第282話 正月はお好きですか? 1
一月一日――
年が明け、一日目。
「「「ハッピーニューイヤーーー!」」」
「えぇ⁉」
櫻井の家の玄関で、クラッカーが鳴らされた。
「な、なんでお前らがこんな所に⁉」
「お邪魔しま~す」
「おっじゃま~」
「お邪魔するわ~」
「話聞けよ!」
櫻井の家に五人の女子が入る。
「来るなら来るって言ってくれよ、皆」
「あらあら、櫻井君。良い子良い子、よちよち~」
「ぶっ!」
豊満な双丘に肉付きの良い女が櫻井を自身の胸に押し付ける。
「止めろよ唯姉!」
「興奮したら駄目よ~、うふふ」
石巻唯、その人は櫻井を自身の胸にうずめさせる。
「ぶ、ぶはっ!」
「あらあら」
櫻井は石巻の体から逃れ、距離を取る。
「全く、勝手に人の家に入っといて好き勝手するなよ!」
「いいじゃんいいじゃん、同じ塾のよしみなんだからさぁ」
「そ、そりゃあ同じ塾ではあるけれども」
櫻井はぶつぶつと文句を言いながら、机を片付け始める。
スポーツウェアに身を包んだ細身の女、仁藤翼は櫻井の家を物色し始めた。
「ちょっとおにぃ、朝から何~?」
櫻井菜摘が階上から下りてくる。
「わ、聡助の妹ちゃん⁉」
仁藤は菜摘に飛びついた。
「きゃーーーー!」
「くぁわいいぞ、この野郎!」
うりうり、と仁藤は妹を抱きすくめる。
「ちょ、痛い痛い痛い痛い痛い痛い!」
「誰がまな板だ!」
仁藤が菜摘を離す。
「お兄ちゃん何一体、激やばなんだけど!」
「俺と同じ塾のやつらだ。まさか突然押しかけてくるとは思ってもなくて……」
「お兄ちゃん、志緒姉ちゃんと付き合ってるんでしょ? 折角の年末年始なのに会いに行かなくて良いの? こんな変な女ばっかりとつるんで」
「いやいや、お参りは一緒に行く予定だから」
櫻井が手をぱたぱたと振る。
「きしししし、櫻井氏、何やら櫻井氏の家には面白い実験道具がいっぱいあるなぁ」
自身の体躯に見合わない大きな白衣を着た眼鏡の少女、子守凪は櫻井の家の調理道具をうっとりと見つめる。
「ちょ、ちょっと止めろよ凪! お前が絡んだらいつもロクなことにならねぇんだから!」
「きしししし、ロクなことにならないとはぁ、ご挨拶。櫻井氏も言うようになったもんだぁ」
「何言ってんだ、馬鹿!」
櫻井は子守の手から調理道具を取る。
「あらぁ、もうなくなっちゃったぁ?」
櫻井の机の下から豊満な肉体を持つ石巻が出て来た。
「ねぇ、櫻井君、もっとお酒ない~?」
「は、はぁ⁉ 酒⁉ 俺の家に酒なんて一つも……」
櫻井は机の上の、飲み干された甘酒を目にした。
「こ、これ飲んだのか⁉ 甘酒は酒じゃないっていってもちょっとはアルコール含まれてるんだぞ! ま、まさかそれで酔ったのか⁉」
「酔ったぁ⁉ お姉さんは全然酔ってないわよぉ」
よいしょ、と石巻は胸を持ち上げる。
「あらぁ、なんだか体が重いわぁ。うふふふふふ」
「うわああぁぁぁぁぁ」
石巻は服を脱ぎ始める。上も下も下着一枚になる。
「ちょ、ちょっと、服、服着ろよ!」
「えぇ? いいじゃない、外じゃないんだからぁ」
石巻は下着姿で櫻井の家の中を歩き始める。
「櫻井君、なんだか私体が重くぅ……」
石巻が櫻井の方へ倒れこむ。
「うおおおおおぉぉぉぉ!」
櫻井が石巻の体を支え、そっと床に下ろす。
「とんでもないことになってきた……」
机の周りを見やれば、既に大量の甘酒のゴミが落ちていた。
「しゃぁくらぁいくぅん」
「うわあああぁぁぁ!」
櫻井の背後から華美なフリルのついた、純白のドレスを着た少女が顔を出した。
「姫野⁉」
「しゃぁくらいくんに姫いっつもお世話になってるからぁ!」
「お前も甘酒飲んだのかぁ⁉」
「のぉみましたぁ!」
姫野は敬礼のポーズを取る。
「馬鹿野郎! なんでお前らは勝手に人の家の物……」
「しゃぁくらぁいくぅん、だっこぉ!」
「抱っこって……」
「姫は抱っこされないと泣ぁいちゃうぞぉ」
「わ、わぁかったよぉ!」
「きゃあぁぁぁっ!」
櫻井は姫野を抱きかかえる。
「これでどうだ!」
「あ、あははははははは!」
姫野は赤い顔で笑う。
「姫は満足なぁのだぁ!」
姫野がそう言うと、櫻井は姫野を下ろした。
「ま、まさかあんなに無口な姫野まで……」
櫻井は青い顔をする。
「おわ!」
がし、と背後から櫻井の体がホールドされる。
「ふむふむ、いい体だ」
「翼ぁ⁉」
細身の体躯、仁藤は櫻井の体をチェックする。
「やっぱり聡助の体は良い! 欲情をくすぐるぞ!」
「何言ってんだお前はぁ!」
仁藤は櫻井の体を撫でる。
「ふむふむ、味は?」
「ひぃっ!」
仁藤は櫻井の首筋を味見する。
「ふむふむ甘い……かな?」
「なぁにやってんだお前はぁ!」
櫻井は仁藤を投げ飛ばす。
「ぶ、無礼者!」
「無礼者はお前だぁ! まさかお前も……」
「む、なんだ⁉」
「甘酒飲んだのか⁉」
「別に飲んでないけれど」
「お前は飲んでないのかよ!」
べし、と櫻井は仁藤の頭を叩く。
「きししししし! 面白いことになって来たなぁ、櫻井氏」
「よ、良かった。お前は普通で……」
子守は白衣の下に何も着衣していなかった。
「お前もおかしくなってんじゃねぇかああぁぁ!」
櫻井は子守の体をタオルで包む。
「しゃぁくらぁいくぅん」
「聡助!」
「櫻井氏~」
「櫻井く~ん」
「サ~クラ~イ」
五人の女子が櫻井に迫る。
「一体正月早々、俺の家はどうなってんだああああああああああぁぁぁぁぁぁ!」
櫻井は家の中で叫んだ。
「俺の学生生活、正月から滅茶苦茶じゃねぇかあああぁぁぁ!」
櫻井は五人の女子を相手取っていた。




