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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第1章 ラブコメ ヒロイン活動編
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第3話 水城志緒はお好きですか? 2



「なんで……」

「え?」


 水城は櫻井のことが好きなんだ、と口から漏れ出そうになった。

 

 だが、水城の返答を聞くのが怖くてか、自分にその愛情を向けてもらえるのではないのだろうか、などという黒く、醜い欲望が自らの内に渦巻いていることを理解し、口を閉じる。


「どうしたの?」


 大丈夫? と、続けて赤石の様態を心配する水城とは対称に、赤石の心は冷え切っていった。

 自分のものにならないことが原因で櫻井を悪者扱いするような、どす黒い欲望を考えてしまっているのではないだろうか、そんな自責の念が頭をよぎり、心が冷えていく。

 自分は、櫻井に嫉妬しているのだろうか。


「…………」


 赤石は考えることを止めた。


「いや……なんでもないです」

「もう! また敬語になってるよ!」


 水城は一本指を立て、自らの唇に持っていく。

 水城の人格者然としたところを尊敬していること、その水城が櫻井に惚れていることをひとまず頭の片隅に追いやり、赤石は通常の自分を取り戻した。


「そう……だったな。俺は新井にCD渡すように頼まれたから、これを返して帰るよ」

「あ、そうなの? じゃあ一緒に部室行こっか」


 赤石は再度壁から櫻井のいた廊下を覗くが、いつの間にか櫻井の姿はそこになく、どうやら部室に入ったようだと理解することが出来た。


「部室そこなんだ~」


 水城は櫻井の声が聞こえなくなっていたことに先んじて気付いていたのか、部室の扉までてこてこと歩き、ドアノブに手をかけた。


「こんにちは~」

「あ、しおりっちやっほー!」

「あら……遅かったわね」

「おはようしおりん」

「水城ちゃんちょっと遅いねっ!」

「こ……こんちは~」


 水城は放送部の銘々に挨拶をし、赤石もその後ろからひっそりと侵入した。

 部室の中では櫻井が四人の女子生徒に囲まれ、何をするでもなく雑談をしていた。

 櫻井が女に囲まれている後ろで、少なくない生徒が縮こまって機械をいじったりしていた。


「私は全然そんなのじゃないからっ!」

「わっ……分かってるよ! 水城も来たしもうその話はいいじゃねぇか」


 取り巻きの一人が、櫻井に口撃する。


「良くない良くない! 私は櫻井君のことを考えてたんだからねっ!」

「ちょっとあんたまた馬鹿な事言ったんでしょ⁉」


 別の取り巻きが、櫻井を叱咤し、殴りつける。


「いっ……痛ってぇ! 何すんだよこの暴力女!」

「だっ……誰が暴力女よ!」

「もうそこらで止めなさい、貴方たち。見苦しいわよ」


 高梨が宥めすかす。 


「ほら、高梨もこう言ってることだしさ……」

「あなたもよ、聡助君」

「おっ……俺もぉ!?」

「あっはっははは! 聡助のバーカ、怒られてんの~」


 新井はその場の空気を変えようと、おちゃらける。


「うるせぇよ由紀!」


 発声練習にいそしむわけでもなく、放送部としての資料作りに邁進している訳でもなく、打ち合わせや会議を思わせる様子もなく、そこには、ただただ歓談する生徒たちの姿があった。


 部活動にいそしまず歓談する様子に、少し嫌気がさす。 

 自分が部活動に所属しておらず、他者との歓談に憧憬を抱いている、というのも少なからずあるのかもしれないが。


「あれ……赤石……? 水城と二人で来たのか?」


 そこで、水城の背後からひっそりと入って来た赤石を視認した櫻井は真っ先に赤石に話しかけてきた。


 それは「どうしてこんなとこに?」でもなく「日直終わったのか?」でもなく「水城と二人で来たのか?」であった。


 それは櫻井の取り巻きの一人である水城を独占したいがための邪な欲望か、はたまた櫻井に好意を寄せる女子生徒が多いことに対する嫉妬心から生まれた邪推か、赤石は顔色一つ変えず、脳内で様々な事象について勘案する。


「ちょっとそこで……」

 

 途中で、水城が赤石にウインクする。

 「黙っててね」と、そういうことだろう。


「そこで放送部の水城とばったり会って、一人はやっぱり入りづらかったから」

「へぇ~、そうなんだ」


 赤石の説明に、櫻井は納得の意を示す。

 赤石が上手く言い含めたことに水城は小さく親指を立て、赤石は軽く苦笑する。


「あ……あと神奈先生から、これ新井にって」

「あ、そうなんだ。ありがとう、赤石」


 櫻井は赤石からCDを受け取り、


「由紀、美穂姉からCD届いたってよ」

「そんなこと言ってなかったじゃん!」


 新井に手渡した。


 そのあまりにも自然な動作は、赤石に影を落とす。


 どうして赤石から新井に手渡すことをよしとしなかったのか。

 それは新井が移動する手間を考えればそこまで不思議な事ではないとも思えるが「新井」と対象を明確に呼称したのにも関わらずその仲介として櫻井が受け取った。

 新井と赤石とを接触させたくなかったがための試みか、櫻井にその意図があるのか全くの邪推であるのか。


「じゃあ、渡したから」

「おう、ありがとな赤石」


 CDを渡した赤石は踵を返し、放送部の部室を出た。




 やはり、櫻井は取り巻きの女を一人残らず独占したいという欲望があるのか、もしくは意図せずともそういう行動になってしまっているのか……。


 帰路につきながらも、赤石は考える。


 だが、そこに、女子生徒に囲まれる櫻井の姿を羨ましいと思う個人的な感情も入り込んでしまっているかもしれないことも無視することの出来ない事態なのかもしれない、と、赤石は自らを戒める。


 個人的な感情を抜きにしても、櫻井が多くの女子生徒から好意を寄せられている理由は度し難い。

 やはり、何故そうなっているのか分からない。


 赤石は頭の中を強く白熱させながらも、今日一日で櫻井に対する個人的な嫉妬だとか負い目だとかが存在する可能性についても言及することになった。



今更ですが、小鳥遊たかなしではなく高梨たかなしにしておきました。

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