第390話 ディスカウントストアはお好きですか?
櫻井と京極はハロウィン用の仮装をするため、近くのディスカウントストアへとやって来ていた。
「そろそろハロウィンも近いから、コスプレ用の服もたくさん置いてあるね」
「そうだなぁ」
櫻井と京極はコスプレ用の衣装が置いてあるエリアにやって来た。
「お、これとか良いんじゃないか?」
櫻井はサンタのコスプレ衣装を持ってきた。
「ちょちょちょちょっと、僕にはまだ早い衣装かなぁ~」
京極は目を白黒させながら、ミニスカサンタの衣装から目を逸らす。
「それにまだちょっとクリスマスまで気も早いし……」
「そうかぁ」
櫻井はミニスカサンタの衣装を返しに戻った。
「ふ~ん……」
色々なコスプレ衣装があるな、と呟きながら歩き、コスプレ衣装やコスメ用品のエリアを京極は練り歩く。
「まだ……僕には早いよね」
京極はメイク道具を手に取り、戻した。
「あ」
商品を見ながら歩いていたことで、曲がり角から出て来た男とぶつかりそうになる。
「すいません」
カゴにいくつかの食料を入れている男はそう言い、そのまま直進した。
「……あれ?」
見たことのある上背だった。
「もしかして、赤石君?」
通り過ぎた男を後ろから追いかけ、京極は赤石の肩をポンポン、と叩いた。
「……」
赤石はバツの悪そうな顔をしたあと、軽く手を上げた。
「すいません、今プライベートなんで……」
「なんでそんなファンと芸能人みたいな関係性なの?」
京極はふふ、と微笑する。
「こんなところで会うなんて奇遇だね、赤石君。何してたの?」
「買い物。じゃあ」
赤石は即座に会話を切り、京極から離れた。
「ちょっとちょっとちょっと、なんでそんな逃げるみたいに」
京極は赤石の腕を掴む。
「もうちょっと話していこうよ、折角こんな所で会ったんだから」
「急いでるから……」
「ご飯買ってる人が急いでることないでしょ」
京極は赤石のカゴの中を見て指摘する。
「もしかして指名手配されてる?」
京極が赤石をからかう。
「いや、でもこれは何か僕に隠したいことがあるような――」
京極が赤石の顔色、様子から事態を察する。
赤石が京極から距離を取り、ゆっくりと後ずさっている時、
「悠人~、お菓子入れて良い~?」
赤石の背後から女がやって来て、両手に持っていたお菓子を赤石のカゴに入れた。
「キツネのバンド、これやっぱりチョコ味よりイチゴ味の方が美味しいよね~。でも最近なんか外側の色までイチゴっぽくなっちゃってショックって言うか、なんか外側はチョコでいて欲しかったって言うか、視覚情報が味覚にまでなんか変な影響及ぼしてるような気がしてさぁ~……」
女は目を合わせない赤石を瞥見し、赤石の前方にいる京極に目を配った。
「え、知り合い?」
赤石は誰とも目を合わせないように硬直していた。
「えっと……」
京極が言葉に詰まる。
「赤石君の彼女さん……かな?」
女を見て、そう言った。
「あ~~……」
女は少しの間、声を上げる。
「――そう! 彼女一号で~す」
そう言い、女は赤石の腕を抱いた。
「あ、ああ……あ、はは……」
京極は苦笑する。
苦笑しか出来なかった。
「違う。だから早く離れたかったんだよ……」
赤石は女を引きはがした。
「あとなんで複数人いる前提なんだよ」
「悠人、この人は?」
女が京極を見た。
「京極。同じ高校の同級生」
「あ~、そゆことね」
女はぽん、と手を打った。
「赤石君、こちらは?」
京極が聞く。
「船頭。他校の知り合い」
「よろ~」
船頭が崩した敬礼をした。
「二人は……随分仲が良いんだね」
京極があはは、と笑う。
「マブだから」
べ、と船頭は舌を出す。
「距離感おかしいんだろ、ギャルだから」
「それ偏見~」
船頭は奇怪なポーズと共に反論する。
「また何かの流行にハマって……」
もういいだろ、と言い赤石は京極から離れようとする。
「あ、僕さ」
離れようとする赤石に、京極が話しかけた。
「ハロウィンが近いからコスプレ用の衣装を買いに来てて」
何故足を止めさせたのだろう、と半ば自身の行動を不思議に思いながら、京極はつらつらと話す。
「赤石君もこの前、僕はガーリーな格好をした方が可愛いって言ったでしょう?」
「そんなこと言ったの?」
船頭が赤石を見る。
「言ってない……」
赤石はそわそわとしたまま、話半分で答える。
「人間が自分の身に起きたことを話す時って、毎回微妙に誇張されてるんだよな」
「似たようなことは言ったよね?」
「ごめん、何言ったのかも覚えてない」
赤石は軽く頭を下げる。
「じゃあ言ってないか言ったか分からないじゃないか。制服以外の格好をするのなんて僕的にも結構冒険だし、赤石君もハロウィン一緒に仮装しないかい?」
京極が赤石に手を差し出した。
「いや、そういうタイプじゃない」
赤石はノーを突き付ける。
「ハロウィン嫌い?」
「そんな浮ついたキャラじゃないから」
「自分のキャラにこだわってたらいつか後悔するんじゃないかな? 赤石君が僕に言ったことだよね?」
「受験なんだし、勉強しないといけない」
「今は遊んでるよね?」
「いや、違うくて」
何を言っても空返事が返って来る。
「今日は泊まりで勉強するから、そのための食材を買いに来ただけで、別に遊んだりしてるわけじゃない」
「え?」
京極は赤石と船頭を見る。
「その子と二人で?」
「いや、違う」
「あ、じゃあ僕も服買って着替えてそっちの合宿に顔を出したり……」
京極が言いかけた時に、後方から声がかけられた。
「お~い明日香、探したぞ、本当。ちょっとコスプレエリアから遠くに行きすぎてない――」
櫻井と赤石の視線が、交錯する。
「あ、今日一緒に来てた櫻井君。赤石君も知ってるんじゃないかな?」
後方からやって来た櫻井を、京極が紹介する。
「……ああ。じゃあ、また学校でな」
「行こっか、悠人」
船頭と赤石が京極と櫻井から離れ、その場を後にした。
「あ、僕も合宿行っていいかな?」
「今日は予定があるから難しい」
「でもさ」
「またな」
赤石は京極の返答を待たずして、手を振って別れた。
「赤石君~」
京極が赤石の後を追おうとしたところで、櫻井が京極を止める。
「邪魔しちゃ悪いし、こっちはこっちでやってこうぜ」
「あ、ああ……」
京極は赤石と船頭を瞥見した。
「しいたけとえりんぎって鍋に入れるのどっちだっけ?」
「知らん」
「でもエリンギが俺を呼んでる気がする」
「気のせいだ」
「須田ちってやっぱり野生の勘みたいなのあるよね」
「マジ?」
「エリンギごときで野性を感じるな」
見れば、長身の体躯を持つ須田が、赤石のカゴに食材を入れていた。
須田は赤石の頭の上に手を置き、わしゃわしゃと髪をかき乱した。
赤石は須田の肩を殴る。
「……そうだね」
京極は赤石たちを見送り、櫻井とコスプレ衣装を再び選び始めた。
「明日香、どういうのを着たいとかある?」
櫻井が複数のコスプレ衣装を持ち、京極の体に沿わせる形で確認を始めた。
「今の僕が、少し変われるような服が欲しい……かな」
櫻井と京極はそのまま二人でコスプレ衣装を探していた。




