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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第7章 修了式 堕落編
324/595

第287話 卒業式の動画はお好きですか? 



「赤石君」

「?」


 学校の廊下を歩いている最中、赤石に声がかけられた。


「私だ!」

「こんにちは」


 生徒会長、未市要が腰に手を当て、居丈高にそこにいた。


「今時間は大丈夫かな?」

「はい」

「では、少し赤石君に来て欲しい所がある!」

「そうですか」

「来たまえ!」

「はい」

「みなみうしろ!」

「はい」


 赤石は先頭を行く未市の後を追った。

 赤石は見たことがない教室に案内された。


「ここは……」


 パソコン室に併設されている事務用の作業室とは異なる、今まで見たことがない部屋に案内される。


「要さん、ここは」

「ふふふふふふ……」


 未市が後ろ手で扉を閉める。

 きぃ、と軋む音を残したまま、扉が閉まる。電気のついていない密室に赤石は閉じ込められた。

 扉から差し込んでいた光が消え、部屋が暗闇に包まれる。赤石は静寂と闇の中で未市と対峙した。


「要さん、電気」

「実は私は前から思っていたんだよ」

「何をですか?」

「君を一度襲ってみたいとね!」


 未市から、するすると衣擦れの音がする。

 目が暗闇に慣れず、赤石は未市の場所を測りかねていた。


「男でも女でもどちらでもイケる口だよ、赤石君、私は」

「特に聞きたくない情報をどうも」


 赤石は壁につたい、ゆっくりと部屋を確認する。


「あまり動くんじゃあないよ、赤石君。床には何が落ちているか分からないからねぇ」

「じゃあ電気つけてくださいよ」


 蛇が蠢くように、部屋にかすかな音だけが流れる。


「ここだよ、赤石君」

「っ!」


 未市は赤石の背後を取り、赤石の肩をとらまえた。


「座りたまえ!」


 未市は赤石をソファに座らせた。


「さぁ、赤石君、動くんじゃないよ」


 赤石はじっとりと湿った汗が流れるのを感じながら、ソファの上で硬直した。


「三、二、一」


 未市がカウントダウンを始め、


「――――――」


 赤石の眼前で、映像が流れ始めた。


「これ……」


 赤石は呆然と眼前の映像を見る。


「横にどきたまえ、赤石君」

「はい」


 未市が赤石の隣に座った。


「どうだい、赤石君」

「出来たんですね、動画」


 未市と岡田、その他ごく少数で秘密裏に進めている卒業式の動画計画。

 赤石はその一端に関わり、並々ならない時間を投資していた。


 赤石と未市は一通り動画を視聴した。


「ふぅ……」


 未市は立ち上がり、部屋の電気をつけた。


「改めまして、赤石君。卒業式の動画が出来上がったよ」

「なによりです」


 未市は右腕で力こぶを作った。


「実は私に襲われると思って期待したんじゃあないのかい?」

「その気持ちが全くなかったと言えば嘘になります」

「はははは、正直だね、君は。ちょっとしたサプライズさ、サプライズ」


 ばんばん、と未市は赤石の背中を叩く。


「こんな暗闇で俺が配線とか踏んだらどうするつもりだったんですか?」

「大丈夫、私はこの部屋の間取りを完璧に覚えていてね。そして君の居場所も完全に把握していたよ。暗闇を動くのには自信があってね」

「なんでですか?」

「…………」

「なんでですか?」


 未市は照れくさそうにそっぽを向く。


「女の子には知られたくないことだってあるんだよ」

「多分男女問わず理解できない現象だと思います、要さんのそれは」


 未市は赤石から顔を逸らし、改めてソファーに座った。


「というか要さん、学校なんて来てる場合ですか? もう受験本当にあと数日とかじゃないんですか? センター試験の勉強とかしないんですか?」

「センター試験とはまた随分と古臭い……。そんなものなくなってるよ」

「共通の勉強とか」

「あぁ、私は終わったよ」

「終わった?」

「推薦だからね。もう終わったよ」

「えぇ……」


 未市は鼻の下をさする。


「へへ、私天才だから」

「すごいです」


 赤石もソファーに座った。


「じゃあ岡田さんは」

「彼は普通に受験勉強をしてるね。というか、今自由に動ける三年生はほとんどいないんじゃないかな」

「それで暇人な要さんが動画を完成までさせた、と」

「そゆこと!」


 未市は指を鳴らし、赤石にウインクをする。


「岡田には既に出来上がった動画を渡してるよ」

「なるほど」

「どうだい、出来は?」

「いいですね。俺が脚本を書いただけはある」

「ははは、謙遜しないねぇ」


 好きだぞ、そういうところ、と未市は大笑する。


「これで完成ですか?」

「ところどころ音楽と演出を修正する必要があると思ってる。君にも手伝ってもらうよ」

「分かりました」

「そのために今日は呼んだからね。極秘裏に動いてくれたまえよ、赤石君」


 卒業式は三月の一日に行われる。すでに二カ月を切っていた。


「ああ、あと」


 未市はカバンから数冊のノートを取り出した。


「これ」

「?」


 未市は赤石にノートを手渡した。


「私の大学受験合格マニュアルだ。数学、地理、化学、物理、漢文、古文、現代文、ありとあらゆる公式と解き方、ツボとコツをまとめたノートだ」

「いいんですか?」

「あぁ、もちろんいいとも。君には大変世話になった。これくらいしないとバチがあたるくらいだ」


 赤石は未市からノートを受け取り、ぺらぺらとページをめくる。


「すごい分かりやすいですね」

「まぁ、天才だからね」

「ためになります」


 赤石は目を爛々と輝かせ、ノートをめくった。


「手伝ってきて良かったです」

「現金だねぇ、君は」


 未市はぽんぽん、と赤石の肩を叩き、鞄をしまった。


「ところで要さんはどこの大学に」

「ん、北秀院だよ」

「北秀院」


 赤石の地元の大学であり、赤石も目指している大学。


「もしかして君も北秀院志望かい?」

「今のところ」

「嬉しいなぁ! もう後輩を見つけちゃったよ!」


 未市は赤石の手を取り、ぶんぶんと振る。


「まぁまだ志望の段階ですけどね」

「北秀院用の対策をしたノートもあるんだ! まさか必要になるとは思ってなかったけど、これも今度君にあげよう!」

「助かります」


 赤石は目を細め、微笑んだ。


「君もそういう顔をするんだねぇ」

「努力はしなければしないほど楽ですから」

「地獄に落ちるぞ!」


 未市は再び動画を付けた。


「ここは離れの密室だからね。事務室も中々密室で良かったが、ここなら何をしても誰にも見つからないからねぇ」

「秘密の話をしやすいですね」

「何をしても! 誰にも! 見つからないからねぇ!」

「いやらしいですね」


 未市は自分の体を抱き、震える。


「よし、ラストスパートだ赤石君! 卒業式までの二カ月、力を貸してくれまいか?」

「分かりました」

「卒業式では先生に頼んで、答辞の後にいくらか時間を取ってもらっている。その時にこの動画を流すつもりだよ」

「なるほど」

「私たちの三年間を凝縮した動画を皆に見てもらうんだ。楽しみだなぁ、ぞくぞくするよ」


 未市は肩を抱き、ぶるぶると震える。


「例えば今のような暗闇の中で、大きなスクリーンに突然動画が映し出されるんだ! きっと君たちの記憶にも残る、最高のショーになるよ!」

「俺もそう思います」

「私たちだけでなく、後輩たちも楽しめるような機会にするんだ! 私たちだけが楽しんでちゃあ駄目だからね!」

「その意気です」

「大迫力の音響と映像! さぁ、赤石君、さっさと案を出したまえ!」

「俺は終盤の音楽が少し明るすぎると思いますね。もっとドライで人の手の入っていなさそうな音楽が良いと思うんですが、要さんはどう思いますか?」

「どこだい? 見てみようか」


 赤石と未市は学校が終わるまで、二人で話していた。




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― 新着の感想 ―
[一言] >はるはむさん やめてwww 卒業式のタイムスケジュールを台無しにする 感謝のゲリラライブ馬鹿とか想像に易過ぎる
[一言] なんか桜井の波乱がおこりそう
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