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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第9章 新井由紀:Rising
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第372話 相互理解はお好きですか?



「……」

「……」


 赤石と新井は別々の机で黙々と勉強をする。


「……」


 赤石はくるくるとペンを回し、考える。


「あ」


 ペン回しに失敗し、ペンを落とす。


「はい」

「どうも」


 新井がペンを拾い、赤石に渡す。


「……」

「……」


 再び無言で勉強する。

 十分間の無言の後、新井が口を開いた。


「そういえば」

「……?」


 赤石は新井に視線だけ送る。


「体」

「……」

「多分、大丈夫だった」

「……?」


 赤石は小首をかしげる。


「だから、体」

「……?」

「……」


 要領を得ない赤石の回答に、新井が言葉を詰まらせる。


「だから……来たから、あれ」

「あれ?」


 やはり赤石は小首をかしげている。


「だから……あの、生理……来たから、多分、大丈夫、だと、思う」


 新井は言葉に詰まりながらも、言った。


「…………?」


 しかし、赤石の反応は変わらなかった。


「え?」

「え?」


 新井は素っ頓狂な顔をする。


「だから、その、生理、来たから」

「……何、それ?」

「は?」


 新井は半眼で赤石を見た。


「いや、知らない方が良いと思ってるなら違うから。別に知らないフリしなくていいから」

「普通に知らない……」

「……は?」


 新井が赤石に圧力をかける。


「血! 出るの! 知ってるでしょ! 知らないフリしないで、って!」

「……?」

「保健の教科書で習ったでしょ! 知らないとか言わせないから!」

「あ、あぁ……」


 赤石はゆっくりと頷いた。


「そういえばそんなのがあったようななかったような……」

「なにそれ」


 新井はいらついた口調で言う。


「そんなのって、何? 女の子の体のことなんだと思ってんの?」

「特に何とも……」

「なんで知らないの!? おかしいでしょ! 保健の時間何してたの!?」

「副教科の授業内容なんて普通忘れるだろ。まつり縫いもなんだったか思い出せないし」

「本当意味わかんない!」


 新井はペンを放り投げて、不機嫌そうにベッドの縁に背を預けた。


「なんで赤石はそんなことも知らないの!? 女の子の体のことなんだから、知らないなんておかしいよ! 今まで何して育ってきたの!?」

「そんな、知らないことを責められても困る」

「知らないことがおかしいから責めてるんだよ! 信じらんない、本当……」


 新井は赤石から視線を外し、鼻息荒くため息を吐く。


「小学校の頃、女子だけ集められて男子だけ自習の時間とかあったよね!?」

「そんなことあったか……?」

「その時間、女の子が生理の話聞いてたんだよ! なんでそんなに何も知らないの!?」


 赤石は困惑した顔で話を聞く。


「そんな男女で分けられて授業してるくらいなら、知らない方が当然と言うか、知っちゃダメなんじゃないか?」

「男っていっつもそうやって自己弁護するよね。知らない方が良いとか、知ってちゃ駄目とか、そんなわけないのに、自分を弁護するような言葉ばっかり並びたてて、本当イライラする。女の子に何かあったら、また知っちゃ駄目だと思った、知らなくて当然、仕方ない、って言い訳するわけ!? 本当に気持ち悪い!」

「……」


 新井は烈火のごとく赤石に怒る。


「女の子が本当に健康に過ごせるのなんて、一カ月のうち十日もないんだよ! それ以外はずっと体壊してるの! 体調が悪いの! 知らなかった、知らなくて当然、で終わって良い話じゃないんだよ!?」

「そんなプライベートなこと聞けないだろ」

「なんで男ってそうやって、相手に聞こうとするわけ!? 別に聞かなくたって、調べればわかるじゃん! 赤ちゃんじゃないんだから、それくらい自分で調べなよ! そのスマホは一体何のためにあるわけ!? 女の子に話しかけられなかったから~、女の子が答えてくれなかったから~、って言い訳のために私たちを槍玉にあげるの止めてよ! 勝手に加害者に仕立て上げないでよ! 知らなかったのでも答えなかったのでもないでしょ! あんたらが知ろうとしなかったんでしょ、馬鹿!」

「……」


 赤石は防戦一方になる。


「そんな他人のためにわざわざ調べたりしないだろ」

「女の子の体調がずっと悪いんだから、知って、って言ってるだけでしょ! 世界の半分は女の子なんだよ!? その半分の女の子の事情を無視して、知ろうともしないのはただの怠慢だよ! 他人とかそんなの関係ない!」

「いや、世界の半分がそうでも、俺には関係ないし、病気を患ってる人だったり、親が離婚して片親になってる人だったり、色んな事情の人がこの世界にはいると思うけど、俺はいまいちどれも詳しく知らないし、自分に関係ないことはやっぱり人間、誰も調べようとしないし知ろうともしないと思うぞ」

「生理の話なんてずっと話題に上がってるでしょ! どうやって生きてきたら知らないで過ごせるっていうの!?」

「いや、話題に上がったことないし、そもそもそんなに友達いないし、そういう話をするやつと関わって来なかったしな……」

「ネットでだって、ずっと話題に上がってるじゃん!」

「あまりネットにかじりついてるタイプじゃないから。なんかネットの人って無関係の他人にずっと怒ってる人ばっかりで、見てて気持ちの良いものじゃないし。上から目線で講釈垂れたり、自分の選択の結果を他人の責任にしたり、普通に目に入れたくないし、怒りを娯楽にする趣味ないし、普通に受験生だし、あんまり見てないな……」

「なんでさっきから赤石はごめんなさい、の一言が言えないの!? ああ言えばこう言って、言い訳ばっかり! 自分が間違ってたら謝るでしょ。なんで自分が間違ってても謝りもしないの!?」

「間違ってると思ってないから……」

「はぁ!?」


 新井は赤石を睨みつける。


「人間、二本しか腕がないんだから、掬った手のひらからは絶対誰かしらはこぼれると思う。誰かの掬った手のひらから自分がこぼれてたことを怒るのは、ちょっと違うんじゃないか?」

「なんで生理のこと知って、って言ってるだけでそんなこと言われなきゃいけないの……!?」


 新井は涙目になる。


「そういうのもやっぱりプライベートな話だし、生理も片親も、自分に関係のない他人のプライベートを調べようとしたり詮索したりするのは正直抵抗があるというか、実際その環境にならない限りは調べないし、調べない方が良いみたいなところもあるんじゃないか?」

「男子なんて、中学生の頃から生理の話ばっかりしてたじゃん! エロいとかいやらしいとか、本っっ当に気持ち悪い! 生理現象なのに、いちいち下衆な目で私たちのことずっと値踏みしてきたじゃん! 私たちが普段どれだけ大変な思いしてるのか、なんで知ろうともしてくれないの!? 今までずっとエロいとか気持ち悪い目で私たちのこと見てたくせに、なんで私たちがどういう目に遭ってるか知ろうともしないの!? なんで今さらになって、生理って何、とか意味わかんないこと真顔で言えるの!? 私たちがどれだけヒドい目に遭ってるかも知らずに、なんでそんなことが言えるの!? 私は女の子に生まれただけなんだよ!? 女の子に生まれただけなのに、気持ち悪い目で見られて、私たちが大変な目に遭ってることも理解してくれなくて、本っっっ当に気持ち悪い!! 男なんて皆死ねばいいのに!!」

「……スミマセン」


 赤石は鬼気迫る新井の圧力に縮こまり、謝罪にいたった。


「もういい!」


 新井はドアを勢いよく開け、大きな音を立てて閉めた。


「……」


 赤石は一人、部屋に取り残される。


「入れるんじゃなかった……」


 赤石は再び学習机にかじりついた。




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― 新着の感想 ―
[良い点]  いや流石に知らない(知ろうとしない)のはおかしいw  赤石の歪さを見せる回かな?
[一言] 赤石あいてに普通を説いてもな…
[一言] 情緒不安定なくらいブチ切れる新井はアレだが、生理の「せ」すら知らないのは妙だな。 もしや、知らない振りしてる? だとしたら、櫻井を模倣した鈍感系の演技か何か?
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