閑話 雪合戦はお好きですか? 3
買い物を終えた赤石と暮石の二人は、店を出た。
「いや~、買った買った」
暮石が大きく伸びをする。
「アイス食べよ?」
赤石と暮石は二人分のアイスを買っていた。
「はい」
「ありがと」
赤石と暮石は近くの石に腰かけ、二人でアイスを食べた。
「なんか皆待たせてるのにアイス食べてるのって結構背徳的だよね」
「早く食べないとな」
「でも赤石君がこんなの許してくれるとは思わなかったよ」
「正直どっちでもいい。付き合いだ」
赤石はアイスを食べながら言う。
「いけないことしてるみたいだね」
「そうですね」
「不倫みたいな」
「はあ」
「反応薄~」
暮石は足をプラプラとさせる。
「赤石君って不倫肯定派? 否定派?」
「軋轢が生じそうな話題振るなよ」
「いいからいいから。何言っても怒らないから」
「肯定派」
「死ねーーーーーーー!」
暮石は持っているアイスを握りしめた。
「ほら」
「え、本当に肯定派?」
「お前が怒らないって言うから怒りそうな答えにしただけ」
「あら。じゃあ本当は?」
「別にどうでもいい」
「なるほど。赤石君絶対否定派だと思ってたから意外」
赤石はアイスを食べ終えた。ゴミを袋に詰める。
「他人がどこで誰と不倫してても自分に関係なかったらどうでもいいだろ。大抵の人間はそうだよ。許すか許さないかも当人同士が納得してたらいいんじゃないか。別に他人に迷惑かけてないなら」
「ふ~ん。ま、私もそうなんだけどね」
同じくアイスを食べ終えた暮石はゴミを赤石に渡す。
「赤石君、将来不倫とかしちゃ駄目だよ……」
うぅ、と暮石が涙を拭う素振りを見せながら言う。
「まぁそれはなってみないと分からないよな」
「絶対やるじゃん」
赤石と暮石は帰途についた。
「女の子が傷つくんだから絶対ダメ!」
「でもテレビじゃ不倫とか結構キラキラして素晴らしいもの、みたいな風に扱われること多いだろ」
「そんなわけないよ! キラキラなんてしてないって! 待ってるのは地獄だけだよ!」
「案外同じ状況になったら止められないリビドーみたいな何かあるのかもしれないからな。俺も当事者になるまで分からないな、こういうのは」
「え~、私そんなのされたら滅茶苦茶にしちゃいそう」
「こわ」
赤石は早足で歩きだした。
「まぁ結局やってみないと、なってみないと分からない、ってのが俺の感想だな」
「そんなの何にでも言えるじゃん」
「可もなく不可もなく、といった感想に終始したな」
「ちょっと歩くの早いよ。待ってよ~」
赤石たちは公園へと戻った。
「あら」
高梨が入り口に二人の影を見つける。
「遅かったじゃない、二人とも」
高梨が赤石と暮石を出迎える。
「ああ」
「ごめん、道すごい混んでて……」
「混んでるわけないでしょ」
高梨が暮石から袋を受け取る。
赤石はカバンから買い物袋を取り出した。
「でも二人で行って正解だったよね、赤石君。赤石君途中でレジ袋が重たいって泣きだしたもんね」
「初めてのおつかいじゃないんだよ」
あははは、と暮石は腹を抱えて笑う。
「あれ、赤石君、あなた……」
高梨がふ、と赤石を見る。
「なんだ」
「あなた、買い食いして来たわね」
「……いや」
赤石は高梨から目を逸らす。
「答えなさい、赤石君。あなた……いえ、あなたたち、買い食いして来たでしょ?」
「え、し、してないよ~。なんでそう思ったの?」
高梨が袋を指さす。
「これ、この袋いっぱいに物が入ってないわよね。普通袋がいっぱいになってから次の袋に商品を入れないかしら?」
「私は等分くらいにするけどな~」
「それに、この袋内側に水滴がついているのだけれど」
「え~、何かそういうの買ったんじゃないかな~」
暮石が誤魔化す。
「それにあなたたちの反応」
「……」
「赤石君、レシートを見せなさい」
赤石はレシートを差し出した。
「ほら見て見なさい、アイス買ってるじゃないのよ」
高梨は目ざとく見つけ、赤石と暮石を糾弾する。
「ち、違わい! それは……それは、犬に上げようと思って!」
「犬にアイス食べさせちゃ駄目よ。なんで私たちを待たせて二人でアイスなんてしゃれこんでるのよ」
「どうしたどうした~」
「なになに~」
須田たちが後からやって来る。
「赤石君と暮石さん、私たちを待たせてアイスなんて食べてたのよ」
「もう!」
上麦が怒りだす。
「赤石君が食べよう食べようってうるさくて……。私、赤石君に逆らえなくて……」
暮石がしくしくと泣きながら訴える。
「嘘吐きなさいよ。赤石君が率先的に食べ物に執着見せるわけないでしょ。暮石さん、あなたが犯人よ」
「く、くっそぉ……」
暮石は後ずさる。
「赤石君も何とか言ってよ!」
「早く食べようぜ」
赤石は袋から弁当を取り出し始めた。
「はい、統。筋肉になりそうな弁当だ」
「お、サンキュー! さっすが!」
赤石は鶏むね肉の弁当と炊き込みご飯のおにぎりを須田に渡す。
「高梨はとにかく高そうなやつを買ってきた」
「偏見が凄いわよ、あなた」
赤石は高梨に少量の弁当と野菜を渡した。
「ゆかりはパスタ」
「普通にこれが一番じゃね?」
船頭は赤石から明太子パスタを受け取る。
「上麦はあれだったな。ハンバーグ」
「ハンバーグ!」
上麦は両手をパタパタと振りながら、赤石の下へと向かった。
「はい」
「ハンバー……」
赤石は上麦に玉ねぎと合いびき肉を渡した。
「う……うぁ……」
上麦がプルプルと震える。
「うああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーー!」
そしてその場で膝から崩れ落ちた。
「じゃあ食べるか」
「待ちなさいよ、赤石君」
膝から崩れ落ちた上麦を尻目に、赤石は四阿へと入った。
「白波がとんでもないことになってるわよ」
「玉ねぎ……お肉……玉ねぎ……お肉……」
上麦はうつろに食品名を呟いている。
「冗談だ。早く来いよ」
「冗談ヒドい! 馬鹿!」
上麦は合いびき肉と玉ねぎを持って四阿へ入って行った。
「赤石君、あなたそんなしょうもないことをやるためだけにそのお肉と玉ねぎを買ったの?」
「上麦に嫌がらせが出来るのなら安いもんだろ」
「あなたの他人への嫌がらせにかける思いだけは日本一だわ」
「家で使うんだよ」
「赤石交換!」
上麦は赤石に合いびき肉と玉ねぎを渡す。
「はい」
赤石は五百円分の商品券を渡した。
「うあああぁぁぁぁ!」
「意地悪しないでよ、意地悪を」
高梨は赤石の鞄からハンバーグ弁当を取り出した。
「白波、早く帰って来なさい」
「赤石の馬鹿!」
上麦はすね、遠くで丸まった。
「全く……」
赤石は立ち上がり、上麦の方へと向かった。
「ほら、ハンバーガーも」
赤石はハンバーガーを手渡した。
「許す!」
上麦は上機嫌で戻った。
「じゃあ食べようかしら」
「早く早く~!」
赤石たちは弁当を食べ始めた。




