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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第8章 始業式 恋愛大戦編
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第353話 姫野姫はお好きですか?



 夏休みも佳境に入り、地元の大型ショッピングモールは活況を呈していた。

 学生と思しき若人が割拠し、賑々しく混雑していた。


「……」


 そんな賑々しさとは相対して、一人沈んでいる女子がいた。

 人形のように美しくパッケージ化された服、ガーリーなチュニックワンピースに身を包んだ女は、沈んだ顔で俯いていた。


「……あ」

「……え?」


 そんな少女の前を横切るようにして、一人の男が声をあげた。


「姫……?」

「櫻井……君?」


 櫻井と同じ塾で勉学に励んでいる少女、姫野姫は、丸い目をぱちくりと瞬かせ、櫻井を見た。


「え、姫、なんでこんなところに?」

「……」


 姫野は暗い顔で再び俯いた。


「何か……あったのか?」


 櫻井は心配そうな顔で姫野に近寄る。


「うん……」


 姫野は視線を下に向けながら、返答した。


「実は今、南くんって人と一緒に来ててね」

「え」


 櫻井はきょろきょろと辺りを見渡す。


「ううん、今は別で行動してるんだけどね」

「もしかして彼氏か何か?」

「全然違うの。前、塾で勉強してたら話しかけられて。本当は行きたくなかったのに、どうしてもって言うから今日来たんだけど……」


 姫野は目を潤ませる。


「姫はね、ねこパンのカフェに行きたかったのに、南くんがそんなの面白くないだろ~、って言って無理矢理ボーリング場行かされて」


 ねこパン――十代からの人気の高い、パンダの姿をした猫のゆるキャラである。


「姫、運動とか全然出来ないのにボーリングとかローラースケートとか無理矢理やらされて」


 ひっく、と姫野が涙を流す。


「姫、いっぱいお洒落して来たのに、ねこパンも見れなくて、やりたくもないのに、運動なんかさせられて」

「なんだよ、それ……」


 ポロポロと涙をこぼしながら、姫野は語る。


「姫、なんだか悲しくなっちゃって……」


 姫野は唇を噛んだ。


「これ、見て」


 姫野は服をつまみ、櫻井に見せた。


「お気に入りの服だったのに、バスケットボールとかさせられて、服がすごい汚れちゃって」


 ポールの色が服に移ったのか、薄桃色の服が黒く変色していた。


「姫はただ、ただねこパンが見たかっただけなのに……」


 嗚咽しながら、涙ながらに訴える。


「信じられねぇ……」

「それで、遊んだから次は買い物でもって言われて、南くんは一人で本屋さん行っちゃって、姫は一人ですごい悲しくて……」


 姫野は両手で目を覆った。


「楽しくないよ、こんなの……」


 姫野はその場にしゃがみ込んだ。


「なんだよ、なんだよそれ……。俺、許せねぇよ!!」


 櫻井は姫野の肩を優しく抱いた。


「姫、そいつどこにいんだ?」

「いま本屋さんにいる、って。姫、お買い物中も放ったらかしにされて、ねこパン見たかっただけなのに」


 姫野はその場にしゃがんだまま、本屋を指さした。


「姫、行くぞ」

「え?」

「姫をそんな目に遭わせて、自分は一人で遊んでるなんて許せるわけねぇだろ! 俺がぶん殴ってやるよ!」

「え、櫻井君!」


 櫻井は姫野の手を取り、本屋へと向かった。







「……ふ~ん」


 南は一人、サッカーの本を調べていた。

 前から少し気になっていた姫野と初めて二人で遊びに来たことで、少々の緊張はしていた。

 二人で出来る遊びとしては上々といったところだろうか、と南は満足げに顎を撫でていた。


「おい」

「……?」


 声がかけられる。


「お前が南か?」

「駄目だよ、櫻井君……」

「……?」


 激情している見知らぬ男と、今日一日遊んでいた姫野が、そこにいた。


「え……何?」


 まさか美人局か、と妙な心配をする。


「表出ろよ」

「え?」

「表出ろ、って言ってんだよ」


 櫻井はドスの効いた声で南に言う。


「……」


 事態を飲み込めていなかったが、南は言われるがままに本屋から出た。


「……」

「……」


 櫻井と姫野が前を歩く。

 一体何が起こるんだ、と南は戦々恐々とする。

 ショッピングモールを出て人気ひとけの少ない路地に出た時、櫻井が振り返った。


「お前、姫のなんなんだ?」

「……いや、別に今日一日遊んだだけだけど、何?」


 高圧的な櫻井の態度に、南は眉を顰める。


「お前、今日一日、姫がどんな思いしてたのか分からねぇのかよ!?」

「……はぁ?」


 姫野を見てみると、視線が合わなかった。


「え……姫野ちゃん、もしかして彼氏か何か?」

「今そんなこと関係ねぇだろうがよ!」

「いや、滅茶苦茶関係あると思うんですけど……」


 南は櫻井と対峙する。


「今日一日、姫がどう思ってたか分かってるのか、って聞いてんだよ」

「どう思ってたも何も、一日一緒に遊んだだけだろ」

「姫の思い台無しにしといてその言い草かよ」


 はっ、と櫻井は鼻で嗤う。


「何が言いたいんだよ?」

「姫を無理矢理連れて来て、お前最低だな」

「はぁ?」


 南もムッと来る。


「無理矢理連れて来て、って誘って来てんだから正式な手順だろうがよ」

「お前がしつこいから姫も仕方なく来たんだよ!」

「仕方ないなら来る前に言えばいいじゃねぇかよ!」

「しつこいから一回行く、って言わないと終わらねぇと思ったんだろうが!」


 なぁ、と櫻井は姫野に聞く。

 姫野は口を固く結び、視線を逸らし、ただ地面を見ていた。


「姫が行きたいところにも行ってやらねぇで、お前それでも男かよ」

「お前に関係ねぇだろうが」

「姫を悲しませるようなことしてるから許せねぇ、って言ってるだけだろうが!」

「黙っとけよ、部外者が! 何も言わねぇのに分かるわけねェだろうが!」

「お前が嫌いだから何も言えなかったに決まってるだろうが!」

「だったら最初からそう言ってろや、クソ馬鹿がよ!」

「……んだと、お前!!」


 櫻井は南に殴りかかる。

 南は櫻井から距離を取り、かわす。


「お前のせいで姫は泣いてたんだぞ! お前が無理矢理姫を連れて来たから、姫は泣いてたんだぞ! 女の子の気持ちも分からねぇで、分かったような口利いてんじゃねぇよ!」

「……」


 姫野は俯いたまま、肩を揺らし、泣いている。


「……はぁ」


 南は臨戦態勢から一転、櫻井から距離を取った。


「んだよ、地雷かよ……」


 そう言うと南は櫻井に背を向け、帰り始めた。


「二度と姫に関わんじゃねぇぞ!」


 南は櫻井の言葉を聞くこともなく、そのまま去った。


「……」


 ゆっくりと、姫野の下に戻る。


「櫻井君……」


 姫野は目を潤ませて、櫻井を見た。


「大丈夫か、姫」


 櫻井は姫野の頭にポン、と手を乗せ、聞いた。


「うん、ごめんね、櫻井君……」

「いいんだよ、これくらい。俺にできることなんてこれくらいしかねぇからさ」


 櫻井はニカ、と姫野に笑いかけた。


「櫻井君……」


 姫野は頬を染め、櫻井の腕に抱き着いた。


「ちょっ、おま!」

「今日だけはこれでいさせて……」

「……ったく、しょうがねぇなぁ」


 櫻井は頭をかき、姫野は櫻井の腕に体重を預けた。


「櫻井君って、本当に格好良いなぁ……」

「ん、何か言ったか?」

「……ううん」


 姫野は櫻井を見上げる。


「ラーメンでも食うか、姫?」

「……うん!」


 櫻井は姫野の頭を撫でた。

 姫野は安心して、櫻井に体重を預けた。




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― 新着の感想 ―
[一言] 今回の戦犯は確実に地雷。これまでの全てに目を瞑ってこの話だけ読めば櫻井はただ視野が狭いだけの主人公。そりゃ仲いい女の子が凹んでたら知らん男よりは優先するわな。
[気になる点] お姫様あつかいせにゃ機嫌が悪くなるなんて 名は体を表し過ぎだろ 姫野姫
[一言] 南君のチョイスや気遣い無いのはあれだけど嫌ならはっきり言わないと… 櫻井は相変わらずの喧嘩腰からの暴力 これ恋愛物ってよりもホラーな気がします
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