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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第7章 修了式 堕落編
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第296話 お返しはお好きですか? 2




「……」


 赤石は家の扉を開けた。


「おかえり~、今日はえらく早く帰ってきて。学校は終わったの?」

「ああ。寝る。起きるまで起こさないで」

「はいはい。全く、うちの息子はすぐに寝る」


 赤石はそう言うと自室に向かった。服を脱ぎ、カバンを置き、ベッドにもぐりこむ。


「……」


 赤石は天井を見ながら、布団にくるまった。

 まるで一年の時を過ごしたかのような濃密な時間を、赤石は思い出していた。


 修了式の出来事。未市が立ちすくんでいたこと。櫻井が式を乗っ取りに来たこと、船頭との決別。

 今日一日で起こった出来事とは信じられなかった。

 処理しきれない量の出来事に、赤石の頭はパンクする。


「……」


 もぞ、と赤石はカバンからスマホを取り出した。

 連絡が、来ていた。

 船頭からの連絡。


『悠人が来るまで待ってるから』


 赤石は既読にし、船頭をブロックした。

 他にいくつかの連絡が来ていた。


『卒業式ではダメだったけど、教室で見ることに成功した! 私はやはりさすがだ!』


 未市から連絡が来ていた。

 卒業式で動画を流すことは出来なかったが、教室で動画を流した、との連絡が来ていた。未市は転んでも、ただでは起き上がらない。


『最高に大盛況だったよ。君の脚本のおかげだよ。ありがとう』


 そして、腹回りを露出した写真とともに、サービス写真だよ、とメッセージが送られてきた。


「良かった……」


 卒業式で流すことは出来なかったが、完全な無駄にはならずに済み、赤石は胸を撫で下ろす。

 

『ちなみにこの動画は卒業生全員に渡すつもりだ。君にも、もちろん。将来赤石先生の意欲作として価値が出るかもしれないね。最も、私のえっちぃ特典もついていることだけれども』


 未市のいつもの冗談を見て、赤石は安心してスマホを切った。


「…………」


 天井を、見る。

 ぐらぐらと天井が揺れている気がする。

 天井を見ているうちに、赤石は気を失うようにして、眠りに入った。







「……」


 起きたら、夜の十九時になっていた。


「ご飯よ~」


 母親の言葉で目を覚ます。

 赤石は階下へ降り、リビングへと向かった。


「はいはいはい、ご飯よ~」


 父親は既に、席についていた。


「はい、いただきます」

「いただきます」

「……ます」


 赤石たち一家は料理に手を付け始めた。


「そう言えば今日スーパーに行った時~」


 母親が話し始める。息子、父親の頷きも待たずに、母はひたすらに始める。

 赤石一家の日常だった。


「悠人」


 徹が赤石に声をかけた。

 赤石は珍しいこともあるもんだ、と父に顔を向ける。


「学校で、何かあったのか?」

「……まあ」


 徹は妙なところで勘の鋭い所があった。何も見ていないようで、息子の違いには機敏に気付く節があった。


「そうか……」


 徹はそれ以上は、何も聞いてこなかった。

 

「ごちそうさま」

「はい、ごちそうさま」


 赤石は食器をシンクへと持って行き、洗って自室へと向かった。


「…………」


 再び自分のベッドへと入った。

 何故だか今日は、妙に眠くなる一日だった。


 赤石は床に入り、再び眠りについた。






「悠人……」


 夜の十九時を回っても、船頭はまだ公園にいた。

 食事を取らず、眠らず、公園のベンチで一人待ちぼうけていた。


「……」


 スマホに目を通す。充電も残り少なくなりつつある。

 どこかのタイミングでこの場所を離れてしまえば、丁度そのタイミングで赤石が来るかもしれない、と考えると、どうしてもこの場を離れられなかった。

 意地と矜持とが船頭をその公園に縛り付けていた。


「……」


 何度も何度もスマホを確認する。

 赤石からの返信は返って来ていない。赤石に送ったメッセージは既読にすら、なっていない。


「……」


 そわそわとする。何故送ったメッセージが既読にすらならないのか。

 船頭はそのまま、待ち続けた。


 二十一時を回った。

 

「…………」


 夜の帳が降り、三月と言えど、冷たい風が肌を刺す。


「寒い……」


 薄着で来ていた船頭は縮こまるようにして丸まった。

 木の陰で寒さをしのぎ、寒風に耐えながら腕をさする。


「さむ……」


 ザ、と音がした。

 土を踏みしめる音が、した。


「お、遅いって! 待って――」


 船頭が顔を上げ、音のする方を見れば、


「はぁ?」


 数人の男たちが、やって来ていた。


「え、何? 何してんのこんなところで」


 男たちは船頭の顔を覗き込む。


「え、何? 俺らのこと待ってたってこと? やべ~、こんな夜中にヤバすぎだろ。じゃあ取り敢えず行こっか」

「人違いでした」


 船頭は手で制し、男たちの要求を拒む。


「いやいやいや、こんな夜中に一人で公園って、どう考えても誘ってるじゃん? いいからさっさと行こうぜ」

「おい裕也、もういいって、面倒くさいことなるだろ」

「いやいやいや、連れて行くしかないっしょ」


 男は船頭に近寄る。


「来ないで!」


 船頭はスマホで明かりを照らし、電話をするフリをする。


「警察呼びます!」

「……ちっ」


 男は舌打ちをした。


「あ~、くっだんね。こんな夜中に一人でいるのに何もなしかよ。さっさと帰れや」


 男は船頭の顔を再び見た。


「ってか、よく見たらブスだわ」

「おい裕也~」


 男たちが笑う。


「由紀ちゃん待ってんだから早く行こうぜ」

「分かったよ。じゃあな、ブス! あははははは」


 男はそう言うと、高らかに笑い、公園を去った。


「はぁ、はぁ……」


 船頭はその場にずるずると座り込んだ。危機は去った。だが、船頭の心は寒風と恐怖とで、折れそうになっていた。


「遅いよ……」


 船頭は再び体を丸め、木に寄りかかった。

 

 時刻は、二十二時を回った。


「……」


 スマホの充電もなくなり、船頭はその場で膝を抱え、無心で地面を見続けていた。


 ザッザッ、と土を踏みしめる音がする。

 船頭は何とはなしに、音のする方を見た。


「……」

「……」


 赤石が、そこにいた。




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― 新着の感想 ―
[良い点] やっぱ、船頭はメインヒロイン張れますわ。 寒空の下遅くまで信じて待ち続けるのはヒロインですわ。 [気になる点] 新井関係の男共と新井が赤石に成敗される伏線かな? [一言] 赤石と船頭の絆を…
[気になる点] 確実にニュースになるレベルの騒ぎなのに保護者知らないしさらっと流されてるのが相当に違和感。普通に全員補導案件だし、気絶するレベルで殴られた先生方も絶対病院行ってるよね。脳出血とか起きて…
[一言] 更新ありがとうございます!! まじ楽しみにしてました! これからの赤石がどうゆう対応をするのか楽しみにしてます!
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