第348話 息抜きはお好きですか? 2
「楽しいね、後輩」
「まだ歩いてるだけですけど」
赤石と未市は駅へと向かっていた。
「まさか受験期にこんな風に赤石君と遊びに行けるなんて思わなかったよ」
「そうですね」
赤石と未市は雑談を繰り返しながら、駅へと着いた。
「朝ごはん、食べよっか?」
「ああ」
未市が家に来た時間は十時、赤石は朝から何も食べていなかった。
「ドルナドクマ、行かない?」
「いいですよ」
赤石と未市はハンバーガー店のドルナへ入り、料理を注文した。
「でも意外にも、こうやって二人で外に出るのって初めてじゃないかな?」
「そうでしたっけ?」
「そうだよ。珍しいよ」
未市は小気味よく店内の音楽に身をゆだね、体を跳ねさせる。
「私は君のこと、結構気に入ってるんだよ」
「俺も結構要さんのこと気に入ってますよ」
「嬉しいね」
「面白い人ですからね」
通知音が鳴り、赤石と未市がハンバーガーを取りに行く。
「知らなかったけど、朝は普通のメニューじゃないんだね」
「そうですね。俺も知りませんでした」
赤石と未市は向かい合ってハンバーガーを食べた。
「あ~、美味しい」
「そうですね」
赤石と未市はお互い外を見ながらハンバーガーを頬張る。
「ドルナにはよく来る?」
「まぁ、たまに、ってところですかね」
「私と一緒だ」
「はい」
未市はハンバーガーをぺろりと完食した。
「もう一個頼もっかな~」
「待ってますよ」
「ん」
未市は立ち上がったが、座りなおした。
「やっぱり止めた」
「なんでですか?」
「いっぱい食べる女の子は可愛くないみたいに見えるからね」
「別にそんなことないと思いますけど」
「君は女の子のことを知らないからそんなことが言えるんだよ。私たちが男の子と食事をするときにどれだけ小食になってるか知らないからそんなことが言えるんだよ」
「はあ」
「特に日によってはお腹が空いて空いて、フードファイターくらい食べてるよ」
「もう全く小食感出せてないんですけどいいんですか?」
「はっ!」
未市は露骨に驚いた顔をする。
「でも確かにフードファイターって女の人多い気がしますね」
赤石が話を戻す。
「そうそう、色々体調に変化があるからね」
「へ~」
「君も女の子のことは大切にするんだよ。例えば目の前にいる美少女とか」
「……はい」
赤石は不承不承に頷いた。
「じゃあ電車、乗ろっか?」
「そうですね」
赤石と未市は駅のホームに入る。
「えっと、どこの路線に乗ればいいかな?」
「どこに行くんですか?」
「無計画に決まってるじゃないか」
「えぇ……」
「こういうのは男の子が考えておくべきものでしょ!?」
「じゃあここ行きますか」
赤石は電車の路線図を指さした。
「良いね、近いし」
赤石と未市はカード決済で駅に入った。
そのまま電車に乗り、揺られる。
「私、赤石君の隣座ろ~っと」
「二人なんだから当たり前でしょ」
「手厳しい」
赤石は窓の外を見る。
「どうした、隣の美少女のことが見れないのかい?」
「乗り物弱いんですよ。外、見とかないと戻します」
「大丈夫、私は君の吐瀉物をキャッチできるほどに訓練されてるよ!」
「あんまり酔いそうなこと言うの止めてもらっていいですか?」
「弱ってる赤石君も珍しいね」
「いつも弱ってますよ、俺は。這う這うの体ですよ」
「あはは」
赤石は三十分電車に揺られ、なんとか戻すことなく電車から脱出した。
「危ない所でした」
「私としては赤石君が泣きながら吐いてる所を見たかったのだけれど」
「止めてくださいよ」
赤石と未市は海へと向かった。
「海だーーーーー!!」
未市は砂浜に足を踏み入れた。
「赤石君も!」
「海だー」
無感動に海を見る。
未市は靴を脱ぎ、靴下を脱いだ。
「赤石君も裸足になって!」
「嫌ですよ」
赤石はコンクリートの上を歩きながら未市に追従する。
「海に来たら裸足で砂浜を駆けて、水をぱしゃぱしゃ掛け合うもんだろ!?」
「そんな古臭い……」
なぁ、と高い所にいる赤石に、未市が言う。
「全く……」
未市は靴を履き、赤石の後を追った。
「……」
赤石は近くのベンチに座り、海を眺めた。
「気分は晴れた?」
「いや、もう自分でも驚くほど無感動ですよ」
海鳥がキュウキュウと鳴き、数羽で群れを成して飛んでいる。
「海だねぇ」
「そうですね……」
赤石と未市はベンチに座り、海を見ていた。
「海って言うとキラキラ大学生がよく来る所ってイメージがありますね」
「そうだねぇ……」
「でも実際来てみたら問題も何も解決しないですね」
「ねぇ……」
未市は目を細めて、猫背で海を見る。
「先輩?」
未市の反応が悪かった。
「……」
「なんかおばあちゃんなりました?」
「いやぁ、ちょっとね」
未市が目尻に溜まった涙を拭いた。
「先輩も何かあったんですか?」
「ん~、何も」
未市は猫背で海を見る。
「……」
「……」
「自然に触れると、神々しくて涙出ちゃう」
「思ったよりロマンチックな理由だった」
未市はぐすぐすと泣いていた。
「赤石君、解決した?」
「先輩が心配でそれどころではないといったところでしょうか」
「ごめんね、赤石君」
本当にそれだけなんだろうか、と赤石は不審に思う。
「ごめんね、ごめんね……」
未市はぐずぐずと泣きながら赤石に謝罪する。
「もしかして俺この後、何かの生贄とかされないですよね?」
「しないよ!!」
「死ぬ前に姉が最後の思いで作ろうとしてる感が凄いんですけど」
「そんなことないよ! 村の掟で外から生贄連れて来たとかじゃないから!」
ふふふ、と泣きながら未市が笑った。
「いやぁ、楽しいなぁ」
「楽しそうに見えないですけど」
赤石と未市は二人、海を見ていた。
「人間、生きてたら色んな失敗があるよ。間違うことだってあるし、人に迷惑をかけることだってある。人を怒らしちゃうこともあるし、自分の間違いを振り返って死にたくなることだってある。自分の周りから人がどんどんいなくなることだってあるし、好きだった人に愛想尽かされることもある。自分の好意が伝わらないこともあれば、嫌なことを言われたりもする。疎まれたりもする。自分の行動を責められたり、自分の行為を糾弾されたりもする。色んな失敗があって、過ちがあって、間違いがあって、それでいいんだよ。人間はそれで、いいんだよ。私も赤石君も、これから、ちょっとずつ成長していけば、いいんだよ」
「……先輩も嫌われたりするんですね」
「うん……」
未市はぐずぐずと泣きながら、言う。
「誰かにフラれたんですか?」
「…………」
未市は何も言わない。
赤石は静かに、未市の隣にいた。
「まぁ、ゆっくり成長していきましょうか」
「うん」
赤石と未市はお互いに視線を交わすことなく、海を見た。
「これからもよろしくね」
「こちらこそ」
赤石と未市は一時間ほど、海を見ていた。
ひとしきり海を満喫した二人は、駅へと戻った。
「帰ろっか」
「はい」
赤石と未市は駅にいた。
「私にとって、忘れられない夜になったわ……」
「まだ滅茶苦茶夕方ですけど」
未市が艶めかしいポーズを取る。
「あ」
「?」
「アイス!」
「アイス?」
未市は膝を打った。
「アイス、食べよっか?」
「はあ」
赤石と未市はアイスを頼んだ。
「私いちご」
「バニラ」
赤石と未市は苺とバニラのアイスを買った。
「何でアイス?」
「アイスが食べたいと思ったから」
「はあ」
二人は駅近くのベンチに座り、二人でアイスを食べる。
「ちょっとちょうだい?」
「はい」
未市は赤石のアイスを食べた。
「一口でか」
「お詫びに私のアイスもあげるから」
未市は赤石にアイスを差し出す。
「赤石君のために一口食べておいたから」
「気持ち悪いですねぇ」
赤石は未市のアイスを食べた。
「どうだった、私の味?」
「美味しかったです」
「気持ち悪いねぇ」
「お前だよ」
「先輩なのに」
赤石と未市はアイスを食べた。
「よし!」
食べ終えた未市は立ち上がった。
「元気出た!」
「先輩の元気出す会だったんですかね」
未市は赤石の手を掴み、赤石を立ち上がらせた。
「帰ろう!」
「はい」
赤石と未市は電車で帰った。
十七時、赤石と未市は家へとたどり着いた。
「おかえり~」
「ただいま~」
未市が赤石の部屋へと上がる。
「よし、ゲームしよっか!」
「いや、そろそろ勉強しますよ」
「ゲーム、ゲーム!」
「やりますか……」
「意志薄弱だねぇ」
赤石はボードゲームを取り出し、未市と勝負した。
「いやぁ、夏休みっていいねぇ」
「明日から頑張らないといけないですね……」
「一緒に頑張ろう、少年」
「はい」
「一緒の大学で、一緒に部活動しよね」
「頑張ります」
「もう私のことを滅茶苦茶にして!」
「はあ」
赤石はボードゲームで未市をノした。




