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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第1章 ラブコメ ヒロイン活動編
32/585

第31話 須田の雑談はお好きですか? 1



 またいつものように、何一つ変わらない平日がやって来た。

 

 赤石はいつものように駅に行き、いつものように電車に乗り、いつものように最寄り駅から高校までを歩いていた。


 八谷と赤石とが尾行をした当日の夜、赤石は八谷から連絡を貰った。


『あんたの言う通り、聡助は妹の誕生日プレゼントを選ぶよう、しおりんに頼んでたらしいわよ』


 赤石は八谷の連絡を見て、自身の予測が当たっていたことを理解した。


 櫻井への恐怖を、狂気を理解しなければいけないと考えた赤石は、今日もまた考える。


 自分が正しいという絶対的な自信がない。全てが全て、ただの邪推の可能性すら、ある。

 だが、櫻井との接触に妙に恐怖を感じるのは、櫻井の有する狂気によるものではなかったのか。

 

 赤石も、一端の男子高校生として女子と上手くいきたいと考え、何度かその目論見を行ったことがあるが、どれも失敗に終わった。

 彼女を欲しいとは思っても、それに見合った行動が出来なかった。

 櫻井は、そんな自分の何倍も何百倍も上手くやっているのではないか。故にラブコメの主人公然としているのではないか。


 赤石は恐怖を抱くとともに、ほんの僅かな憧憬も抱いていた。

 自分は、櫻井のように上手く出来ない。櫻井のように上手く立ち回ることが出来ないと、理解していた。


「悠! おっす!」


 最寄り駅から歩き出し数分が経ったところで、声をかけられた。

 誰が声をかけて来たかは、振り向かないでも分かった。


「統……お前こんな早い時間に来るなんて珍しいな。いつも遅刻ギリギリか遅刻ばっかなのにな」

「ふっ……今日は頭が冴えてな……」

「目が冴えての間違いだな。お前の頭はいつも冴えてないと思うぞ」


 須田統貴その人だった。

 須田は乗っていた自転車から降り、赤石の隣に並んだ。


 赤石と違い須田は自転車通学であり、水泳部のエースたるスタミナと膂力をもってして、長距離の自転車通学も難なくこなしていた。


 須田は自転車を押しながら、赤石を見る。


「悠、この二日間の休日何してたよ」

「あぁ、俺は……」


 八谷と二人で櫻井の尾行をしていた。

 そうは言えなかった。


「筋トレに勤しんでたな」

「ぷっ……お前が? 筋トレしてるような身体じゃねぇだろこれ!」


 須田は赤石の腹部を軽く殴る。


「そういうお前はどうなんだよ?」

「俺か…………。ふっ、聞いて驚くなよ。俺はな……」


 特に大きな出来事があったわけではないだろうが、須田は一拍ためる。


「この二日間であやとりを覚えたぞ! あやとりマスターになった!」

「はぁ?」


 須田は、好奇心旺盛な物見高い男だった。何にでも自分から足を突っ込み、何でも楽しむ癖があった。


「おい悠、お前俺の自転車持っててくれ」

「はぁ……」


 須田は赤石に自転車を預け、ポケットからあやとりの紐を出した。


「じゃじゃーーーん! あやとりの紐―――!」

「仮にもあやとりマスターとは思えない糸の保管の雑さ」

「じゃあまず、俺が昨日覚えた技を披露します」

「どうぞ」


 須田はあやとりを使い、何らかの作品を完成させようとする。


「お…………おぉ、こう見ればお前もなんだか少し知的に見えるな」

「黙っててください、集中力が切れます」

「いや、俺実況だから」


 何気なく話す。


「ほっほっ、ほっ…………ほっ!」

「おお」

「出来たぜ!」

「…………」


 須田は指と指とに糸を絡め、全ての指にさまざまな紐が絡んだ、妙な形が出来上がった。


「……何これ」

「俺が生み出した妙技だ。その名も『混沌』」

「含意が深すぎる。ちょっと芸術家肌が強すぎて俺には理解出来んな」


 ぐちゃぐちゃに絡まっている様にしか見えない。


「紐が絡まり合ってるし『混沌』っていうよりかは『人間関係』だな」

「出た、赤石節!」

「何が出た、だ!」


 何の悪意もないと感じ取れる、話題。


 須田には、人間としての裏表がない。

 人間として、裏も表もなかった。櫻井のように何かを考えているのではないか、水城のように何かを考えているのではないか。

 そう考える必要がなかった。須田と話している時は、赤石は考えることを休めていた。

 幼馴染として須田の多くを知っている赤石はその表裏一体な性格をよく知っていた。


 赤石が八谷に少しずつ気を許しているのも、八谷の表裏一体を感じ取ったからだった。


 赤石は、裏表がない人間が好きだった。


「はぁ……俺の妙技『混沌』が通じないとなるとやるしかないな……俺の絶技を」

「言い方だけ妙に格好良い」


 須田は指に絡まっていた紐を外し、手に置いた。


「おいおいおい、お前あやとりだぞ? 綾を取るんだぞ? 指から離したらもうあやとりじゃないだろ。あやだろ」

「既成概念にとらわれる人間は、新しい物を生み出せないのだ」

「いや、お前自由型過ぎるだろ!」

「いや、黙って見とけよ! まぁ、俺の絶技を見たらお前も腰抜かすぜ」


 須田は手に持っていた紐を、くしゃくしゃに丸めた。

 丸め、形作り、赤石の眼前に持って来た。


「俺の絶技…………その名も『地球』だ!」

「『地球』…………」


 『混沌』よりも、含意が深かった。


「素晴らしい……紐一本で地球という壮大なスケールを再現するとは……丸まった中にも紐と紐とが一定の間隔を空けながら複雑に絡み合っている……。まるで地球に育まれている数多の植物や動物を彷彿とさせる……一〇〇点だ! 既成概念に囚われていたさっきまでの俺をぶん殴ってやりたい……!」

「へへ、よせやい。照れるだろ?」

「もしかしてプロの方ですか?」

「バレましたか……いやはや、一本取られましたな」

「一本の紐を使うあやとりだけに」

「おっ上手い!」

「上手くねぇよ」

「まぁ、これで俺もあやとりマスターになれたってことだな……」

「そんな訳があるか。〇点だ、〇点。ただの丸めた紐じゃねぇか。ルール違反だ」

「突然の手の平返しが。そ…………そんなぁ、せめてアイデア点を……!」

「発想の妙は認めるがルールはルールなんで」

「この杓子定規め! お前はいずれ後になって俺と言う大きな魚を逃したことを後悔するぞ!」

「するか」


 ははは、と二人は笑いあった。



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