」

「平田か、お前」

「効果音だってば!」


 女子学生、京極は眉を八の字にして笑った。


「知り合いが隣に座ったんだから声くらいかけなよ?」

「ゲロ吐いてもいいなら」

「そんな大げさな……」


 赤石は再び窓の外を見た。


「怒った?」

「俺は常に怒っている」

「やだね~」


 京極はスマホを取り出した。


「これ、昨日のハロウィンで着た服なんだけど」


 京極は赤石の顔の前にスマホを持ってきた。


「止めろ馬鹿」


 赤石は京極の手を退けた。


「そんなに僕のこと嫌い?」

「酔うんだよ、小さい画面見てると」

「~~~~~」


 京極は納得できない、といった表情で口を尖らせる。

 暫くスマホを操作し、イヤホンを付けた。


「……」

「……」


 京極の聞いている音楽がシャカシャカとわずかに音漏れする。


「ねね」

「何?」


 京極は片方のイヤホンを外した。


「これいい曲だから聞いてみな?」


 京極は片方のイヤホンを赤石に渡した。


「いや、大丈夫です」


 赤石はイヤホンを京極に返す。


「何故?」

「お前が使った奴だから」


 京極は驚きの顔をする。


「汚いってこと?」

「いや、そうは言ってないけど……」


 赤石はぶつぶつと喋る。


「じゃあつけて?」

「……」


 赤石は嫌々ながら、京極から受け取ったイヤホンを軽めに装着した。


「他人のイヤホンつけるのって俺、結構心理的な拒否感とかあると思うけどな」

「そうかな? 僕はそうでもないけど」


 京極は音楽を再生した。


「……」

「……」


 二人で音楽を聴く。


「これ何の曲か知ってる?」

「知らない」

「最近流行りの曲なんだけど」

「俺が流行りに聡い人間に見えるか?」

「浮世離れはしてそうだね」

「結構良い感じにオブラートに包んでくれたな」


 京極は音量を下げる。


「音楽聞かないの?」

「聞かない」

「何故?」

「聞いても良いことないから」

「良いことって何?」

「役に立つこと」

「役に立つこと?」


 京極は小首をかしげる。


「別に音楽聞いても身体能力とか向上しないし」

「そんなこと言ったらなんでも同じじゃないか。意味のあることばかり突き詰めていったら、人生なんて無駄の連続みたいなものだよ。合理性を求めるのは結構だけれど、そんな合理的なことばかりで人間は出来てないよ?」

「俺にとっては明確に役に立つものと役に立たないものが別れてる」

「役に立つものは?」

「金になるもの」

「役に立たないものは?」

「それ以外」

「……」


 京極は苦虫を噛み潰したような顔をする。


「僕は?」

「俺の味方なら役に立つ。敵なら役に立たない」

「…………」


 京極は眉を顰める。


「友達いなくなるよ?」

「構わない」

「僕のことどう思ってる?」

「人間」

「好き?」

「俺に好意的なら好き。悪意的なら嫌い」

「そうじゃなくてさ……」


 はぁ、と京極はため息を吐く。


「自分の人生をそんなに投げやりに生きていてもいいの、君は?」


 京極は腰に手を当て、赤石を説教する。


「さっきの答えは別におかしくなかっただろ」


 赤石は京極に反論する。


「自分に好意的か悪意的かで人の心は動かないと思うよ? それこそ、身を焦がすような恋だったり、一目惚れだったり、身分差の恋だったり、叶わない恋だったり、悲恋だったり、人の心はそんな損得勘定で出来てないと思うな、僕は」

「漫画の読みすぎだ。現実読めよ」

「……」


 京極は頬を膨らませる。

 

「ゲロ吐け!」


 京極は赤石の頭を持ち、振った。


「止めろ、馬鹿!」


 暫く赤石の頭を振った京極は満足したのか、赤石を解放した。


「もうお前どっか違う席行けよ」


 赤石は嫌そうな顔で京極を見る。


「私が可愛くないから?」

「卑屈すぎるだろ。平田か、お前は」

「なんでさっきからちょくちょく平田さんの名前が出るの?」

「意味はない」


 赤石は京極と目を合わせないまま、言う。


「こっち見てよ」

「男は背中で語る」

「背中見せて喋ってるだけでしょ」


 京極はつまらなさそうな顔をする。


「赤石君は自分の役に立たないものをどう思ってるの?」


 京極は赤石の肘掛けに腕を置く。


「どうでもいいと思ってる。興味もない。勝手にすればいい」

「音楽も何も聞かないの?」

「クラシック音楽は少しだけ聞く」

「格好つけてる?」

「教養として」

「役に立つから?」

「ああ」


 つまらないな、と京極は爪をいじる。


「一目惚れとか推しとかいない?」

「しないしいない」

「女優とかアイドルとか好きな人いない?」

「いないし興味ない」

「はぁ……」


 京極は大きなため息を吐く。


「本当に男の子? 男の子ってこのくらいの年齢だったら毎日やましいこと考えて、毎日女の子のことばっかり考えてるんじゃないの?」

「どうだろうな。それなりに興味はあるけど、たまたまアイドルも女優も興味ないだけ」

「恋とかしないの?」

「…………」


 ここで赤石が、無言になる。


「恋はするんだね」

「難しい質問だ」


 赤石は外を見ている。


「好きな人、誰?」


 京極が直接的に、尋ねた。


「俺に好意的なら好きだし、悪意的なら嫌い、って言っただろ」

「なんでそんな機械的な恋愛導出方法なの?」


 京極は赤石の回答に不満を漏らす。


「結構的を得たこと言ってると思うけどな」

「的を射る、ね」

「先ほど的を得る、と申し上げましたが、的を射る、の誤用でした。お詫び申し上げます」

「ニュースキャスターみたい」


 京極がくくく、と笑う。


「好きって言われてからあの人のことが気になる、とか優しくされるから気になってる、とかよく言うだろ。好意から来る親切がそのままそいつの得点になってるみたいな所もあると思うけどな」

「ふ~ん……」


 京極は顎をさする。

 難しいね、と小さく呟く。


「好意から来る親切を確認することで、この人が自分にどれだけ尽くしてくれるのか、って値踏みしてるのかもな」

「う~ん……」

「まぁどちらにせよ、人間の交流なんてのは所詮、なんでも損得勘定で出来てるんだろうな」

「……」


 勝手に結論付け、黙った赤石に京極は不満を隠せない。


「じゃあ結局相手にどれだけ得をさせるかが恋愛ってこと? 違うと思うな、僕は。だってさんざ頑張って来た子が、何もしてない子に取られることだってあるもん」

「顔見てるだけで得ポイントが溜まっていく仕組みなんだろ。あるいは、行動によって得られた得ポイントを帳消しにするくらい、顔を見るだけで損ポイントが発生してしまっているのか」

「そんなゲームじゃないんだから……。人の容姿のことをとやかく言うのは良くないと思う」

「平田に伝えたい言葉ベストワンだな」

「赤石君は間違ってるよ」

「間違ってて結構」

「馬鹿」


 高校近くの駅までの一本道になり、電車の揺れが安定してきた。


「そろそろ着くな」


 赤石は足元のカバンを膝の上に置いた。

 そこで初めて、京極と目が合う。


「……」


 京極が赤石と長い間、目を合わせる。


「赤石君と長く目を合わせちゃったから、損ポイントが溜まっちゃったな」


 京極がにやり、と笑った。


「そのまま破産しろ」


 赤石はぶっきらぼうに言う。


「冗談じゃないか」

「人の顔のことを言うのは良くないと思いま~す」

「厳しいね」


 京極は残念そうに笑う。


「僕は得ポイント発生するかな?」


 京極は赤石と目を合わせた。


「人によるだろ」

「赤石君的には?」

「……」


 赤石は肩をそびやかした。


「ノーコメントで」

「気になるなあ」


 京極もカバンを持った。


「人生のポイントって分からない方が精神衛生上、多分いいだろ」

「そだね」

「あなたのポイントは十八億四八〇〇万位です、とか言われたらやる気失せそうだ」

「違いない」


 赤石と京極は立ち上がった。

 電車が速度を落とし、停車を開始する。


「おっ……」


 赤石がたたらを踏み、背中から倒れた。


「危ない!」


 京極が片手で手すりを持ち、赤石の背中を抱き、赤石は転倒を免れた。


「サンキュー」


 赤石は態勢を立て直した。


「今のは得ポイント溜まったかな?」


 京極がしたり顔で赤石に聞く。


「洗濯機購入したときくらいポイント溜まった」

「結構、赤石君の得ポイントって溜まりやすいんだね」


 京極は微笑し、髪をかき上げた。



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― 新着の感想 ―
[一言] 更新ありがとうございます。 京極さん距離感バグッてないですかね? 私なら絶対恥ずかしい勘違いを起こす。ましてや高校生の多感なお年頃であればなおさらである。 ぶれない明石は凄いなぁ。 京極…
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