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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第1章 ラブコメ ヒロイン活動編
37/594

第36話 クラスメイトはお好きですか? 4



 だが、ここで赤石は、根本的な謎にたどり着いた。


 何故平田は自分に「八谷と付き合っている」と言わせたいのか。 

 そして何故、こんなにも恫喝紛いに八谷と付き合っているかどうかを訊かれているのか。


 百歩譲って仮に八谷と付き合っていたとしても、平田には何の関係もない話だ。

 それなのに何故そう何度も何度も念押しをしてくるのか。


 それに、「付き合っている」という言質が無くても、写真を拡散すればそれだけで十分なはずだ。

 何故「付き合っている」という言質を欲しがるのか。


 赤石に対する平田の内心と、そしてこれからどうしていこうかと、そう思っているような目に、赤石は慄く。


「早く言ってくんね? ウチらも暇じゃないからさぁ。赤石、なぁ、あんた八谷と付き合ってんでしょ?」

 

 平田が赤石に詰め寄り、答えを迫って来る。

 

 赤石は平田を見据え――


「出掛けはしたが、付き合ってない」


 やはり、そう答えた。


 大丈夫だ、これで問題ないはずだ。

 八谷が大丈夫だと言っていた。なら、自分が出来ることはこれで正しいはずだ。

 八谷が言っていた。八谷が、後は八谷が何とかしてくれるはずだ。


 赤石は事後の処理を全て八谷に任せることを決意した。

 大丈夫、八谷が大丈夫と言っていたから大丈夫。自分には関係ない。後は八谷の問題だ。煮るなり焼くなり、後は全て八谷の問題だ。

 

 くどいほどに、何度も何度も心中で八谷に責任を擦り付ける。


 平田はこれ以上赤石を問い詰めても無駄だと悟り、ため息を吐いた。


「あっそ、じゃあもうこの写真ばらまくけど関係ないよね、マジで?」

「好きにしろ」


 赤石は平田から目をそらし、答えた。

 

 そもそもここまで聞き及ぶ平田が、写真を拡散しない訳がなかった。


 付き合っていると言えばそれを種にゆすり、写真を拡散する。

 そうなると、赤石は予測していた。


「じゃあもうあんたいいわ。八谷に訊くから」


 平田はをひらひらと振り、赤石に退室を促した。


 赤石は漠然とした不安を抱えながら、帰路に就いた。


 帰り道、八谷を探したが、八谷はどこにも見当たらなかった。




 その日の学校は、ひどくうらぶれたように思えた。














 いつもと同じ電車に乗って、いつもと同じように通学して、いつもと同じように学校に来た。


 だが、今日はいつもとは空気が違った。


 赤石は教室の中に入るなり、異様なものを目にした。


「皆、残念男が来たし~~~~~~~~~~~」

「…………」


 教室に入るや否や、平田が大声で叫んだ。

 クラスメイトは平田に同調する形で、ひそひそと陰口を叩き、赤石を見ている。


 赤石は自分の机に向かうが、机には今まで書かれたことのないようなものがあった。


『残念男』

『八谷に捨てられた男(笑)』

『勘違いクソ野郎』


 そんな呪詛という呪詛が紙に書かれ、机に張られていた。

 まさか八谷も……と、赤石は八谷の席の机に目を向ける。

 

 八谷の机はそれよりも更に苛烈だった。


『淫乱女』

『クソ野郎』

『ゴミクズ』

『尻軽女』

『盛りのついた猿』

『クソビッチ』

『発情期(笑)』

『男にしか興味がないゲス女(笑)』

『性欲の塊(笑)』


 ありとあらゆる罵詈雑言が書かれた紙が、八谷の机に張られていた。


 いじめだった。

 それは、誰かがいじめを告発しようとしても証拠を隠滅するための物だった。

 机に直接書けば証拠として残りやすいが、紙に書かれれば証拠とはならない。神奈が来る頃に剥がせば、証拠は残らない。


 八谷の机だけが不自然に周りから離され、重苦しい雰囲気が、教室内に漂っていた。


 八谷に何があったのか、何故こんなことになっているのか。


 二人でいるところが見つかっても何も問題はないはずじゃなかったのか。 

 どうして、こんなことになっている。


 昨日、平田は八谷に話を聞いたはずじゃなかったのか。自分と二人で出かけていることが知られていても問題はないはずじゃなかったのか。


 八谷、八谷は一体昨日何を言ったのか。


 茫然自失と机を眺めていると、平田がやって来た。


「あっれぇ~、八谷に捨てられた赤石君じゃないですかぁ~? ぷふっ、可哀想にねぇ、マジ。あんたに魅力がないからって。あんたもあんな女と一緒にいるとか、本当気持ち悪いよね」

「……」


 赤石の肩を叩き、嘲笑をその瞳に宿し、教室内に聞こえるように大声で叫ぶ。


「八谷さんあんなに櫻井君のことぶったり叩いたり好意寄せてたのに赤石とデートしてたんだってね」

「ムカつくよね」

「そうだよね。あんな思わせぶりな態度して、結局赤石とデートしてるんだもん。あり得ないよね」

「どうせ櫻井君が駄目だったら赤石とそのまま付き合う予定だったんだよね。あれ、キープだよね。私ら女子とは全然話さないくせに、男の話になったらすぐほいほいついて行くのよね。本当最低だよね」

「それでついて行く赤石も赤石だよね。あいつもどうして八谷なんかと一緒に行くのかな」

「本当……」

「「気持ち悪い…………」」


 教室の隅で赤石を見て、三人の女子学生がわざと赤石に聞こえるほどの声量で、陰口を叩いていた。


 平田やその取り巻きはくすくすと笑い、赤石を指さしている。


 そういう……ことか。


 赤石は、大体の事情を理解した。


 クラスでの支配者は、櫻井とその取り巻きで間違いはなかった。

 だが、それは陽の、表舞台の支配者であり、裏の支配者としては、平田が台頭していた。

 

 櫻井とその取り巻き以外に関心を持っていなかったため、平田が裏で陰謀を働かせ、こんなことをしているとは、全く気付かなかった。


 平田は世論でクラスメイトを動かす、裏の為政者だった。

 悪意で人を操る、化身だった。

 悪意で人をコントロールする、そういう人間だった。


 クラスメイトを知る必要がないと決めつけていた自分に虫唾が走る。


 赤石は、罵詈雑言が書かれた紙を取り、捨てた。


 クラスメイトから、嫌悪の表情を湛えた顔で見られる。


 赤石はたまらず、教室を後にした。








「ちょっと、皆ひどすぎるよ!」


 教室の前で、水城の声が聞こえた。

 赤石が帰ってくると、櫻井とその取り巻きが既に教室にいた。


 水城は大量に張ってある紙を一枚一枚取る。


「皆ひどいよ! 恭子ちゃんが赤石君とデートしてたからってこんなこと……あ」

「…………」


 水城と、目が合った。

 水城は気まずそうな顔をして、机の紙を取ることに再度注力する。

 赤石もまた即座に目をそらし、自分の席に座る。





 八谷は、元々嫌われていたんだろう。


 赤石はゆっくりと、昨日に起こったことを紐解くように、考え始めた。

 

 八谷はその身に余るほどの美貌を持っており、それに加え、性格が苛烈だった。

 心は繊細で壊れやすいのにもかかわらず、対人ではひどく傷つけることを平気で言う。

 


 自分自身、何度か八谷に「私はモテるわよ」と言われ、嘲笑するような言葉も何度か聞いた。

 その苛烈な性格が災いしてか、女友達がいなかった。

 八谷から何度か友達がいないと、聞いていた。

 誰に対しても「私はモテる」などと苛烈な事を言っていたんだろう。

 本当に美貌を持っている分、それは看過できるようなものではなかったんだろう。

  

 八谷は元々、嫌われていたんだろう。

 だが、今までは八谷を非難する材料がなかった。

 

 生徒たちは純粋に、八谷を堂々と非難するだけの理由が欲しかったんだろう。


 同じ原理に基づけば、水城やその他取り巻きも同じことが言えそうなものだが、八谷のように苛烈な性格の女は取り巻きの中にはいない。

 それに加え、他者を貶めるようなこともない。男が嫌いと公言していることが災いし、言動の不一致が責められた。八谷が関わっている男は主に櫻井だけだ。


 不純という言葉よりは、むしろ取り巻きは櫻井にだけ関心を示していた。

 それは、まだ許されることだったのだろう。

 

 自分がモテることに対して絶対の自信を持っており、それ相応に結果を残している。それだけで反感を買うのは必至だったのだろう。

 男が嫌いだと公言していたそこが、八谷をまだ看過できる最終防衛ラインだったんだろう。

 

 「男子が嫌いだ」と口では公言しておきながらも櫻井にはべったりとくっつき、生徒会長選挙の時には二人で何か淫猥な事をしていた、と生徒の目には映ったのだろう。

 事情を知らない人間が、櫻井にべったりとしている八谷と櫻井とが生徒会長選挙に遅れて二人でやって来たらどう思うのか。

 間違いなく、よからぬことを考える。


 それに加え、自分たちが学校の行事にかかりきりになっているのにも関わらず八谷だけは櫻井と逢瀬を楽しんでいた、と反感を買っても何もおかしくはない。


 そこに、自分と共に映画館にいる写真が、広まった。さすがに、八谷の言行不一致に平田も我慢の限界が来たんだろう。


 男子は嫌いだと公言しておきながら櫻井とは逢瀬を楽しみ、学校の行事を抜け出してそれを見せつけるようにした。

 四方八方に対して「私はモテる」などと馬鹿にしてくることを言った。

 櫻井だけを恋慕しているのかと思えば、他の男すらもキープとしてデートをしていた。そういう風に、見えたんだろう。


 そう、映ったのだろう。

 それは平田にとって、平田の考えに寄り添わないものだったのだろう。許せなかったんだろう。なんて烏滸おこがましい奴だと、そう思ったんだろう。


 付き合っていないと自分が返答したときは、嫌味こそ言われれども、まだ拡散するかどうかを決めかねていた。

 

 だが、その後八谷を探すと言っていた。

 おそらくは、会ったのだろう。

 八谷とも直に話をしたのだろう。

 八谷が素直に謝り、自分の非だ、と認めれば、あるいはこんなことにはなっていなかったのかもしれない。

 だが、八谷はああ見えて情に厚い女だった。


 自分を駅まで送っている時に「手伝って貰ってるのに、無下には出来ない」と言っていた。

 そんな自分が、平田の口から貶されればどう思うか。

 間違いなく、怒っただろう。激怒と言っても差し支えないのかもしれない。


 それに加え、自分と二人でどこかに出かけることが悪いことだと思っていない八谷は、その点においても平田に強く当たったんだろう。


 怒った八谷は平田に対して思いつく限りの罵詈雑言を言い、その過程で平田は刑を執行しようと考えたんだろう。


 平田から見れば八谷は高慢で人を見下して何が悪い。そう言っているように見えたんだろう。


 それでも八谷は誰からも刑を受けない。

 言葉に何の責任もない。


 それは平田にとって、ヒドく問題だったのではないか。


 何も問題はないと高を括っていた。  

 それが、誤算だった。   


 本当にバレてはいけないのは、櫻井とその取り巻き以外の人間だった。    

 八谷がここまで嫌われているとは、思ってもみなかった。


 全ては推測だ。

 当て推量の域にすら入るのかもしれない。


 だが、八谷が今までしてきたことと、その性格を鑑みれば、そこまで外れているとは思わなかった。


 その過程で、平田の不興を買った八谷の煽りを受け、自分も巻き込まれいじめられていると、そういうことなんだろう。


 

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