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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第8章 始業式 恋愛大戦編
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第335話 生徒会長の恋愛はお好きですか? 2



「よくもまぁ、あることないことペラペラ喋れたもんだな。ありもしないことをでっちあげて、俺を悪者にでもする気か?」


 西園寺は額に青筋を立てる。


「俺は由香と交際している」


 西園寺の発言に、クラスがどよめく。

 広く公開していた情報ではないことが明らかだった。


「彼氏ならもっとちゃんとあいつのこと見てやれよ!」


 櫻井はわなわなと震えた。


「あいつがどんな気持ちでお前と付き合ってるのか分かってんのかよ! あいつがいつもどんな気持ちでいるのか、なんで分かってやんねぇんだよ! あいつのことを考えないのが彼氏なのかよ! あいつのことを一番に考えてやれない奴が彼氏なのかよ!」

「……」


 櫻井と西園寺を取り囲むようにして、教室の中央にステージが出来た。


「由香から金ふんだくってたらしいな」

「そんなことはしていない」

「由香に暴力ふるってたらしいな」

「そんなこともしていない」

「あいつを襲ったんだろ?」

「していない」

「……」

「……」


 平行線のまま、話が進まない。


「百歩譲ってそんなことがあったとして、何故お前がそんなことを知っている? 何故お前がそんなことを知ることになる? 意味が分からない。俺を蹴落として何がしたいのか全く意味が分からない」

「証拠だって、あるんだよ」

「証拠……?」


 西園寺はぴく、と目尻を動かす。


「何それ……」

「最低じゃん」

「ありえないんだけど」

「もう休み時間終わるだろ」

「どうでもいいからさっさとしてくれよ」

「誰か甘利ちゃん連れてきた方が良いんじゃない?」


 櫻井はスマホを取り出し、甘利とのやり取りの数々を見せた。


「……」


 西園寺は静かに、見る。


「嘘、マジじゃん」

「マジで言ってるんだけど」

「さっさと終われよ」

「どうでもいいんだよ」


 櫻井と同時に西園寺に嫌悪が向けられる。

 櫻井のスマホには確かに、甘利との会話のやり取りが、あった。


 そして甘利とのやり取りの中に、


『彼と一緒にいても、たまに楽しくないって思う』

『彼のためにお金使ったんだけど、やっぱり私馬鹿だったかな?』

『彼が突然引っ張ってきて……』


 櫻井の発言を証明するような文言が、確かに書かれていた。


「本物じゃん」

「あいつヤバ」

「ディーブイってやつじゃない?」

「最低だな、あいつ」


 西園寺に悪意が、向けられた。


「作ったのか?」

「作ってるわけねぇだろ! 俺は直接、由香から聞いてんだよ! お前と付き合ってて苦しかったこと、悲しかったこと、嫌だったこと、全部あいつから直接聞いてんだよ! 彼女を苦しめるような真似すんなよ! 今すぐ別れろよ!」


 櫻井は腕を大きく振り、西園寺を糾弾する。


「そうだ……そうだそうだ!」


 教室の隅から、声がした。


「今すぐ別れろ、この暴力男!」

「女の敵!」

「生徒会長も辞めろ!」

「謝れよ!」

「彼女に謝れよ!」

「今すぐ別れろ!!」


 趨勢が、決まった。


「生徒会長辞めろ!」

「さっさと別れろよ!」

「帰れよ!」

「女に暴力ふるってんじゃねぇよ!」

「早く謝れよ!」


 西園寺に、次々に悪罵が飛ばされる。


「別れろ~、別れろ~、別れろ~」


 手を叩き、男が謝罪を求めだした。

 男に合わせ、クラスの意志が一つになる。


「「「別れろ、別れろ、別れろ」」」


 西園寺は周囲を見渡した。


「うるさい!!」

「…………」


 西園寺の一喝により、クラスに緊張感が走る。


「こんなものは嘘だ! 虚構だ! あり得ない! 俺はそんなことはしていない! 全てこいつの作り話だ! 俺と由香はそんな関係ではない! あいつも俺といる時はずっと楽しそうにしていた!」

「作り物なんて、そんなことするわけねぇだろ」


 櫻井が冷たい目で、西園寺を見下ろす。


「自分がしたことから逃げるなよ!」


 西園寺が拳を握りしめ、血走った目で櫻井を見た時、


「甘利ちゃん連れて来たよ」


 教室の扉が開いた。


「あ……ぅ……その……」


 甘利が気まずそうな顔で教室に入って来る。


「由香」

「由香……」


 櫻井と西園寺が甘利に視線を向ける。


「由香ちゃん、こいつに暴力振るわれたって本当? お金盗まれたりされたの?」


 その場にいる全員の視線が、甘利に注がれる。


「……」


 甘利は首を横に振った。


「由香……なんで……」


 櫻井が呆然と甘利を見る。


「その……でも……全部嘘じゃないっていうか……その……」


 甘利はもじもじと話し、気まずい様子でちらちらと二人を見る。


「はっきりして、甘利ちゃん!」


 連れてきた女子生徒が喝を入れる。


「拓未と付き合ってて、嫌だったこととかイラっとしたこととかを櫻井君に話してて、それでその、私の言葉がちょっと誤解して伝わってたみたいで……」


 甘利はごにょごにょと話す。


「でもこいつに金盗られた、って!」


 櫻井が西園寺を指さす。


「それは、一緒にデートしたのに拓未がいちいち割り勘とか細かくてうるさかったから……」

「暴力振るわれた、って!」

「髪乾かしてくれるときに髪の毛引っ張られて痛かったから……」

「無理矢理襲われたって!」

「外でそんなことしたくないのに、夜で暗いから大丈夫って拓未が強引に……」

「……」


 教室が静まり返る。


「……」

「……」

「……」


 誰も話を切り出さない。


「だから言っただろう。俺に話も聞かずに一方的に下らん噂など流しやがって」


 西園寺が櫻井を睨みつける。


「もう二度と俺たちに関わるな! お前のせいで俺たちの関係性が壊れたらどうする気だ!」

「お前が元々由香のこと寂しくさせてなかったらこんな風に相談もされてなかったんだよ!」

「……もう二度と俺たちに関わるな」


 そう言って西園寺は甘利の肩を抱き、教室まで連れて行った。


「由香を幸せに出来てないからこんなことになったんだろうが!」


 櫻井と西園寺の対峙は、苦い結果を残して終わった。








 放課後、図書室――


「ったく……」


 不機嫌なまま、櫻井が図書室に入って来た。


「あ」

「お」


 一人の女子生徒と、目が合う。


「ふふ」


 そして女子生徒は櫻井を見て、くすりと笑った。


「今日は散々だったね、櫻井君」

「全く、やんなっちゃうぜ」


 櫻井は女子生徒の隣に座った。

 切れ長の目に長身、細くしなやかな体にたくましい筋肉をつけた、健康的な体。

 短めのスポーツカットに少し大きめの学校指定のセーターを着こなした女子生徒は、頬杖をついた。


 京極明日香、校内の女子生徒として、最も女子生徒に人気のある女だった。

 王子と言われているその女子生徒は、可憐さと切なさ、そして華やかさと美しさを同時に兼ね備えた耽美な女子生徒だった。


「君はいつも騒ぎの渦中にいるね」

「いたくていてるわけじゃねぇっつ~の」


 櫻井は本を選びに立ち上がった。


「二年の最後もそんな感じだったらしいね?」

「まぁ……な」


 櫻井は伏し目がちに視線を落とした。


「俺の友達を傷つけたやつがいてさ、そいつ泣いてんだよ。苦しんでたし、悲しんでた。そいつのせいで、心に消えない傷を負っちまったんだよな。だから俺、そいつがどうしても許せなくてさ。俺の仲間を傷つける、女の子を傷つけて嗤ってるそいつがどうしても許せなくて、つい……」


 櫻井は手をグーパーさせる。


「あ~あ、俺も馬鹿だよな。内申に傷つけるようなことして」


 櫻井は頭の後ろで腕を組み、椅子を浮かす。


「ふふふ」


 京極は薄く微笑む。


「仲間思いだなんて素敵じゃないか。内申は下がっただろうけどね」


 櫻井は唇を尖らせる。


「へいへい、俺はどうせいつも単純脳ですよ~」


 櫻井はぷい、と京極から視線を逸らした。


「ふふふ、櫻井君は本当にお茶目だね」


 京極は櫻井の頬をぷにぷにとつつく。


「止めろよ、明日香」


 櫻井は照れくさそうに明日香の手をのけた。


「あ~あ、僕は櫻井君がうらやましいよ。あんな可愛い彼女さんまでいて」


 京極と水城はごく薄い知り合い関係を保っていた。


「僕なんて女の子なのに女の子からしか好かれなくてさ。男の子からは男っぽいってからかわれて、女の子からは王子様を求められて……」


 京極は切なげに下を向いた。


「僕だって王子様じゃなくて、女の子になりたいよ……。僕が女の子を求めたら、駄目なのかな……」


 短く切りそろえられた爪を、見る。


「男の子からも女の子からも、僕……ううん、私として見られない僕は、一体何者なんだろうね……」

「……」


 京極は、はっとする。


「な、なんちゃって。変なこと言っちゃったね、ごめん」


 京極は髪をかき上げ、不器用に笑った。


「お前はさ」

「……?」

「お前は偉いよ」


 櫻井が目を細め、京極を見た。


「いっつも誰かのために頑張って、自分じゃなくて、誰かのために動ける明日香は偉いよ」


 櫻井は京極の頭にポン、と手を乗せた。


「女の子らしくないなんて、そんなこと言うなよ。お前はもう十分かわいいし、女の子らしいよ」

「ほ、本当かい?」


 京極は上目遣いで、櫻井を見る。


「おう! 俺が言うんだから間違いねぇよ!」


 櫻井はポン、と胸を叩く。


「だからさ、もうちょっと自分のこと甘やかしてやってくれよ」


 櫻井は京極の頭を撫でた。


「俺の前でくらい肩の力抜いて、本当にいたい自分でいてくれよ……」

「…………」


 京極は頬を染め、耳まで真っ赤にする。


「お前ははこんなに可愛いんだからさ。皆お前の可愛さを分かってねぇだけだよ」


 櫻井はにか、と笑った。

 京極の頬は上気する。


「ご、ごめん、じゃあぼぼぼ僕はこれで!」

「え、ど、どうしたんだよ急に」

「なななななんでもなーーーい!」


 京極はそう言うと、図書室から慌てて出て行った。


「なんだよあいつ……変な奴」


 京極は図書室から出ながら、口元を押さえていた。


「初めて女の子扱いされた……」


 櫻井に撫でられた頭を、もう一度触る。


「可愛い女の子だって……!」


 ふふふふ、と笑みを携えながら、京極は駆けて行った。




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― 新着の感想 ―
外でしたのはそれはそれで問題では…?
[一言] 櫻井のキモさと赤石のキモさは通じるところがある気がする 結局惹かれあってそう
[一言] 本当におんなじ作者が平田作ったんかってくらい浅いぜ京極ちゃん、、、 ていうかやっぱりクラスメイトのモブ具合はすごいな。誰かを貶めることしか出来ないようにプログラミングされてるかのような単純さ…
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