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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第1章 ラブコメ ヒロイン活動編
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第38話 クラスメイトはお好きですか? 6




 赤石は平田やその取り巻き、クラスメイト達にさんざ扱き下ろされたが、合理的に考え、何も言い返さなかった。


 そして一日が終わり、逃げるようにして家へと帰った。




「マジ八谷のやつイライラすっわ~」

「分かる~」


 放課後の教室で、平田とその取り巻きが騒がしく話し合っていた。


「覚えてる、マジ? あいつ赤石のことを馬鹿にしないで、とか言ってたっしょ? マジお前何様なんだっつーの。そのくせ私は赤石が好きじゃないとか言ってんよ? 訳わかんなくね?」

「分かる~。私らにはあんな態度取ってるくせに、それ言ったらあなたたちが駄目なんでしょ、とか言ってたの本当ウザい~」

「「「分かる~~~~~~」」」


 平田と取り巻きとは、口々に八谷を悪く言う。


「本当マジ、こんなやつ死ねよ」


 平田は八谷の席の机に乗り、椅子に足を置く。

 椅子を蹴り飛ばし、ぎゃはははと醜く嗤う。


「っていうか前からあいつ気に入らなかったのよね。あいつ私らのこと馬鹿にしてない?」

「「本当それ~~~~」」

「何もかも駄目だよね」

「「それ~」」


 平田は八谷の椅子を何度も蹴り飛ばし、留飲を下げる。


 その後も平田たちは放課後の教室で嗤い合った。



 その場にいる高梨は、そんな平田たちを見ていた。










 

 赤石は帰宅した。


「…………」


 ベッドに寝ころび、無言で天井を見る。

 どうして、どうして八谷はこうなってしまったのか。

 自分の推量は正しいのか。何故櫻井は八谷を助けないのか。


 疑問という疑問が、赤石の頭を埋め尽くす。


「…………」


 赤石は、八谷の連絡先を見ていた。


 八谷の連絡先を打ち込み、電話を掛ける。

 電話をかけずにはいられなかった。


 プルルル、ピッ。


 八谷が、電話に出た。


「…………もしもし」

「俺だ」


 八谷は、酷く憔悴した口ぶりだった。

 赤石は、八谷に何が起こったかを聞く義務があった。


「何があったのか教えてくれ」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 無言の沈黙が、続く。

 八谷は頭を整理しているのか、答えたくないのか、赤石には分からない。


「私が欠席する前日、平田さんに呼ばれたのよ……」


 八谷はぽつりと、話し始めた。

 記憶の一片を辿っていくかのように、ゆっくりと話し始めた。


「それであんたと一緒に映ってる写真を見せられて、付き合ってるのか? って訊かれたわ。でも、付き合ってないって言ったわ。あんたは……」

「俺もだ」


 ここまでは、予想通りだ。


「そしたら、あんたと体の関係なのか、って馬鹿にされたのよ……。悔しかったわ。どうして私がそんなことを言われなきゃならないのか。なんでそんな風に思われなきゃいけないのか。悔しかったのよ……」


 嗚咽が、入り混じる。


「そしたら私、気付かない内に平田さんに毒を吐いてたわ。私でも考えられない程の毒を、平田さんに吐いてたの。そこからは早かったわ……。平田さんは見る見るうちに顔を赤くして怒ったわ。皆にこの写真を拡散する、って私の目の前で何かしてた……。多分拡散されたんじゃないかしら……」


 やはり、拡散されていた。

 ツウィークで平田を狙ったのも、それが犯人の狙いだったのかもしれない。


「でも、それでも私は大丈夫だと思ったわ。だって、あんたと二人で外に出てることがバレた所で何も悪いことはしてないんだから問題ないでしょ……?」


 自分に言い聞かせるように、訥々と語る。


「それで、その後放送部の部室行ったんだけど……」


 一息置く。一拍。


「しおりんは、優しかったわ。大丈夫、大丈夫? って訊いてくれて嬉しかった。でも…………他の皆はそうじゃなかった。他の皆は私に無関心で……怖かった。軽蔑されてるわけでもない、無関心が、怖かった……。何でこんな目をしてるのか、分からなかった。どうして……。何も、分か……らなかった…………のよ……」


 八谷は、ついにこらえきれなくなり、何度も何度も喘ぎ、嗚咽する。

 画面の向こう側にいるというのにその泣き顔が見えてきそうなほどに、嗚咽していた。


「でも…………でも、聡助だけは大丈夫だと思ったわ。聡助だけは……。そう……思ってたのよ。……なのに、そんなことはなかった……。聡助は、悲しそうな目をして私を見てた」

「櫻井に……お前は櫻井にちゃんと俺とただならない関係じゃないって言ったのか?」

「言った…………言ったわよ…………。でも『ごめんな、俺が恭子といると赤石の邪魔しちゃうよな。だから俺は身を引くよ』って…………そう言われたのよ……」 


 櫻井のそのセリフは、自分と同じく、矜持から出た言葉なのかなんなのか。

 自分を想わない女からは手を引くという、自分と同じ矜持がそうさせたのか。

 一体、何故そんなことを言ったんだ。


 赤石は、提案する。


「なら櫻井に今の俺とお前の関係性を言えば……」

「言えるわけないじゃない!」


 八谷が、絶叫した。


「言えるわけないじゃない! 今そういうことだった、って言って聡助が付き合ってくれると思うの⁉ あんな空気になってた私が今聡助に付き合って、って言って成功すると思うの⁉ 恋愛を馬鹿にしないでよ! そんな簡単に告白できるなら、あんたの力なんて借りてないわよ!」

「……………………」


 赤石は、無言だった。

 無言で、八谷の話を聞く。


 櫻井が八谷を構わない理由が、ここで分かった。

 櫻井は、嫉妬しているんじゃないか。

 自分だけを懸想しなかった八谷を、自分ではなく赤石とデートに行った、と、嫉妬しているんじゃないか。

 もしそうなら、八谷が櫻井と公園で出会ったとき、櫻井が俺の姿を探していたような気がしたのは、気のせいか。


 何なのか。何が正解で何が邪推なのか。


 赤石は思考の渦に巻き込まれるが、すぐに耳に意識を集中する。


「悲しかったわ…………。もう聡助でもどうしようもないんだ……って……。どうしたらいいのか全然分からなかったわ……。もう……どうしたらいいのか分からないわよ!」


 嗚咽していた八谷が、突如声を荒げた。


「あんたのせいで何もかも台無しよ! 何でこんなことになったのよ……。聡助が、聡助が……あんたのせいで私を……」


 涙声で、そう言った。

 

 だが、八谷が感情を高ぶらせているのに対して、赤石はだんだんと冷えた昏い思いを抱き始めた。


「知らねぇよ」

「…………え」


 赤石は冷たい声で、言い放った。


「知らねぇって言ってるだろ。俺はお前に二人でいるところが見られても大丈夫なのか、って言ったよな? 櫻井に見られても大丈夫だ、ってお前そう言ったよな」

「言ったわよ! でもこんなことになるなんて分からなかったのよ! 聡助が……聡助があんな風に私から距離を取るなんてこと考えられなかったのよ…………」


 八谷は、再度嗚咽し、泣きわめく。

 赤石は自分の中の怒りを、内包している、矛盾した欲望を、黒く下衆な感情を八谷にぶつけた。八谷の自己中心的な一面を、相手が自分自身で傷つくように、なじる。


「お前自分勝手なんだよ」

「……………………え」


 赤石は、追い詰める。

 八谷を、追い詰める。

 

 自分で呼んでおいて何かあったら全責任を押し付ける八谷を、追い詰める。

 赤石自身、全ての責任を八谷に押し付けようとしたのにも関わらず、八谷を追い詰める。


「自分勝手なんだよ、お前。お前が俺を呼んだんだろうが。その結果二人でいるところが写真に撮られて櫻井に嫌われて俺を責めてんのかよ。おかしいだろ。道理が通ってないだろ。間違ってるだろ」


 道理を解さない八谷を、責め立てる。

 合理的でない八谷を、責め立てる。


「そんなに嫌なら俺もお前から身を引かせてもらうよ。俺も『八谷といると櫻井との恋の邪魔しちゃうよな』だから俺は身を引くよ」

「え…………ちょっと…………まっ……待ってよ、待ってよ……!」

「俺のせいで櫻井から身を引かれたなら俺が身を引けばいいんだろ。お前は、そういうことなんだろ。じゃあ、身を引いてやるよ」

「やっ…………止めてよ! 今……今あんたが私の味方じゃなくなったら私は……私は誰を頼ればいいのよ! 止めて……止めて赤石、止めて!」

「…………じゃあな」


 赤石は、電話を切った。


 即座に、八谷から電話が掛け直される。


 赤石はスマホに目を落とすが――


「…………」


 八谷からのそれを、黙殺した。


 赤石の心の中の澱が、深く、黒く、渦を巻く。


 もはやそのどす黒い澱は、自分でも管理できない程になっていた。


 その澱を管理できる程の心の余裕もなく、八谷に対する思いやりも、何もない。


 心の中が得体のしれない感情に満たされ、常軌を逸する。

 合理的な思考が、頭を満たしていく。

 

 八谷は、間違っている。自分が正しい。


 赤石はスマホの電源を落とし、天井を見上げた。






 その日の夕餉は、生ゴミよりもマズかった。




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