第389話 ランキングはお好きですか?
十月下旬――
放課後、教室の隅で男子生徒たちが寄り集まっていた。
「やっぱ清水が一番じゃね?」
「分かる。一番可愛いよな、このクラスで」
「でも南が持って行ったからなぁ~、畜生」
「どうせすぐ別れるって」
「「あはははははは」」
人のいなくなった教室で男たちが笑う。
「じゃあ一位は清水で異論なし?」
「異論な~し!」
付き合いたい女ランキング、と書かれた紙の一位に清水の名が記入される。
「ワースト三も決めね?」
「あ~ね」
「ワーストはさすがに決まってるっしょ」
男たちは教室に張り付けられている座席表を外し、持ってきた。
「いやぁ、こんだけいるから決め放題だなあ」
男たちは座席表とランキング用紙とを交互に見る。
「やっぱ京極は外せねぇっしょ」
「「「それ~~」」」
発言者に男たちが指をさす。
「てか女じゃないでしょ、あいつ」
「分かる。どんだけでかいんだよ、っていうか」
「五百センチくらいあるんじゃね?」
「巨大ロボットじゃねぇか!」
「「ぎゃはははははは!!」」
膝を叩き、男たちは笑った。
「やっぱ自分よりデカい奴は無しだよな」
「街中歩けねぇもんな」
「それに京極、色気とかねぇし、シンプルに嫌だわ」
「女子からキャーキャー言われてんのもなんか嫌だよな」
「「「分かる~~」」」
「京極自身も俺らのこと見下してるだろ、絶対」
「あいつ男より力あるもんな」
「そもそも俺らなんかと付き合いたいとすら思ってないだろ」
「論外論外」
男たちは最下位に京極の名を据えた。
「そもそも自分自身で女諦めてるみたいな節あるもんな、あいつ」
「自分は諦めてます、みたいなこと主張してるところも痛いよな」
「本当それ。諦めてるフリしてるところが痛いわ」
「諦める前にまずは自分で出来ることやれよ、って思うよな」
「全くだな」
「まぁでもどうせ何言われても気にしないだろうし、直接言っても多分何も思わないだろうな」
「いや、巨大ロボットの感情か、って!」
「「ぎゃはははははははは!!」」
男たちの笑い声と共に、一人の男が教室に入って来た。
「おい」
「…………?」
紙を中心にして寄り集まっていた男たちに声がかけられる。
教室の入り口に立っていたのは、櫻井だった。
「誰、あれ?」
「あれ櫻井じゃね?」
「あぁ、卒業式の時になんか騒ぎ起こしたやつじゃね?」
「あれ原因不明らしいけど」
「俺は何か警報機? の故障か何かって聞いたけど」
「いや、それ噂ってだけで本当は誰が何をやったか分かってないらしいぞ」
「でも火のない所になんとやら、だぞ」
「え、誰の知り合い?」
男たちはざわざわと騒ぐ。
「そんなことして、恥ずかしくねぇのかよ」
「……?」
男たちは顔を見合わせた。
「何が?」
中心にいた男、笹山が答えた。
「京極はそんなやつじゃねぇよ!」
櫻井は拳を握りしめる。
「…………」
男たちは黙り込んだ。
「何も知らねぇくせに勝手にランキングなんて付けてんじゃねぇよ!」
櫻井は男たちに向かってカツカツと歩き始めた。
「え、君に何か関係ある?」
「京極自身がそんなこと書かれて、なんとも思わねぇと思ってんのかよ!」
「どうせ俺らの中でしか回らないんだから、何とも思わないでしょ」
笹山が立ち上がり、櫻井に対峙した。
「こんなものっ……!」
櫻井が机の上のランキング用紙を取り、ビリビリに破った。
「……ヤバ、こいつ」
笹山が櫻井から一歩後退する。
「お前ら、陰でコソコソ京極のこと悪く言って、恥ずかしくねぇのかよ!」
「別にランキング付けるくらい、誰でもやってるだろ。お前の中学の卒業文集でもランキングのオンパレードだっただろ」
「誰が一番ブスか、なんて可哀想だろうが!」
「いや、付き合いたくないランキングだから誰がブスかの話はしてないけど。それとも、自分はブスとは付き合いたくないって主張?」
笹山はせせら笑う。
「…………」
櫻井は体を震わせる。
「京極が知ったら可哀想だろうが!」
「陰口は陰で言うから陰口なんだけど。本人に届かないし、知りようもないって」
「誰かが京極に言ったらどうすんだよ!」
「君が言わなかったら一生届かないし誰も知らないけど」
「……」
笹山は櫻井にちぎられた用紙を拾う。
「あのさあ。京極と君がどういう関係か知らないけど、無関係の他人の陰口に文句言う前に、まずは本人に言ってやりなよ。陰口言われるようなことしてるんだから」
「…………」
「君もブスとは付き合いたくないのか知らないけど、京極本人にブスは止めろ、とか言ってやったら?」
笹山は肩をそびやかした。
「てめぇ!!」
櫻井が笹山に殴りかかる。
「「おいおいおいおいおいおい!」」
笹山も櫻井に対応して殴りかかろうとしていたが、周囲の男たちが櫻井と笹山を止める。
「京極が可哀想だろうが!」
櫻井が男たちの制止を振り切り、笹山にタックルをした。
笹山はよろけ、たたらを踏む。
「他人の話に勝手に入り込んでくんなよ!」
「笹山、止めろって!」
笹山も櫻井にタックルをした。
櫻井は尻もちをつき、倒れる。
「おい、止めろってお前ら! 学校だぞ!」
再び起き上がり殴りかかろうとしている櫻井を、男が止めた。
「こんなしょうもねぇことでいちいち喧嘩してたらしゃあねぇだろうが!」
男は櫻井を廊下に押し戻した。
「もう帰ってくれ!」
男は扉を閉め、鍵を閉めた。
「…………」
櫻井は扉を一発ガン、と蹴った後、その場を後にした。
「櫻井……くん?」
駅に来た櫻井は、京極と出会った。
顔にガーゼをした櫻井を見て、京極が近寄る。
「おお、明日香!」
うつむいていた櫻井は京極を見るや、手を振った。
「どうしたの、櫻井君、これ」
京極は櫻井の駆け寄り、ガーゼを指さした。
「いや……」
櫻井は言いよどむ。
「喧嘩?」
「……」
櫻井はゆっくりと頷いた。
「駄目だよ、喧嘩なんてしちゃ! なんで喧嘩なんてしたの?」
京極が櫻井を叱る。
「いや……実は、お前の悪口を言ってる奴がいてな」
「え……」
「あまりにもヒドい悪口だったから、俺許せなくてさ……」
櫻井は再びうつむいた。
「俺許せねぇよ、あいつら……」
「櫻井君……」
京極が目を潤ませる。
「ごめんね、櫻井君、僕のせいで。僕のために怒ってくれてありがとう」
「いや、全然……」
櫻井は手を振った。
「俺は当たり前のことをしただけだよ」
櫻井は、にか、と京極に笑いかけた。
「でも僕は櫻井君が傷だらけになることの方が悲しいから、次からは大丈夫だよ」
京極はそっと櫻井の肩に手を当てた。
「僕は人から悪口言われ慣れてるから……」
「そんな、俺許せねぇよ……」
櫻井は拳を握りしめる。
「ありがとう。本当に、気持ちだけで大丈夫。櫻井君が優しい人だってことは僕が一番知ってるから」
「明日香……」
京極は、ね、と櫻井に語りかける。
「そんなことよりさ、今日は一緒にコスプレの服を買いに行ってくれるんだよね?」
来たるハロウィンに備えて、京極と櫻井は二人、コスプレ用の衣装を買いに行く約束をしていた。
「僕はこんなだから可愛いのも絶対似合わないし、ゾンビとかの方が似合うかもなんだけど、櫻井君のアドバイスも欲しいかな、って」
「馬鹿言うなよ。そんなわけねぇだろ」
「櫻井君……」
京極がもじもじとする。
「可愛いのだって絶対似合うよ。俺が一緒に選んでやるから、ハロウィンは一緒にはっちゃけようぜ!」
「ありがとう、櫻井君」
京極と櫻井はハロウィン用のコスプレ衣装を買いに向かった。




