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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第8章 始業式 恋愛大戦編
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第299話 事件の反応はお好きですか?



 朝、一人通学してきた赤石は昇降口に来た。

 新学期に入って一週間が経った。クラスの雰囲気にも慣れ、三年生になったという自覚が薄ら芽生えていた。


 赤石は自身の上履きを見る。


「……」


 上履きがなかった。

 近くを見渡すと、壁沿いの隅に上履きが乱雑に落ちていた。


「……」


 赤石は上履きを取り、埃をはらい、名前を見た。

 赤石の名前が、書いてあった。

 何があったのか、赤石は靴を履き替えた。







 赤石は廊下を歩く。


「あ、あれじゃない?」

「嘘、見て」


 女子生徒が赤石を見て、ひそひそと話す。

 再び赤石を見た後、女子生徒たちはくすくすと笑った。


 鳥飼が赤石に襲われた、という噂は学校中に広まっていた。

 噂に尾ひれが付き、赤石と鳥飼の二人の事件はセンセーショナルに、そして大々的で劇的な物語へと変わっていた。

 

 いわく、生徒たちの間では、赤石が交際していた鳥飼に逆上し、暴行した、ということになっていた。

 元来、赤石と鳥飼は付き合っており、鳥飼は赤石のモラルに欠ける言動に辟易していた。赤石から交際を申し込まれ交際することとなったが、赤石の言動に問題を感じていた鳥飼は校内で赤石をわざと突き放すようにしていた。

 しかし、あまりにも目に余る赤石の行動が嫌になり、偶然遭遇した体育倉庫で、鳥飼は赤石に別れを告げた。

 鳥飼に首ったけになっていた赤石は鳥飼から告げられた別れを飲み込まなかった。むしろ、鳥飼を脅すような発言、行動で鳥飼を蝕もうとした。

 それでも意志の強かった鳥飼は赤石からの脅しに屈することなく、赤石に別れを告げた。鳥飼と交際を終了するということに納得のいかなかった赤石は鳥飼に逆上し、体育倉庫の中で鳥飼を暴行した。

 そしてあまつさえ、赤石は鳥飼に……。と、いうことになっていた。


 恋愛の縺れの末に赤石が鳥飼に逆上した、という最も信憑性があり、違和感のないストーリーに仕上がっていた。

 鳥飼自身が流した噂か、噂を経由する間に出来上がったものか、鳥飼が第三者に頼み、それを広めてもらったか、あるいは何の関係もない第三者によるものか。

 そうなることが自然であるかのように、赤石は交際していた鳥飼に暴行を働き、逆上した、ということになっていた。仕立てられていたかのような美しい物語の展開となっていた。


 そして赤石は、そういった噂が流れていることを知らない。

 赤石はあの一件以降、口を閉ざし情報をシャットアウトしていた。赤石は鳥飼の元カレという関係性として噂されていることを知らない。

 校内では、鳥飼はクズな男と付き合ってしまった不幸の少女として扱われていた。

 そして赤石は、全ての女子生徒から蛇蝎の如く嫌われていた。女子生徒のネットワークでは、赤石をモラルに欠ける行動をし、女性をひどく扱うクズ男となっていた。


「本当可哀想だよね」

「分かる。フラれたからって暴力ふるうのとか最悪じゃない?」

「私あんなのと付き合ってなくて良かった~」

「前から問題行動多かったもんね」

「だよね~」


 女子生徒は赤石を見てひそひそと話し合う。

 赤石は自分の話がされているだろう、と察しはついていたが、特に何かの反応をすることもなく教室に入った。


「うぇ~い、ストラーーイク」

「ふぅーーー!」


 教室の後部では、男子生徒がハンカチを丸めて野球をしていた。

 赤石は自身の席に座り、今日も一日が早く終わることを祈りながら、朝の準備を始めた。







「もぐもぐ」

「うるさいわね」


 高梨と須田は、食堂の中庭で二人昼食を取っていた。


「はむ」

「アニメのヒロインみたいなこと止めなさいよ」

「もぐもぐ」

「静かに食べなさいよ、ご飯がまずくなるわ」

「パンじゃん」

「そういうことを言ってるんじゃないのよ」


 須田と高梨はベンチに座り、二人でパンを食べていた。


「良い天気だな~」

「そうね」


 高梨と須田は空を見上げる。


「紫外線はお肌の大敵よ。紫外線に対して無防備な女の子はこの世界に存在しないわ」

「日焼け止めみたいなやつ? 俺あれ塗ったことねぇわ」

「男だからでしょ。本当に粗野で野蛮だわ。日焼け止めの一つも塗ったことないなんて、原始人にお腹抱えて笑われるわよ」

「原始人以下か、俺は!」


 須田は高梨にべし、と突っ込む。


「はぁ~……」


 須田は大きなため息を吐いた。


「なによ、うるさいわね。幸せ逃げるわよ」

「ため息を吐くから幸せが逃げるんじゃなくて、幸せが逃げてるからため息ついてるんだよ。幸せな奴はため息つかないんだなぁ」

「世界の真理ね」


 須田は片手でジャムパンを頬張りながら肩を落とす。


「なぁ、俺どうしたらいいかなぁ」

「何をよ」

「悠のことだよ」

「赤石君ね」


 高梨と須田は赤石の一件で困り果てていた。


「別に放っておきなさいよ、あんな男。私たちが気にかけるようなことじゃないでしょ」

「でも今悠一人ぼっちじゃん。やっぱ俺らがそばにいて支えてあげなきゃみたいなところあるんじゃん?」

「ないわよ、そんなこと。赤石君が勝手に一人で怒って勝手に一人ぼっちになったんでしょ。なんで私たちが赤石君のことなんて気にかけなきゃいけないのよ」

「でもさ~」

「赤石君のことはもう死んだと思いなさい。赤石君に関わったら私たちまで巻き込まれるわよ」

「でもさ~~……」


 須田は肩を落とす。


「だから私は言ったのよ。余計なことはするな、って。なんで赤石君は私の言うことも聞かずに勝手に暴走して勝手に一人ぼっちになってるのよ」


 高梨は額に青筋を浮かべながら、拳を握る。


「だから駄目なのよ、赤石君は」

「高梨も悠が怒ってる時になんとかしてくれたらよかっただろ~」

「だから、巻き込まれたくなかったのよ。赤石君が怒ってるのに私が赤石君を止めに行け、って言うの? あんなに怒ってる男のこと止めれるわけないじゃない、私だって女の子なんだから。私の体が心配だわ」

「冷たいなぁ」

「冷たくないわよ。普通の人はあんなのに巻き込まれに行ったりしないのよ」


 高梨はクリームパンを頬張る。


「赤石君が櫻井君に怒ってるのに私が間に入って、どうどう、まぁまぁそんなに怒らずに、なんて言いに行けって言うの? 馬鹿ね、あなたは」

「そうした方が結果的にはダメージが少なくて済んだんじゃないのかなぁ……」


 須田はあぁ~、とベンチに背を預ける。


「赤石君はきっと一人になりたかったのよ。もう疲れてたんじゃないかしら。人がいっぱいで。結局、赤石君はいつまで経っても人を選別するのよ、味方と敵に。何かあった時に自分に手を差し伸べてくれる人がいない、って証明したかったんじゃないのかしら」

「今が何かあった時だろぉ~~~!?」

「大丈夫よ、赤石君なら。生来の嫌われ者なんだから。一人ぼっちになったって問題ないわよ。私たちは赤石君みたいに嫌われ慣れてないのよ」

「うがぁ~~~~~~」


 須田は頭をかきむしる。


「それに、赤石君だって私たちに支えて欲しい、なんて思ってないはずよ。一人にしてくれ、って思ってると思うわ。ここで私たちが中途半端に赤石君に関わったら私たちにも悪意が飛んでくるわよ。それこそ、赤石君が望んでいない結果になるんじゃないかしら」

「自分に飛んでくる悪意くらいなんだよ~。お前悠に恩義とかねぇのかよ~~」

「だから、私たちに悪意が飛んでくることが赤石君の本意じゃない、って言ってるのよ。分からず屋ね、あなたは」


 あ、と高梨は目を丸くした。


「赤石君だわ」


 高梨は後方を見ると、赤石が食堂の購買に来ていた。


「手振ってみたらどうかしら」

「もち」


 須田は赤石に向かってお~い、と大きく手を振った。


「……」


 赤石は須田を一瞥した後、まるで自分に向けられたものではないかのように黙殺した。


「ほら、ね」

「なんでだよ~~」

「あなたも赤石君が鳥飼さんに別れを告げられて暴行したことに怒って友達関係なんて解消した、ってことにしておいたほうが良いわよ」

「そんなの、いつまで続ければいいんだよ……」

「さぁね。下火になるまでかしらね」

「どうすればいいのか分かんねぇよ、俺馬鹿だから~」

「確かにそうね」


 須田は頭をかきむしる。


「ってか、悠って付き合ってたの?」

「あなた、あんな根も葉もない噂信じてたの?」

「いや、別に信じてたとかじゃなくて」

「私が近くにいるのに鳥飼さんなんて選ぶわけないでしょ。赤石君が仮に選ぶのだとすれば、私か私に見合うほどの美貌を持った才女のはずよ」

「自己評価が高いこって」

「そうかしら。これでも謙遜したつもりなのだけれど」

「高慢だなぁ~」


 高梨はきょとん、とする。


「まぁ、今は私たちは赤石君に近づかずに穏やかに暮らすのみね」

「堪えるわ~……」


 須田と高梨は二人で毎日のように会議を開いていた。




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― 新着の感想 ―
[一言] 高梨さん裏で暗躍して赤石君を助けてあげて〜
[気になる点] 高梨はまあ間違ったこと言ってないけど、須田ってこんなんだっけ?
[気になる点] いつだったか、大学進学の進路の話をした時に、「お前は自分と離れて疎遠になっても問題なくやっていける」という赤石の高梨評は間違ってはいなかったんだな、と。 当人には自覚はないのだろうけど…
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