エピローグ
赤石は倉庫裏で暫くの間時間を潰した後、須田から話を聞き、職員室へと向かった。
その後赤石や八谷、平田やその取り巻き、高梨に神奈と職員室での人間関係の相談が行われ、一通り起こった事件が精査された。
高梨の取り成しによって、平田が全面的に悪かったとの結論に至り、職員室で平田が八谷に頭を下げて謝る結果となった。
平田が謝り、事件は一応の収束を見せた形となった。
今後こんなことがないように、と釘を刺された後、赤石たちは教室に戻った。
赤石が教室で起こした騒動は、不問となった。
誰が盗撮写真をばらまいたのか、何のためにバラまいたのか、何故櫻井はあのタイミングで止めにきたのか、誰が裏で糸を引いているのか。
こうして、何も真実が判然としないまま、事態は収束に向かった。
赤石が全ての悪意を背負い、今回の事件は幕を閉じた。
赤石は職員室から解放され、知らぬ間に授業を終え、茫然と帰路に就く電車に乗り、知らない間に自分の家に帰っていた。
赤石は、翌日の学校を欠席した。
家でイヤホンをして、何を聞いているのかも分からずに、ただ茫然と窓の外から見える雲の流れを見ていた。
「…………」
茫然自失としながら、ただただ雲を眺めていた。
その日の天気は、曇天の曇り空だった。
「面白いことになってきたわね…………」
高梨は、自室で紙に筆を走らせていた。
櫻井、八谷、高梨、赤石、その他大勢の名前を紙に書き記す。
「ふふふ…………」
書き記した名前を丸で囲み、それぞれからそれぞれに向けて矢印を書き加える。
「この子は櫻井君が好きね、この子もこの子も…………」
八谷から櫻井に向けて矢印を、水城から櫻井に向けて矢印を書いていく。
高梨の考える好意の矢印を、書き記していた。
高梨は、好意の相関図を完成させていた。
そして赤石からは……。
「ふふふ…………面白いことになってきたわね……」
破線や実線で好意の相関図を完成させ、うっとりと高梨は眺める。
「赤石君………………面白ことになってきたわよ」
その場にいない赤石に向けて独り言ち、高梨は嫣然と紙を見つめていた。
「ふ…………ふえええええぇぇぇぇぇ!」
四月中旬の休日、一人の女が外を走っていた。
「ち…………遅刻、遅刻しちゃうよぉ~…………」
口にパンを咥え、制服をみだらに着こなしながら、一人の女が走っていた。
「わわわっ……!」
曲がり角を曲がろうとした瞬間、誰かにぶつかる。
「い…………痛ててててて、ら、らいじょーぶれすか?」
ぶつかった当人を見上げると、
「お……冬華……? なんで制服?」
櫻井が、そこにいた。
「ふ…………ふえぇ、櫻井君っ⁉ なんで制服着てないの⁉」
「い、いや、今日は休日だぞ? 冬華こそなんで制服なんて……」
「ふえええぇぇぇ、今日、休日なのぉ⁉」
女は驚き、口に手を当てる。
「…………っていうか、冬華……その…………パンツ見えてるぞ」
「ふっ……ふえええぇぇぇ! ちょ、ちょっと櫻井君のエッチ!」
女は櫻井の肩をポカポカと叩く。
「全く……ドジだなぁ、冬華はいつも。ほら、冬華」
「う……うみゅ~……ありがとう櫻井君!」
女は櫻井の手を取り、立ち上がった。
「じゃあ折角こんなとこで会ったんだし、どこか行くか?」
「え…………いいのぉ! 行く行く! 買い物行こ!」
女は櫻井の肩にすり寄る。
「ちょっ…………ちょっと、止めろよ冬華。こんな公道で……」
「あっ…………ごっ、ごめん櫻井君!」
女は顔を赤面させ、少し櫻井から距離を取る。
「じゃっ…………行こっか、櫻井君?」
「そっ……そうだな」
櫻井はこうして、女と歩き出した。
女は櫻井の陰で、口端を上げていた。




