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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第8章 始業式 恋愛大戦編
364/593

第321話 不登校はお好きですか?



 ゴールデンウィークを少し先に控えたある日――


「……」


 コロコロ、と野球ボールを弄んでいる少女が、公園にいた。


「……」


 グローブを持ち、壁にボールを当てながら時間を潰す。

 そしてその少女を見守るようにして、ベンチに一人の男が座っていた。


 男は本を読み、少女を気にかけることなく、ぺらぺらとページをめくる。

 少女は男に幾分かの視線を向けながらも、野球ボールを壁に当て続けていた。


「……」

「……」


 トン、トン、トントントン、と子気味の良い音が公園に響く。


「……」

 

 少女は男から一定の距離を保ちながらも、壁当てを続けていた。

 ボールを投げ、壁に当て、跳ね返ったボールをキャッチする。

 ボールを投げ、壁に当て、跳ね返ったボールをキャッチする。

 

 一人ぼっちのキャッチボールに満足をしたのか、少女は公園を出た。

 男はそのまま、ページをめくっていた。





 後日――


 同様にして、少女は壁当てをしていた。

 壁にボールを当て、跳ね返ったボールをキャッチする。

 色白で、体に不相応な大きめのサイズのスウェットを着用し、乱れた長髪と切れ長の目をした少女は、グローブを揉んでいた。

 

 少女は再び壁当てを始めた。

 今日も男は、ベンチで本を読んでいる。


 コンコン、コロコロ。

 コンコン、コロロロ。

 

 跳ね返ったボールが少女の手元へ、吸い込まれるようにして戻る。

 

 男は少女の挙措に興味を示さず、ゆっくりとページをめくっていた。

 既に半分以上を、読み終えていた。


 壁にボールを当てた少女は、ちら、と男の方を見た。


 壁にボールを当てる。

 

 コンコン、コロロロ。


 跳ね返ったボールは少女の手元まで戻らず、男の足元まで転がって行った。


「あ」


 少女はあらぬ方向へと転がって行ったボールを取りに、小走りで追いかけた。

 男は足元まで転がって来たボールを拾った。


「ボール……」


 男はボールを拾い上げる。

 そして少女に、投げてよこした。


「……ありがとう」


 少女は礼を言うと、再び壁当てに戻った。


 コンコン、コロロ。

 コンコン、、コロロ。


 少女はその日の壁当てを終え、公園から去った。






 そして翌日――


 少女はいつもよりも早くに公園に来て、ベンチに座っていた。

 男が本を読んでいたベンチに、座っていた。


 ほどなくして、男が公園へとやって来る。

 少女に気が付いた男は少女を一瞥すると、別の場所へと足を向けた。

 ベンチから去り、隣にあるブランコに座った。ブランコに座りながら、本を読み始めた。


 ベンチに来るものと思っていた少女は少し面食らう。

 少女はベンチから立ち上がり、男の方へと向かった。


 男は少女を気にかけず、やはり本を読む。


「あの」


 男の下まで向かった少女は、男に声をかけた。


「あの」


 よく見れば、男の耳にはイヤホンが付いていた。

 少女は少し声を大きくして、男に話しかける。少女に気が付いた男は、少女を見た。


「赤石……?」

「……」


 赤石はイヤホンを、外した。


「……誰ですか?」


 赤石は困惑した表情で少女を見る。


「鈴木」

「車メーカーの」

「ヒューマンの」


 鈴木は赤石の隣のブランコに座った。


「私のこと、覚えてる?」

「全く」

「ヒドいな~」


 鈴木はきょろきょろと辺りを見渡した。


「同中同クラの」

「……あぁ」


 赤石は納得したようにうなずいた。


「女神様か」

「止めてよ、その呼び方……」


 鈴木は赤石から視線を外した。

 髪の内側を緑と金で染めた鈴木は、ゆっくりと顔を上げた。


「誰かと思ったよ」

「同級生の顔忘れないでよ」

「ほとんど見たことなかったからな」


 赤石は鈴木の顔をじっくりと見る。


「不登校だったからな、お前」

「……」


 鈴木は視線を落とした。


「そんな顔してたんだな。初めて知ったよ」

「ほとんど学校行かなかったからね……」


 鈴木はきぃきぃとブランコを揺らし始めた。


「中学の頃は髪も黒だった気がするからな」

「化粧も髪染めるのも禁止されてたからね、中学じゃ」


 鈴木は髪を持ち上げながら、言う。


「久しぶり、赤石」

「……あぁ」


 鈴木は赤石を見た。


「最も、お前の顔を見たのも一年で二回くらいだったと思うけどな」

「そんくらいだったかもね、学校行ったのは」


 くすくす、と鈴木は笑う。


「高校に入って少し自由になって、髪を染めるのも化粧もオッケーになったわけだ」

「…………うん」


 妙な間が、空く。


「……」

「……」

「もしかして、高校にも行ってないのか?」

「……うん」


 鈴木は、中学高校と、続けて不登校となっていた。


「引きこもり少女だな」

「ちょっとはオブラートに包んでよ」

「マイペースな主人公だな」

「包み方が独特だね」


 鈴木は笑う。


「赤石もいじめられてたよね」

「まぁ人並みには」

「人並み以上だったよ」


 数回と行った中学校の中でも、鈴木の脳裏に焼き付いているのは、赤石の不遇な学校生活だった。

 そして鈴木と赤石の境遇が似ていることからも、二人は多少顔を見知っていた。


「だれだっけ、あれ。高梨さん? がなんとかしたとかしなかったとか」

「まぁ、そんなところだな」

「ふ~ん」


 鈴木はブランコをこぐ。


「赤石は高校で上手くやってるの?」

「全然」


 赤石は本を閉じた。


「高校でも?」

「三つ子の魂なんとやらってやつだな」

「あはは」


 鈴木は困り顔をする。


「私たち、似てるね」

「ある意味ではそうかも、な」


 赤石もブランコをこぎ始めた。


「お、勝負する?」

「不登校女子高生が登校中男子高生に勝てるわけないだろ」

「私中学の頃は野球少女だったから、不登校元野球部女子高生だよ」

「じゃあ負けるかもな」


 赤石と鈴木は二人でブランコをこぎ始めた。


「でも、いい年した高校生が公園でブランコに座ってたら、子供たちがこげなくて困るかな」

「今の時代、公園なんて遊具もなけりゃ、ボール遊びも禁止されてるよ。公園で出来ることなんて散歩か井戸端会議くらいだ。子供なんてどこにもいやしないよ」


 見れば、公園には赤石と鈴木しかいなかった。


「私たちの学校生活みたいだね」

「だな」


 赤石はブランコから飛び降りた。


「で、どうしたんだ、急に」


 鈴木もブランコを飛び降りた。


「別に。たまたま見かけたから声かけただけ」


 鈴木は赤石を覗き込む。


「元気そうだな」

「元気じゃないよ、全然。高校もまともに行ってないし。全然元気じゃないよ……」


 鈴木は手元のグローブを見る。


「女神様、か」

「……そだね」


 鈴木は伏し目がちに答えた。

 鈴木女神すずきめがみは、悲しげに、笑った。


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― 新着の感想 ―
[一言]  まさかの新キャラ投入!  ホント次から次に飽きさせない赤石さん。  吸い寄せてるなぁ……
2022/08/28 12:07 退会済み
管理
[一言] りべらるさんかなり前に高梨と須田の会話でイジメられてた話出てましたぜ
[一言] 名前が女神なのかw それは不登校になるわw
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