第354話 三人衆はお好きですか?
「……」
受験に向けて参考書を読み進めていたところ、ピンポン、と赤石家のインターホンが鳴らされた。
「……」
赤石は窓を開けて、二階から外を見た。
「……」
一分後、ピンポンピンポンピンポン、とインターホンが連打される。
赤石は渋々ながら、ドアを開けに向かった。
「どちら様」
「遅い!」
赤石がドアを開けたと同時に、三千路が家に乗り込んでくる。
「お邪魔しま~す」
そして後方から、須田が遅れてやって来る。
「いや~、久しぶり」
「ああ」
須田は赤石に軽く挨拶する。
「今日お母さんは?」
「いない」
「悠人ぱっぱは?」
「部屋で仕事」
「私たち、二人きりね」
うふ、と三千路が赤石にキスを投げる。
「どういう認識?」
「早く部屋行こ! 部屋!」
レッツゴー、と三千路は階段を上り始めた。
「オラ、男衆早く!」
「はいはい」
須田と赤石は三千路を追いかけるようにして、階段を上る。
「ちょっと! どこ見てるのよ!」
「ズボンだろ」
「ズボンって、そんな古臭い言い方。スキニーって言ってよ」
「古臭くて結構」
三千路は赤石の部屋の前まで来た。
「ちょっと悠人ぱっぱに会って来る」
「またかよ」
「じゃ」
三千路はそう言うと、徹の扉を開けた。
「パパーーー―!」
三千路が徹の部屋に入った数秒後に、部屋からつまみ出される。
「テレビ会議してた」
「最悪だな、本当に」
赤石たちは赤石の部屋に入った。
「いや~、久しぶり~」
須田が深呼吸をする。
「お、俺の秘密基地強化されてんじゃ~ん」
須田はカバンから小さなおもちゃを取り出し、いつものごとく並べ始めた。
「いや~、ここも随分と充実してきたなぁ」
ヤシの木、家、人、獣、信号、須田が持ってきた大量のおもちゃにより、小さな町がそこに出来ていた。
「これ悠が作ったやつ?」
須田は小さな小屋を指さした。
「お菓子食べた時の当たりが出たから置いておいた」
「家が置かれてからなんか一気に生活感出たよな~。俺ももっとお菓子食べよ」
「食べなくていい」
赤石たちはそれぞれ机に座った。
「さて」
三千路は赤石と須田を着席させると、両手を組み合わせた。
「夏休みも中盤にもなるのに、今まで招待しなかった理由を教えてもらおうか、赤石君よ」
三千路は赤石を睨めつけた。
「特に意味はない」
「意味はないことないでしょ。須田君、発言を許可します」
「黙秘します。弁護士を呼んでください」
「この馬鹿野郎が!」
三千路は須田をなじる。
「お前がやったんだろ! えぇ!? 吐け! 吐いてみろこの馬鹿野郎が! 全部証拠は押さえてんだよ!」
「うぅ、すみません……」
三千路の脅しに屈し、須田は泣き真似をした。
「全部、俺がやりました……」
「最初からそう言えばいいんだよ、そう言えば。ええ?」
三千路は満足そうに腕を組んだ。
「で、何かあったの?」
そして普通に尋ねる。
「なんか悠が学校でトラブって近づくなって言われたから、しばらくそっとしてた」
「この馬鹿野郎が!」
「うっ!」
三千路が須田の肩を殴る。
「お前がそうやって無駄にした時間で、私がどれだけ寂しい思いをしたのか分かってるのか!」
「すみません、すみません……」
須田は平謝りをする。
「夏休みだから学校じゃないし、もういいかなぁ、と思って」
「なるほど」
「それに俺も退屈だったから悠もそろそろ怒ってないかな、って思って今回企画しました」
「ふむふむ」
三千路が頷く。
「ってこと」
「はあ」
赤石は素っ頓狂な顔で話を聞いていた。
「別に来ても良かったよね? っていうか、扉開けた時からもう悪いモノは入って来るってことを覚えとかないといけないけどね」
「悪霊なのか、お前らは。別に拒絶してなかっただろ」
「いや、チャット送っても悠も統も何か釈然としてなかったから、察して私が来られなかったんじゃん。しっかりして?」
「いや、怒ってると思ってたから……」
「別に怒ってない」
三千路が頬を膨らます。
「全く、人間ってこういう所から行き違いとか思い違いとかが出てくるんだから、ちゃんとコミュニケーション取ってくれる? そんなんじゃ社会に出てから仕事できないよ? ほうれんそうしっかりして!」
「すみません……」
須田はしゅん、とうなだれる。
「でも学校では話してほしくないけどな」
「あ~、めんどくさ」
三千路が半眼で赤石を見る。
「何? 悠、また中学生みたいなことなってるわけ?」
「まあ」
「なんで?」
「異世界からやって来たゴブリンを退治して、俺の力に庶民たちが恐れ慄いて……」
「そんな異世界転生みたいなこと聞いてないから。また中学生みたいなこと、なってんの?」
「まあ」
「高梨嬢はどうしたのよ、高梨嬢は。同じ高校でしょ?」
「高梨は俺の行動に呆れてた」
「全く……」
はあ、と三千路はため息を吐く。
「悠、本当性格悪いよね」
「ありがとう」
「褒めてない。またどうせぶちぎれたんでしょ? 人とトラブル起こすの本当上手いよね」
「怒るのは俺の専売特許だからな」
「変なこと専売特許にしないでよ。もうちょっと世間に馴染む努力とかした方が良いんじゃない?」
「そんなことを言われても、生まれもっての性格なんだからどうしよもない」
赤石は肩をそびやかす。
「まぁ、詳細は聞かないけど。悠は悪いことしたんだね?」
「はい」
「ごめんなさいして」
「誰に?」
「私に」
「何故?」
「私が寂しい思いしたから」
「ごめんなさい」
「いいよ」
三千路は赤石から視線を外しながら許す。
「釈然としない」
「悠が学校でトラブル起こすから私に被害が及んでるんでしょ? ちょっとは私のこと心配して」
「すみません」
全く……と、三千路は立ち上がった。
「ところで悠、私たちが来ないうちに女入れた?」
三千路は深呼吸する。
「何故?」
「女の匂いがする」
「まさか……はは」
赤石は三千路から視線を外した。
「ね、統?」
「いや、全く分かんないけど」
須田は不思議そうに小首をかしげる。
「あんたら匂いとか分かんないわけ?」
「「全く」」
「これだから男は……」
三千路は呆れてため息を吐く。
「すごい香水くさいじゃん」
「そうなのか?」
「いや、分からん」
「だって、前までこの部屋すごい臭かったよ」
「失礼だな、お前」
赤石は三千路を睨む。
「男くさかったのよ。今は消臭剤じゃない、甘い匂いがする」
「じゃあ俺が香水つけてるんだろ」
「悠はつけないよ、そんなの。っていうかどこにもそんなの見えないし」
三千路はきょろきょろと部屋の中を見渡す。
「しかも結構な頻度で来てるんじゃない? 部屋の中もなんか綺麗になってる気がする」
「実はと言うと、卒業した先輩が家庭教師役に、よく来てくれてる」
「ほら~」
「へ~」
三千路は着席した。
「女?」
「まあ。生徒会長」
「あ、要さん?」
「まあ」
「知り合い?」
赤石と須田が未市の話で盛り上がる。
「一年前の生徒会長」
「俺も知り合い」
「また私だけ部外者じゃん……」
三千路はむきー、と地団駄を鳴らす。
「これから毎日夏休みここで勉強しよ?」
「いやいや……」
赤石が首を振る。
「志望大学は?」
「北秀院」
須田と三千路は顔を合わせる。
「じゃ~ん」
三千路は模擬試験の結果を赤石に見せた。
C判定。
「俺も」
須田は、D判定。
「嘘だろ」
赤石は須田と三千路の試験結果を凝視する。
「改竄とかしてないよな?」
「失礼な、悠」
三千路は赤石から模擬試験の結果を返してもらう。
「我ら、生まれが違えど志は同じ!」
三千路は赤石と須田の間に入り、肩を組んだ。
「全員で北秀院、受かるぞー!」
「おぉー!」
「はあ」
三人は北秀院への目標を明確にした。
「あ、あと夏休み毎日ここで勉強するからその生徒会長? にも会わせて。説教するから」
「先輩に説教しようとするなよ……」
三千路たちは一日、受験に向けての学習を行っていた。




