表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第8章 始業式 恋愛大戦編
355/593

第312話 平田家はお好きですか? 5



「お前はもう学校来ないのか?」


 赤石は布団の中で呻いている平田に言う。


「もう行かない」

「高校卒業できなくなるぞ」

「高校なんて卒業しなくても生きていけるから」

「これからの人生が厳しくなるかもしれないぞ」

「勉強なんてしなくたって偉くなれる」

「偉くなれるかもしれないが、出来ない理由がないなら、やりたいことがないなら、しておいても良いかもしれないだろ」


 赤石は平田の説得を試みる。

 自分でもどうして、平田にここまでしているのか分からなかった。

 未市の要望に応え、平田から大学生の情報を引き出すことが目的だったが、平田が学校に来るかどうかの話にすり替わっていた。


 あるいは、破滅的な平田に自分と同じものを感じたのか、それとも、ただ漫然と、苦しんでいる者を見て大儀も持たず介入しているのか。

 赤石は自分でも、分かっていなかった。


「私は一人でも生きていけるから」


 平田が布団の中から、言う。


「今までとっかえひっかえ彼氏作ってたとは思えないセリフだな。一人でも生きていけるかもしれないけど、誰かが支えてくれる方が良いだろ」

「男なんていなくても私は一人で生きていけるから」

「荷物運ぶときとか力仕事の時に困るだろ」

「男なんか皆クソ。死ねばいい。今まで付き合った男も皆クソ。お前もクソ。ゴミ。死ねばいいのに」

「……」


 赤石は考える。


「責めるつもりじゃあないが、お前は前の彼氏に何かしてもらったり、逆に何かあげたりはしたのか?」

「……は?」

「何もないのに髪を引っ張られたりはしないと思っただけだ。お前は何もしてないのにそんなに暴力を振るうような男と選んで付き合ったのか?」

「それは……」

 

 押し黙る。


「別に、荷物持ってもらったり買い物付き合ってもらったりしただけだし。それだけで勝手にキレて勝手に暴力ふるって、勝手にフッて、勝手に浮気して。男って本当なんなの。別に私からは何も上げてないけど、だからってあんなことするのおかしくない? 私が何もしてなかったら浮気して良いわけ? 暴力振るって良いわけ? 本当おかしいよ、お前ら」

「……」


 次に、赤石が押し黙る。


「男なんていなくていい。全員死ねばいい。気持ち悪い」

「滅茶苦茶なことを言うなよ」


 赤石は訥々と話す。


「男がいないと困るだろ。インフラだって誰が整備するんだよ。ゴミ処理も建築も工事も消防も警察も、男がいないと動かないだろ。家もない、水もない、ゴミも片付かない、インフラが動かないと困るだろ。女に出来ないことを男は出来るだろ」

「……きっしょ。そんなに男様が偉いわけ? お前らだって私らがいないと何も出来ないじゃん。女に依存してるくせに何偉そうに語ってくれちゃってるわけ? 本当そういう所がキモいって言ってんの。自分のキモい所も自覚できないのにいちいち偉そうにぐちぐちぐちぐち、ウザいんだよ。もういいから出てけよ」

「……」

「女に依存してるくせに偉そうなこと言うなよ」


 平田が赤石吐き捨てる。


「……そうだよ」

「……」


 平田が布団の隙間から赤石を見る。


「俺たちはお互いに、依存しあって生きてんだよ」

「……は?」

「人間っていうのは、お互いに依存して生きてんだよ。女に出来ないことを男は出来るし、男に出来ないことを女は出来る。お互いに依存しあってるんだよ。協力し合って、支えあって、お互いに肩を持って、そうやって生きてるんだよ、人間は。何十年も、何百年も、何千年も何万年も、そうやってお互いに歩んできたんだよ。どっちかが悪いとかどっちかが良いとかじゃなくて、お互いに敵視するんじゃなくて協力した方が良いんじゃないか。どっちかが偉くてどっちかが偉くないなんてわけでもなければ、どっちかが正しくてどっちかが正しくないなんてこともないと思う。人間は人それぞれ色んな言葉を持ってて、色んな感情を持ってて、色んな性格を持ってるんだから、一元的に測れるものでもないと思う」


 赤石は座り直し、平田の被った布団に、話しかける。


「どっちが悪いとかどっちが良いとかじゃない、お互いに持ってないモノを補完しあって、支えあって生きてきたんじゃないか。男も女も違う生き物だ。体格も違えば考え方も違う。どっちかがどっちかを理解することなんて永遠に出来ない。力を持っている側は横暴に力を振るって力で制圧したら駄目だ。力に守られる側はその立ち位置を利用して、相手を貶めるようなことをしたら駄目だ。誰かを悪者にして、敵視して、理解せずに嫌い合うようなことはしない方が良い。誰かを悪者にして、相手のことを丸ごと否定するようなことはするな。どっちかが偉いわけじゃない。どっちかが悪いわけでもない。人間なんてもんは、皆偉くて、皆駄目なんだよ。そこにあるのは生まれた時に付与された性別なんかじゃなくて、育っていくうえで獲得した性格だったり個人差だったりするんだよ。お前が前の彼氏にどんな目に遭ったのか、お前はその彼氏に何をしてたのかは詳しくは知らないけど、それが原因で相手のことを丸ごと悪く言って敵視するようなことは止めろ。お互いを憎みあうな。支えあえ。協力しろ。お前の人生はまだまだ始まったばかりだろ。こんなところで倦むな。間違ってたなら修正しろ。正しいと思うならそのまま生きろ。後ろを向くな。振り向くな。前を向け。進め。お前が自分自身で、今のお前の人生を切り開け。力がいるなら協力してやる。ずっと憎みあったままじゃ駄目だ。起きろ、平田」


 赤石は平田の布団に手を差し出した。


「……」


 数秒の沈黙の後、


「うっざ」


 パァン、と小気味の良い音とともに、平田は赤石の手を叩いた。


「なに勝手に人格者ぶってるわけ。うっざ。私があったことに寄り添おうともせずに、上から目線でぐちぐちぐちぐち。そりゃあ一見正しそうなこと言えばいいだけだから簡単だよね。一見して世間で認められてそうな奇麗事言ってればいいんだから。それで満足? 自分だけ人に説教して満足? こんなことがしたかったわけ? こんなことをするために私の部屋まで入って来たわけ? きっしょ。早く出てって。気持ち悪いから」

「……そうか」


 赤石は出した手を引っ込めた。


「まぁ議論なんてものは後出しじゃんけんだからな。先に話した奴の揚げ足を取って、一見世間で認められてそうな常識論だけ言えばそいつがあたかも正しいかのように見えるのはそうだな。今のお前に言ったところで、ただのいやみにしかならなかったな」


 赤石は立ち上がった。


「でも思ってることは本当だ。誰かを説得したいなら、相手に不快な思いをさせるんじゃなく、敵対するんじゃなく、ただ本心で思いの丈を伝えることだけが大事たと思ってるからな。何かを伝えたいために何かを悪者にしてるようじゃ駄目だと思ってるのは本心だよ。学校、来れるなら来いよ。じゃ」


 赤石は平田のドアに手をかけ、部屋を出た。


「…………」


 平田はそっと、布団から出た。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 自分に重ねたな、、、
[一言] 平田はそっと、布団から出た。 そして、窓から飛び立った。 こうなったらいいなw
[気になる点] 後半の赤石の説得部分、平田にではなく赤石自身に言ったように感じたのは俺だけかな?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ