閑話 雪合戦はお好きですか? 4
弁当を食べ切った赤石たちは立ち上がった。
「よし、準備体操すっか」
赤石と須田は準備体操を始めた。
「準備体操って、そんな体育じゃないんだから~」
船頭が赤石と須田を笑う。
「いや~、準備体操大事だぞ~。俺の先生の話なんだけど、準備体操しなかったからアキレス腱切れた、って。船頭も準備体操した方がいいぞ~」
「嘘~」
「今準備体操しないと、大変なことになりますよ!」
須田が船頭を脅す。
「悠人もそう思う?」
「知らん」
「じゃあなんで準備体操してんの?」
「統がやってるから仕方なく」
赤石と須田は背を合わせお互いを背中に持ち上げる。
「じゃあ仕方ないから私もやるか~」
船頭が大きく伸びをし、やって来た。
準備体操をし始める。
「雪合戦! 雪合戦!」
上麦が跳ねてやって来る。
「白波ちゃんも準備体操しよ~」
船頭が上麦を呼ぶ。
「三葉」
「じゃあ私たちもしよっか」
暮石たちも続々と準備運動をし始める。
「よし、じゃあ俺らは雪だるま作っとくか」
「そうだな」
赤石と須田は二人で雪だるまを作り始めた。
「国宝作ろう、国宝」
「無茶言うな」
須田が作った大きな雪玉の上に、赤石の作った雪玉が乗る。
「おぉ~」
赤石と須田は拍手する。
「雪合戦しよ~!」
「オッケー」
準備体操を終えた暮石たちがやって来た。
「雪!」
上麦が須田に雪玉を当てる。
「冷たっ!」
須田は雪玉の当たった箇所をパンパンと叩いた。
「私にもやらせてちょうだい、射的ゲーム」
「射的じゃねぇよ!」
高梨は須田に雪玉を当てた。
「くっそ~、見てろよ俺の超絶ハイパーウルトラ威力!」
須田も対抗して雪玉を作った。
「食らえ!」
「きゃっ!」
須田の投げた雪玉は船頭に当たる。
「も~、服の中入った~!」
「あははははは」
船頭は服の襟をつかみ、パタパタと振る。
「でも案外威力ないね」
「手加減手加減。俺が本気出したら地形変わっちゃうから」
「変わらねぇよ」
赤石も上麦に投げた。
「う!」
上麦の頭に当たる。
「赤石、許さない」
上麦は片言で赤石を睨む。
「良い構図が出来たわね」
暮石、上麦、高梨、船頭と赤石、須田の戦いが始まる。
「食らえ~!」
「皆当てろ~!」
暮石と船頭が雪玉を放る。
「や!」
「ちゃんと当てなさいよ、白波」
高梨と上麦が雪玉を放る。
赤石と須田は自分たちの倍以上の数の雪玉に被弾しながら劣勢を強いられる。
「防戦一方だぞ!」
「悠は雪玉作る係! 俺投げる係! 分業!」
「分かった」
赤石はその場にしゃがみ、雪玉を作り始めた。
「出来たぞ」
「サンキュ!」
「出来たぞ」
「サンキュ!」
赤石は須田に雪玉を作るたびに渡す。
「的があるわよ、皆赤石君を狙いなさい」
「食らえ!」
「おらー!」
「や!」
動かない、的になっている赤石に雪玉が殺到する。
ボフ、ボフ、ボフ、と赤石の頭に三度雪玉が当たる。
「損な役回りすぎるだろ」
赤石は立ち上がった。
「反撃されるわよ! 皆、暮石さんの後ろに隠れるのよ!」
「なんでぇ⁉」
赤石と須田の投げた雪玉が暮石にヒットする。
「冷たい~~~!」
「私たちは助かったわね」
「この~!」
暮石が高梨に雪玉を投げつける。
「きゃっ!」
「仲間割れし始めたぞ」
「高梨からは滅多に聞かない声」
赤石と須田が呆然と高梨たちを見る。
「待て~!」
暮石が雪玉を作り、三人を追いかける。
「仲間割れしだしたな」
「今のうちに雪玉作っとこう」
赤石と須田はせっせと雪玉を作り始めた。
「これ借りる!」
「白波も!」
高梨、上麦と船頭、暮石が戦い始める。
「俺らは作ることに集中するか」
「そうだな」
赤石と須田は雪玉生産に没頭し始めた。
「赤石君、玉!」
「はい」
赤石は暮石に雪玉を渡す。
「赤石君、早く渡しなさい、この無能」
「渡したくならない。もっと取引先っぽく」
「私とともに働けることを光栄に思いなさい」
「どういう関係性なんだよ」
赤石は高梨に雪玉を渡した。
「こういう立場も案外悪くないなぁ」
須田は雪玉を作りながら、きゃっきゃと遊ぶ女子たちを見る。
「お前はどこでも楽しくやっていけ――冷たっ!」
赤石の背中に雪が入れられる。
「あははははは、あははははははは」
頬を赤くした上麦が、赤石の後ろで腹を抱えて笑っていた。
「ただで済むと思うなよ」
赤石が雪玉を持って上麦を追いかけ回す。
「きゃーーーーーっ!」
上麦が赤石から逃げる。
健闘むなしく、上麦は赤石に確保される。
赤石は確保した上麦を須田の下まで連れて行った。
「連れてきた。服を脱がそう」
「止めろ止めろ」
「助けてーーーー!」
上麦が高梨たちに救助を求める。
「ちょっと、何やってるのよ、赤石君」
「最低~~~!」
「変態!」
赤石は高梨たちから批難の的にされる。
「赤石、白波服脱がせるって……」
「嘘……」
「ドン引きだわ、あなた」
「警察呼んだ方が良いかも」
高梨たちが白い眼で赤石を見る。
「正義っていうのは、こうして歪められていくんだな」
「何を言ってるのよ」
こうして雪合戦は、赤石の一人負けで終わった。
雪合戦を楽しんだ一行は、帰りのバスに乗った。
「赤石、怒った?」
「別に」
バスを待っている最中、上麦が赤石に話しかける。
「帰りのバス、隣白波座る」
「統と相談してくれ」
「帰りのバス、赤石白波と座りたい」
「あ、そう? じゃあ俺暮石さんの隣座るけど」
「プレイヤー一人で伝言ゲームになることあるか?」
バスがやって来て、一行はバスに乗る。
上麦は赤石の隣に座った。
「遊ぼ」
上麦が赤石の隣で囁く。
「バスで騒いだら怒られるぞ」
「人少ないのに?」
「仕方ないな」
赤石はカバンからクロスワードパズルの本を出した。
「赤石、カバンから何でも出てくる」
「魔法の鞄なんだよ」
「クッキーある?」
赤石はカバンからクッキーを出し、上麦に渡した。
「赤石魔法の鞄。白波魔法の鞄好き」
「そうですか」
上麦はクロスワードパズルに熱中し始めた。
「赤石もやる?」
「酔う、吐く、寝る」
「飲む打つ買う?」
「言ってない」
上麦は赤石からシャープペンをもらい、クロスワードを解いていく。
「……」
上麦は自身の顎をさすり、考え込む。
「……」
上麦は赤石にそっとクロスワードパズルを見せた。
窓越しに風景を見ていた赤石は、ちら、と上麦の指さす箇所を見た。
『クリスマスに飾られているといえばこの木』
上麦は小首をかしげる。
「モミ」
赤石は上麦に小声で答えた。上麦は手を叩き、モミ、と書いた。
数分して、再び上麦は難しい顔をする。上麦は赤石にクロスワードパズルを見せた。
『最近は下着をこう呼ぶよ』
赤石は上麦に小声で囁く。
「インナー」
再び上麦は手を叩いた。
「赤石、下着に詳しい」
「止めろ止めろ」
赤石は手をパタパタと振る。
「赤石君は下着に詳しい」
「悠人は下着に詳しい……」
後ろに座っていた高梨と船頭が赤石をじっとりと見ていた。
赤石たちは冬休みの一日を充実出来たように思えた。




