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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第8章 始業式 恋愛大戦編
381/593

第338話 船頭と会長はお好きですか?



「え~っと……」


 船頭が言いよどむ。


「親戚の人」


 赤石はそう言った。


「あ、そうなんだ。初めまして」

「いや、違うよ」


 未市は手を振る。


「……同じ高校の人?」

「卒業した先輩」

「はあ……」


 船頭はおずおずと赤石の家に入る。


「ここから先は入らせない!」


 未市が船頭の前に立ち、とおせんぼうをする。


「え~っと……」


 船頭は困惑した顔で足を止める。

 赤石はリビングへと向かった。


「残念だったね、帰りなさい!」

「帰らさなくても良いですよ、別に」

「この先に行きたければ、私を倒してからにしたまえ!」

「……え~」


 未市がしゅしゅ、と言いながらジャブを打つ。


「そこ通しても良いですよ、先輩」

「この子は君の何?」

「……知り合い」

「友達です」

「へ~……」


 未市は船頭を横目で見る。


「仕方ないね。今日だけだよ」


 未市は仕方なく、と船頭を通した。


「別に先輩が決めることじゃないですけどね」

「良いじゃないか、少年」


 未市は赤石を追いかけ、リビングへ行った。


「お邪魔しま~す……」


 船頭は赤石の家に足を踏み入れた。


「船頭ちゃんだったかな? ご飯はまだ?」

「あ、はい」

「じゃあ食べるかい?」


 リビングへ行けば、赤石が冷蔵庫の中をあさっていた。


「え、あ、一応持ってきたのもあるんだけど……」


 船頭はカバンから惣菜を持ち出した。


「良いね! 食べても?」

「はい」


 船頭は未市の圧力に気圧されながら惣菜を出した。


「少年、何を作るんだい?」

「適当にあるもので」

「私も手伝おうか」

「先輩料理出来るんですか?」

「君は失礼だね。私に出来ないことなんてあまりないよ」

「じゃあ手伝ってください」


 未市は赤石の隣に立った。


「よし、エプロンを持って来たまえ! 私はその間に裸になっておく!」

「裸エプロンなんて止めてくださいよ。そもそもエプロンないですし」

「えぇ……」


 船頭がしかめ面をする。


「ところで、船頭ちゃんは赤石君と同い年かい?」

「あ、はい」

「そうかいそうかい。じゃあ同じ高校じゃないね?」

「あ、はい。……え? なんで分かったんですか?」


 未市は人差し指でくるくると円を描く。


「私が在籍していたころの生徒は全員頭の中に入ってるからね。赤石君のスリーサイズもばっちりだよ」

「そんなの俺自身も知らないですよ」

「上から三十、三十、三十だね」

「水筒じゃないですか」


 あははははは、と未市は笑う。


「まぁ、新入生が入ってきて赤石君が毒牙にかけたという可能性もあったけれどね」

「新入生と関わる機会あまりないですよ」

「私は五人ほど毒牙にかけたけれどね」

「止めてくださいよ、生徒会長なのに」

「冗談さ、冗談」


 あはは、と未市は赤石の背中を叩く。


「別の高校ということは、船頭ちゃんと赤石君は別の場所で知り合ったのかな?」


 未市が船頭に水を向ける。


「あ、はい」

「ほう。どこで?」

「え~っと……」


 船頭は再び言いよどんだ。


「霧島が主催したボウリング合コン大会みたいなので会いました」

「合コン大会⁉ 君も随分と隅に置けないね!」

「試してみたかったんですよね、人間の思考と行動パターンを。どうせ二度と会うことのない人間になるだろうから滅茶苦茶してやろうと思って」

「その縁で今も会ってる、ってことかい。はぁ~……人生分からないものだねぇ」


 未市が顎をさする。


「船頭ちゃんは赤石君のことをよく知ってるのかい?」

「まぁ、嘘吐かれてたことは一応……」

「嫌にならなかったかい、こんな少年は?」


 未市が赤石の肩に肘を乗せる。


「こんな稀代の大嘘吐き、嫌じゃないかい?」


 船頭は苦笑する。


「こんな性格も口も悪いのに関わるなんて、君は随分と殊勝な子だね」

「あはは……」


 船頭は困ったような顔をする。


「出来た」

「お、出来たのかい」

「先輩は何もしてないですけどね」

「遠目から愛と情熱を注いでたからね」

「また適当なことを……」


 赤石は料理を持ってやって来た。


「ちなみに、今日お母さんとかは……?」


 船頭が赤石に尋ねる。


「母さんは川に洗濯に。父さんは今上でプログラミングをしてる」

「なんだいそのおかしな時代背景は」

「母さんはママ友とランチ。父さんは仕事」

「じゃあお父さん呼びに行った方が良い?」

「いや、昼はいらない、って。仕事が忙しいとか客先でトラブルがなんたらとか、リモートワークがなんたらだとか」

「時代だねぇ」


 いただきます、と三人は昼食を食べ始めた。


「あの、名前……」


 船頭が未市に尋ねる。


「あぁ、ごめんね。名前言い忘れてたね。青木悠子だよ」

「なんですか、俺の敵みたいな名前のそいつは」

「君は青木に敵対心を持ってるのかい。未市要だよ。気軽に要さんと呼んでくれたまえ」

「はぁ……」


 船頭は頷く。


「要さんはなんで悠人の家に?」

「そりゃあもちろん、エッチなことをしにだね」

「え……」

「違います」


 赤石が未市の言葉を遮る。


「止めてよ、乱暴する気でしょ!」

「しません。家庭教師で来てもらってる。あと先輩からいくつか指令貰っててそれも同時にこなしてる」

「ま、そんなところかな」


 未市はパスタを巻く。


「あの~、要さんは随分悠人と仲が良いみたいですけど」

「そりゃあ一年間も一緒にいたからねえ」

「一年間はいなかったですけど」

「私のあんなところやこんなところまで……!」

「見てません」


 赤石は断る。


「恋人とかじゃ……?」

「違う」

「違うね、今は」

「今は⁉」


 船頭は叫ぶ。


「男と女、同じ部屋にいるのだからいつコトが起きたっておかしくはないさ」

「ヤバいよ悠人、逃げなきゃ!」

「何が起きても自然の摂理だ!」

「自然の摂理じゃないから!」


 船頭は赤石の皿を自分の方に寄せる。


「あの、さっきから思ってたんですけど! あなた変態ですよね!」


 船頭がついに未市を指摘する。


「悠人の前で卑猥なことばかり言って、挑発するようなこと言って、どういうつもりなんですか⁉」


 船頭は未市に牙をむく。


「別にどういうつもりも何もないよ。私はいやらしいことが好きなんだ」

「悠人も何とか言ってよ!」

「出会った時からこんな感じだったから」

「出会った時から⁉」


 未市はセクシーなポーズを取る。


「なんか他の同級生の男がいる前で裸になったとかなんとか」

「えぇ⁉」

「事実さ」


 未市はこともなげに言う。


「別にいいじゃないか、減るものじゃないんだから」

「減りますよ! 精神がすり減ります!」

「私はすり減らないのさ」

「悠人も良いの、こんな下品な人!」


 船頭が赤石を揺さぶる。


「まぁ人それぞれだから」

「悠人の前で服脱ぎだすかもしれないんだよ!」

「まだ見たことがないから楽しみだ」

「楽しみだ、じゃない!」


 船頭が眉を顰める。


「何か問題でもあるのかい?」

「あります! 倫理に!」

「そうかなぁ……」


 未市はきょとん、とする。


「駄目だこの人、倫理観に問題があるよ悠人」

「まぁ人それぞれだから……」

「こんな下品な人と友達になっちゃいけません!」


 船頭が赤石に怒る。


「大丈夫だよ船頭ちゃん、私は女の子もイケるから!」

「何にいけるのか分かりませんけど、駄目です!」

「弱ったね……」


 未市が苦笑する。


「先輩はこうやって面白がってるだけだから」

「じゃあ人前で裸になったのも……?」

「それは本当だよ」

「やっぱり変な人じゃん!」


 船頭が中腰になる。


「でも先輩がいないと家庭教師がいなくなるから」

「大学に受かるために倫理観まで売っていいの⁉」

「いわゆる役得っていうやつだろ」

「役得じゃなあい!」


 未市が髪をかき上げる。


「私も喋らなければ、ってよく言われるからね」

「自分から言ってたら余計マイナスポイントですけどね」

「恐ろしい人……」


 赤石たちは食事を終えた。


「赤石君もハッピー、私もハッピー、ウィンウィンじゃないか」

「情操教育によくありません!」

「そういう教育は若いころに経験した方が良いんだよね~」


 未市が赤石に同意を求める。


「大人になるまで知らなくて良いです!」

「赤石君はどっちの味方なんだい?」


 赤石が未市と船頭を見比べる。

 トントントン、と音がする。


 ガチャ、とドアを開け、赤石の父がリビングにやって来た。


「……」


 赤石の父、徹は無言で冷蔵庫の中を開ける。


「何を探しに?」

「……水」

「あぁ、これ」


 赤石は徹に水を渡した。


「……」


 徹は再び上の階へ帰って行った。


「お父さんって何かやたらと家の物どこにあるか知らないよね」

「……分かる」


 未市と船頭は二人冷めていた。


「俺に優しい方の味方で」


 赤石はそう続けた。





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― 新着の感想 ―
[一言] 元会長、久しぶりに未市節全開だのう…
[良い点] 元会長と船頭さんのコント回。 ヤベェツッコミがツッコんでるのに効果が無ぇ
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