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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第8章 始業式 恋愛大戦編
393/593

第350話 高校最後の夏祭りはお好きですか? 1



「後輩、花火行こ~」


 八月上旬、赤石家に未市がいた。


「今勉強中です」

「花火花火花火花火花火―!!」

「うるさい」


 未市が赤石の背後で暴れる。


「…………」

「……」

「…………」

「突然静かになるのも止めてくださいよ」


 未市はベッドの上で制止していた。


「浴衣着てくる」

「いや、行かないですって。落ちたらどうするんですか、俺が」

「スマホ見てる時間削って」

「高校生にスマホなしはきついですよ」

「いいじゃん、友達もいないんだから」

「失礼ですね」


 未市は赤石の部屋を出た。


「本当に出た……」


 赤石は勉強を再開した。

 数時間が経ち、ピンポン、とインターホンが鳴らされる。


「来ちゃった」


 赤石が扉を開けると、扉の向こうには未市がいた。


「来ちゃったなのか、着ちゃったなのか分からないですけれど」

「入るね」


 未市が赤石の家に上がる。


「夏休みも中盤、夏祭りなんて高校生のメインイベント逃してどうするのよ」

「はあ」


 赤石と未市は部屋で対峙する。


「高校生の間に夏祭り行ったことは?」

「……」


 少し考えこむ。


「ある……? いや、ない……?」


 過去二年間で何があったか思い出せない。


「いや、ありますね。去年も統とすうと行きました」


 思い出した。


「あぁ、統貴?」

「はい」

「すう……?」


 未市は考え込む。


「会ったことなかった……ですか? ポニーテールの」

「覚えてない……」

「幼馴染ビーですよ」

「幼馴染を記号であらわすんじゃないよ」


 赤石は外を見る。


「今年は一緒に行かないのかい?」

「あいつらも勉強してるんでしょ」


 そういえば、と思い出す。

 二人は今、何をしているだろうか。


「まぁそういうことですよ」

「いやいや、行こうよお祭り」


 未市が顔の前でブンブンと手を振る。


「要お姉さん浴衣着て来たのに、行かないつもり?」

「勉強しようと思って」

「ちょっとだけ、ちょっとだけ! 先っちょだけだから!」

「何の先っちょですか」


 未市が赤石を引っ張る。


「まぁ……良いか」


 諦めた赤石は用意をし始めた。


「やったー!」


 未市が軽く跳ねる。


「二階でジャンプしないでください。底が抜ける」

「そんなにボロいの?」

「あばら家ですから」


 赤石は軽く用意をして部屋を出た。


「最近、後輩のフットワークがどんどん軽くなってきてお姉さんはやりやすいよ」

「勉強ばっかりしてるのも嫌なんですよ。言い訳……かもしれないですね」

「お姉さんと一緒に行きたい言い訳か」

「そういうことにもなりますね」


 赤石たちは夏祭りへ向かった。





 カランコロン、と音を鳴らしながら未市が歩く。

 夏祭り会場のすぐ近くまで来た。


「遅っせぇですねぇ~」


 赤石が未市の歩幅に合わせて歩く。


「仕方ないじゃん。浴衣なんだから。全力疾走できないよ」

「どうするんですか、異世界からゴブリンとか出て来たら」

「そんなこと起きません」

「人間が想像できることは必ず起こりうるって言いますよ」

「起こりません~。どんだけ異世界転生したいのよ、君は」


 未市が赤石をつつく。


「後輩、どう、浴衣?」


 未市が両手を広げて赤石に浴衣を見せる。


「高そうですね」

「そうそう、この浴衣六桁もして……って違わい!」


 未市が地面を蹴る。


「可愛い?」

「先輩はいつもお美しいですよ」

「ん~~~~、微妙に欲しいのと違う」


 ぽ、と言いながら未市が両手で頬を隠す。


「似合ってますよ」

「赤石君も随分とキザなことを言うようになったね」

「そうなんですか?」

「やっぱり一年前と比べて、丸くなったんじゃないかな」

「ちょっと太ったんですよね……」


 赤石は腹をさする。


「確かに、食べごろだね」

「そこまでじゃないと思ってるんですけど」

「からからから」

「なんですかその笑い方」

「カラカラしたの履いてるから」

「はあ」


 未市はカラカラと鳴らしながら歩く。


「ところで後輩、浴衣の下には下着とか着てないって噂、どう思う?」


 未市が胸元をトントンと叩く。


「どうなんですか?」

「……ふ、それはいつか君に彼女が出来たら聞いてみると良いよ」

「イライラしますね」


 赤石たちは階上に着いた。


「たーまやーーー!」

「何も打ちあがってないですよ」


 十八時――

 まだ花火には少し時間があった。


「嫌いなんですよね、人混みも暑いのも。もうべちゃべちゃ」


 赤石はタオルで汗を拭く。


「よくこんな暑いのにそんな暑苦しいの着てられますね」


 半袖にシンプルなパンツ姿の赤石が未市を見る。


「お洒落って我慢だから」

「びちょびちょなりますよ」

「止めてよ、女の子にそんな可愛くない言葉。盛り下がる」

「川上がる」

「反対言葉止めて」


 ノー、と未市は赤石の前に手を突き出した。


「後輩、何か食べに行かない?」

「あぁ、フードコード行きますか」

「ここまで来て!?」


 未市は手を出した。


「エスコートして」

「嫌です。手びちょびちょなんで」

「うふふふふ、可愛いなぁ、後輩は。そんなに気にしなくても良いのに」

「いや、先輩の手が」

「……」


 未市は頬を膨らませた。


「おらっ!」


 未市が赤石の手首を握る。


「うわ、きたな!」

「殺すぞーーーー!!」

「こわ……」


 赤石は手首をタオルで拭いた。


「やっぱりびちょびちょじゃないですか」

「お洒落って我慢だから」

「しりとりだったら負けてますよ、先輩」

「人生はしりとりみたいなもんだから」

「適当に会話しないでください」


 未市は出店を眺める。


「どれ食べたい?」

「ラーメン」

「そんな物売ってないよ、出店には」


 未市は見える範囲で読み上げる。


「串焼き、焼きそば、かき氷、ポテト、小籠包……小籠包!?」


 未市が二度見する。


「ミイチクサ、続き」

「誰がミイチクサだよ」


 悪態をつきながら。


「焼き鳥、フランクフルト、バーベキュー……バーベキュー!?」

「いちいち止まらないでくださいよ」

「いや、バーベキューって! バーベキューって何よ!?」

「ミイチクサ、続き」

「くっそー!」


 未市は続ける。


「たこ焼き、りんご飴、カステラ、骨付き地鶏、焼きトウモロコシ。このくらい」


 未市は赤石を見た。


「もちろん奢ってくれるのよね、赤石くん」


 未市は赤石に上目遣いする。


「良いですよ」

「良いの!? 私が誘ったのに!?」


 未市が目を丸くする。


「そんな五万も十万もするわけじゃないんですから」

「お金持ちなのね。私が奢ろうと思ってたんだけど」

「これを動画にしてネットに上げたらすぐに取り返せますよ」

「君は一体いつから配信者になったのかな」

「実は」

「わ~」


 気のない拍手をする。

 未市はりんご飴に向かって歩いて行った。


「あれ食べよ?」

「良いですよ」


 未市はりんご飴の列に並んだ。


「人多すぎでこれ今何の列かよく分からないんですけど」

「すごい多いね」

「夏祭りって本当に混雑してますね」


 赤石はスマホを見た。

 スマホに一件の連絡が来ていた。


「……?」


 開いてみると、船頭から夏祭りのお誘いだった。


「うわ、ヤバ」

「何?」


 未市が赤石のスマホを覗き見る。


「覗き見ないでくださいよ、変態」

「変態だから覗いていい?」

「この文脈ってそんな解釈できるんですか?」


 未市が赤石のスマホを覗いた。


「船頭ちゃん?」

「勉強大丈夫だったら夏祭り行かないかって来てました」

「ねぇねぇ、写真撮っちゃお。ツーショット写真撮って送ろ?」

「嫌ですよ、そんな漫画じゃないんですから」

「人生ってそんなエロ漫画みたいなもんだから」


 未市は赤石のスマホでツーショット写真を撮った。


「まぁ、撮ったから送るのは勘弁したげる。何か返したら?」

「今先輩といる、って返しときます」


 赤石は船頭に連絡を返した。


「じゃあ行く、って」


 船頭から返信が来た。


「断りましょうか」

「いや、いいんじゃない。楽しそうだし」


 未市は快諾した。


「まあでも、この状況で会えるかどうか微妙なところですけどね」

「そうだねぇ」


 りんご飴の列は、中々進まない。


「あいつが来た時のために、どこか開けたところに――」


 赤石は人混みの中で、一人の少女を見つけた。

 小柄で両手に大量の食べ物を持った、少女を。


 そして、


「……」


 その近くにいる、暮石と鳥飼を。



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― 新着の感想 ―
[一言] そもそも幼馴染2人が離れたのが未だに納得いってない。高梨は散々手を引け態度変えろと言ってたから呆れて離れるのもわかるけど、2人は特にそういう要素なかったし 上麦はどうせ暮石が鵜飼連れてきて謝…
[一言]  どんな状況かによるでしょうね。  単にスタンドアローンで食べ歩きしている上麦にフタリが金魚のフンしているのか、二人に説得(食い物で釣られた)されて、食べる物食べながら二人に「私は怒ってる!…
[気になる点] そういや、なんですうは遊びに来ないの? 学校違うから赤石が学校でシカトされてても関係ないよね? [一言] 白波がどんな言い訳をしても赤石相手にここから挽回するのは難しいな
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