第284話 正月はお好きですか? 3
「じゃあ行くか、お参り」
「ああ」
赤石と須田は二人で鈴を鳴らす。
「薩摩藩と長州藩が仲良くしますように」
「坂本龍馬か」
赤石と須田は鈴を鳴らし、帰って来る。
「ちなみに、声に出すとその願いは叶わないっていうな」
「薩長同盟が……!」
赤石は騒ぐ須田を後にする。
「何をお願いしたのかしら、赤石君」
「まあな」
高梨は挑発的に口端を吊り上げる。
「おお、そこにおわすは、赤石君じゃあないか」
生徒会長未市要が腰に手を当て、そこに立っていた。
「お久しぶりです、要さん」
「あっはっは、お久しぶりだねぇ、赤石君」
未市は赤石の背中をバンバン、と叩く。
「誰?」
「ん、これはこれは」
不穏な顔つきをする高梨を、未市は見る。
「やあやあ、高梨君。こんにちは」
「なんで私の名前を知ってるのかしら」
「君は有名だからねぇ。逆に君が私のことを知らないのが驚きだよ」
「知らないわね、こんな女」
「おいおい」
赤石は高梨をなだめる。
「先輩だぞ」
「先輩?」
「そうとも。君の高校の生徒会長様だよ! 崇め奉りたまえよ! あっはっは!」
「生徒会長……ね。それは失礼しました」
高梨はぺこり、と頭を下げる。
「でも赤石君、あなたさっき要さんって……」
「あ」
未市と推し進めている動画の件は、極秘裏に進められている。口外しないことが鉄則だった。
「まぁ、ちょっと、な」
「赤石君、あんまり喋るんじゃないよ」
赤石と未市は口を閉ざし、訥々と喋る。
「どういう関係なのよ、赤石君」
「いいだろ、なんでも」
「教えなさいよ」
「何々? 何の話してるの?」
背後から暮石がやって来る。
「え、あ……生徒会長⁉」
「あぁ、暮石君か。君は私のことを知ってるんだね」
よろしくどうも、と未市は暮石と握手する。
「なんで私の名前……⁉」
「もちろん、私は全校生の顔と名前を憶えているんだよ。生徒会長だからね」
「すご~~い!」
暮石は手を叩く。
「さっきまで誰と喋ってたんですか?」
「ここの暗い男だよ」
「赤石君……? どういう関係?」
「まあな」
「まあ、ね」
赤石と未市は頭をかく。
「もしかして、ただならぬ関係……?」
「ただならぬと言えば、ただならぬのかな、赤石君?」
「ただならぬの意味によると思います」
「ただならってるの、赤石君⁉」
「落ち着け暮石、言葉がおかしい」
暮石は目を丸くして赤石に詰め寄る。
「そんな大した関係じゃない」
「ひどいな、赤石君。君と過ごしたあの熱い夜は……⁉」
「赤石君⁉」
生徒会長は体を激しくくねらせ、身悶えする。
「厚いのは顔だけにしてください」
「あははははは、相変わらずからかいがいがあるねぇ」
「よしてください」
赤石と未市は笑いあう。
「赤石君がまさか生徒会長とお知り合いだったなんて……」
「まさか私にも秘密にしている人間関係があるなんて知らなかったわ。今度からはちゃんと逐一報告しなさいよ」
「なんでだよ」
須田がやって来る。
「あ、要さん。お久しぶりっす」
「おお、統貴!」
いぇーい、と未市は須田とハイタッチする。
「須田君はなんとなく関係ありそうなの分かる」
「そうだな」
「会長にはよくしてもらってて」
「君とのあの熱い夜はこらたね……!」
未市は体をくねらせ、頬を赤く染める。
「大変でしたね、あのプール事件」
「ちょっとちょっと、もう少し私で遊んでくれよ。全く、からかいがいない。食えない男だ」
「あはははは」
須田は高笑いする。
「ところで要さんはどうしてこんな所に?」
「おっと忘れていた、今日は彼氏と一緒に来ててね。カモーン!」
未市が呼ぶと、遠くからマスクをつけた背の高い男がやって来た。
「彼氏に付き合って今日はお参りに来たのさ! 見たまえ、彼氏だからこんなことも出来るのさ!」
未市は男の手を握り、あげる。
男はマスクを取り、
「弟です」
「弟かよ!」
しゃがれた声でそう言った。
「あの、須田さんですよね? 姉からよくお話伺ってます。大会優勝おめでとうございます。サイン貰っていいですか?」
「えぇ⁉ ないないないない、そんなもん」
「じゃあ写真撮らせてください」
「まあそれくらいなら」
須田はポーズを取り、写真を撮られた。
「アイドルみたいな扱いだな」
「ちょっと泳げるからって偉そうね、統貴。あなたいつからそんなに偉そうな態度を取れるようになったのかしら」
赤石と高梨が非難の目で見る。
「見るな見るな」
須田が笑いながら手を振る。
「あ、誰、その人?」
お参りから帰って来た船頭が話し始める。
「彼女はうちの高校じゃないみたいだね。じゃあ今日はこれくらいにしておこうか。赤石君、また入学式の日からさっそく会おうか、二人きりで」
未市は唇に二本指を当て、赤石に放つ。
「アデュー!」
未市は手を振り、人混みの中へとまぎれて行った。
「投げキッスとはまた古い……」
赤石は去る未市の背中に手を振った。
「今までにない赤石君との関係性ね」
「そうか」
「赤石君が押されてる関係性は初めて見たわ」
「お前もそんな感じだろ」
「あなたは私に相手してくれないでしょ。一方的に私が言ってるだけだもの。私に興味ないんでしょ?」
「そんなことはない」
「でも彼女との関係は一対一になってるように思えたわ」
「気のせいだろ」
「何の話何の話?」
船頭が割って入って来る。
「さっきの人誰?」
「権力者」
「どういう関係?」
「ご恩と奉公」
「ご恩と奉公って何? ご恩と奉公って何?」
「鬱陶しい」
船頭は赤石が答えるまで粘り強く聞き続けた。
「そろそろ帰ろうかしら、皆」
「「「は~い」」」
「今日は来てくれて嬉しいわ、あなたたち。元旦だから帰ったら親としっかり話すといいわ」
「賛成!」
「じゃあ帰ろうかしら」
「「「は~い!」」」
お参りも済んだ赤石たちは、帰途についた。
一人、また一人、と人が減っていく。
「そう言えばここから赤石君の家まで、近いわよね」
あらかた散開したところで、高梨が口を開いた。
「県境をまたぐくらいの距離だな」
「嘘吐き」
「き、キツツキ」
「うわ~、またキかぁ。キ責めやるなぁ。キ、キ」
「人の言葉を盗んでしりとりなんてしないでちょうだい」
高梨は須田と赤石に睨みをきかせる。
「来ても何もおもしろいものないぞ」
「元々統貴と三千路さんは行く予定だったんでしょ?」
「え、なんで知ってるの? 言ったっけ?」
三千路が高梨の顔を覗き込む。
「それくらい分かるわよ。いいでしょう、赤石君」
「暴れるなよ」
「私が今まであなたの家で暴れたことがあったかしら」
「あったね」
赤石は高梨にスマホを取られている。
「白波も行きましょうか?」
「赤石、またご飯作る?」
「作らない」
「ケチ! 行かない!」
「赤石君の家に言ったら赤石君のお母さんがご飯をくれるわよ」
高梨がそっと呟く。
「行く!」
「俺の母親をなんだと思ってるんだ」
上麦と高梨、須田と三千路は赤石の家へと向かった。
「ただいま」
「ただいまぁ~!」
「帰ったよ~」
「お邪魔します」
「ます!」
赤石たちは家へ足を踏み入れた。
「じゃあここで家に入る前の儀式として魔法の水を……」
「ないでしょ、そんなもの」
高梨はいの一番に家に入る。
「俺の家だぞ」
「黙りなさい」
「あら」
「あら」
高梨は赤石の母親と鉢合わせた。
「あら~、いらっしゃい。この間の美人さん! 悠人、あなたまたこんな美人とっ捕まえて」
「鈴奈もいるよ!」
高梨の後ろから三千路がひょこ、と顔を出す。
「……まだ挽回は出来る!」
「負けてるの⁉」
高梨が自慢げに三千路を見る。
「赤石、ご飯」
「赤石二人いるんだよ、今」
「権三郎、ご飯」
「どの時代の男だよ。悠人だよ、悠人」
「ゆーと、ご飯」
「何を言わせてるのよ、変態」
上麦はあー、と口を開ける。
「あら~、可愛い。妹さん?」
「白波?」
上麦は赤石の母と目を合わせる。
「白波妹違う! 白波高校生! 白波赤石同級生!」
「あら~、嘘~、可愛い~」
よしよし、と母親は上麦の頭を撫でる。
「白波お腹空いた! ご飯!」
「あらあら、ご飯ね。残り物があるけど食べていくかしら」
「食べゆ!」
上麦は母親の後について行った。
「相変わらず、あのお母さんからあなたが生まれたとは思えないコミュニケーション力ね」
「全くだよ」
母親は冷蔵庫からタッパを出し、タッパの食材を温め、上麦に出した。
「おせちの残り物ですけど、良かったらどうぞ」
「おせち!」
上麦はおせちを口に含む。
「…………⁉」
上麦は目を大きく見開き、母親を見た。
「ママーーーーーーー!」
「あらあら」
上麦は母親に抱き着いた。
「美味しすぎる! すごい! 赤石凄い!」
上麦は赤石と母親とを交互に見る。
「可愛い子ねぇ」
「二階上がるか」
赤石は上麦を置いて、二階へと上がった。




