エピローグ
朝――
「……」
「……」
赤石は目を覚ました。
「おはよ」
「……」
赤石の目の前には、船頭がいた。船頭は寝ころびながら、赤石と目を合わせた。
赤石は辺りを見渡す。
「なんで人の布団勝手に入ってきてんだよ」
「悠人が昨日すぐ寝ちゃったから」
「疲れてたんだよ」
「悠人が寝た後も背中さすってあげたよ」
船頭はきゃぴ、と目の横でピースする。
「知らねぇよ」
「悠人寝言してたよ、助けて、って」
「助けて欲しかったんだろ」
「助けが欲しいのに何も言わないんだから、本当悠人って扱いづらいよね」
「扱いづらくて結構」
「こうして私たちはめくるめく夜を……」
「さっさと出ろ」
赤石は船頭を追い出した。
「ヒドい……」
船頭は赤石のベッドに腰かけた。
「そういえば悠人、未だに私が送ったメッセージ既読ならないんだけど」
「ブロックした」
「はぁ⁉ 何⁉」
船頭は赤石のカオフを覗き込んだ。
「最低……」
船頭は赤石を睨みつける。
「なんでそんなことするの⁉」
「何もかも嫌になった」
「だからってそんなことしていいわけじゃないじゃん! 何でもしていいわけじゃないんだよ! しかも今になっても何も言ってこないし!」
「俺が拒絶した手前、ブロックした、なんて言い辛いだろ」
「言い辛いとか言いやすいとか関係ないじゃん! このまま帰ってたらどうするつもりだったの⁉」
「送られても気付かないだけだ」
「じゃあまた私モヤモヤするところだったじゃん! 本当最低! 本当最低!」
船頭はスマホを取り出し、再び赤石にアカウントを登録させた。
「このまま帰ってたら、本当にまた連絡取れなくなってたの⁉」
「家知ってるんだから最悪何とかなるだろ」
「こういうのって、悠人から先に言うもんなんだよ! 何⁉ プライドか何かなの!? 本当最低。本当最低。人として大事な部分欠けてるよ、絶対」
「悪い」
「反省してください!」
船頭はぷい、と視線を逸らした。
「あと、私もごめんね……」
「……ああ」
船頭はそのまま謝った。
赤石と船頭はそのままどうでも良い雑談をした。
断交せずにすんだことは、ひとえに船頭の人格が生んだ賜物だった。
春休みになる。
高校生として、赤石の最後の一年が、始まる。




