第275話 クリスマス・イヴはお好きですか? 3
「赤石、ゲーム!」
夕食を食べ切った赤石たちはショッピングモールをプラプラと回っていた。
「ゲーム、ゲーム、ゲーム!」
上麦は赤石の袖を掴み、ぴょんぴょんと跳ねる。
「三回プレイして百円か」
太鼓を叩くゲームが、置いてあった。
「やってみろ」
赤石は百円を入れる。
「お、じゃあ俺やろっと」
「白波!」
須田と上麦が隣同士で太鼓の前に立つ。
「ゲーム下手二人だな」
「誰がだ!」
須田が画面と赤石とを交互に見ながら笑う。
「上麦、曲何にする?」
「テレビ局!」
「いや、テレビ局じゃなくて」
「白波がやる! 白波がやる!」
「は~い」
上麦はバチを持って太鼓の側面を叩き、真剣な目で画面を見る。
「これ!」
十代に人気のアイドルが歌う曲を、上麦はセレクトした。
「有名なやつだな。よく売れてる奴だ」
「音楽に売れてるなんて言葉あまり使わないのよ」
上麦は難易度を普通にして挑む。
赤石と高梨は二人、腕を組んで上麦を見守った。
『君が――』
夏祭りを題材にした曲が流れ始める。
「来た!」
上麦はバチを持ち、太鼓を叩いた。
ミス。
最初からタイミングを間違える。
「ドン! ドドン!」
リズムよく叩く須田とは裏腹に、上麦は全てのタイミングをワンテンポずつ遅れて叩く。
「一体こいつには何が見えてるんだ……」
「ドドドン!」
リズムを口ずさむ上麦とは裏腹に、無情にもミスが重なっていく。
そして曲が終わる。
「残念、クリア失敗だドドン」
「…………」
上麦は難易度普通を失敗した。
「嫌!」
上麦はバチを置き、赤石の下へと帰って来た。
「お、俺結構スコア良いな」
須田はつつがなくクリアした。
「あと二回残ってるぞ、すね麦」
「すね麦違う! 白波嫌!」
上麦は高梨に抱かれる。
「あなたが代わりに行ってきなさい」
「やれやれ」
「やれやれ系主人公ね」
「違う」
赤石は上麦が使っていたバチを手に取った。
「よし、統、次は難しいでやるぞ」
「オッケィ! 曲は俺が選んでもいいのか?」
「ああ」
須田はバチで側面を叩き、十数年前に流行った曲を選んだ。
「よし、君に決めた!」
「やるか」
赤石と須田はバチを持つ。
『世界に――』
須田と赤石は太鼓を叩き始める。
「お、これは結構難しい!」
須田は太鼓を叩くのに必死になり、ミスも増える。
赤石はノーミスのまま、最後まで終えた。
「フルコンボだドドン!」
ゲーム内から祝福の声が流れる。
「悠すげぇ!」
「お前もクリア出来てるな」
須田もミスが増えたものの、クリアできていた。
「赤石嫌!」
「なんでだよ」
「さすがインドア系だからゲーム上手いなぁ」
「否めないのが癪だな」
須田はバチを高梨に渡した。
「仕方がないわね、本物がどんなものなのかを、あなたたちに教えてあげるわよ」
「ラスボス来たーーーー!」
須田と上麦が後ろではしゃぐ。
「難易度は鬼、よ」
「最高難度……」
「曲はあなたが選んでいいわよ、赤石君」
「俺音楽聞かないからな……」
赤石は最近話題になったアニメのオープニング曲を選んだ。
「これは私でも知ってるわね。知名度で戦ってきたわね」
「やるか」
赤石はバチを持ち、太鼓を叩く。が、難易度が上がった分、ミスも増える。赤石の隣で高梨は涼しい顔をして、太鼓を叩いていた。
「フルコンボだドドン!」
結果、赤石はクリアできず、高梨は最高得点でクリアした。
「全く……何でもできるって、罪なものね」
「いやみだな」
「高梨最低!」
「そうだそうだ!」
高梨は髪をかきあげた。
「出来ないあなたたちが悪いんでしょう。自分がいかに無力だったかを嘆けばいいわ」
「なんて嫌なやつなんだ……」
赤石たちは高梨に敗北感を残したまま、ゲームを終えた。
そしてショッピングモールを四人で回り、クリスマスイヴを過ごした。
「じゃあ、そろそろお開きにしましょうか」
「お開き!」
赤石たちは駅で解散する流れとなった。
「あなたたちは私たちを送りなさい」
「了解!」
「夜は危ないのよ」
「上麦もか?」
赤石は上麦を見る。
「今日遊びに行くって言ったら、お父さん来た」
上麦は車の方に指をさした。
車の中から中年の男が手を振り、降りてきた。
「初めから見てたのか……?」
「分かんない」
上麦の父親は赤石たちに近づいてくる。眼鏡をかけ、目尻の下がった優男風の男が、赤石に歩み寄って来る。
「いやぁ、どうも初めまして。白波の父親です。本日は白波がお世話になりました」
「はい」
父親は赤石を睨みつける。
「私が言うのもなんですがね、白波はまだ世間にかぶれていませんくて。可愛いことこの上ないのですよ」
「同感ですよ」
赤石と父親は二人で視線を交錯させる。両者視線を外さず、お互いを見続ける。
「本当に可愛い子でねぇ、こんな可愛い娘が誰かのものになると思うと私は耐えられませんねぇ」
「子供は親の所有物じゃないので、誰のものにもなりませんよ。そこには主体的な上麦の……白波さんの選択があるだけなんじゃないんですかね」
「ほぉ……」
父親は手を差し出す。
赤石は父の手を握り返す。
「どうやら君とは仲良くなれそうだねぇ」
そして父親は赤石の手を強く握りしめた。
「こちらこそ、いつも白波さんを世話させてもらってますよ。同級生なのに甘えられて大変な毎日ですよ」
赤石は父親の手を握り返す。
「そうですかそうですか、でも今日はもう遅いので、私が連れて帰りますよ。白波を、私が! ね」
「どうぞどうぞ、白波さんもお疲れのようですから」
上麦は赤石の袖を握り、眠たげに目をこすっていた。
「では! 私の娘がお世話になりました! またもしも次に会う機会があったのならば、娘をよろしくお願いいたしますよ」
「こちらこそ」
赤石と父親は手を離した。
父親は上麦を車に乗せ、そのまま走って行った。
「過保護な親め」
「あなたも大概よ」
上麦が帰り、高梨の家まで赤石たちがついて行くこととなった。
「ここでいいわ」
赤石と須田は高梨を家まで送り届けた。
「屈強な統貴がいたから襲われずにすんだわね」
「どんな世界観で生きてんだよ」
「じゃあ今度は年末年始に会いましょう」
「またあるのかよ」
「来なかったら学校であなたに乱暴された、と言いふらすわ」
「時代が時代ならただじゃ済んでないな」
「じゃあ、おやすみ」
「ああ」
赤石と須田は高梨と別れた。
「じゃあ俺らも帰るか」
「ああ」
「やっと二人きりになれたわね」
「やっと二人きりになれたわね、じゃないんだよ」
赤石と須田は二人で帰り始めた。
「でも今日は楽しかったなぁ~」
「そうか」
「クリスマスにこんな良い思いで出来て良かった~」
「そうか」
「そろそろ俺らも三年だからなぁ~」
「勉強の一年が……来るな」
修了式が、近い。
「じゃ、悠、また明日」
「明日も来るのかよ」
「おい磯野! 冬休みの課題しようぜ!」
「磯野じゃない。おやすみ」
「おやすみぃ!」
須田は赤石に手を振り、そのまま帰って行った。
「……帰るか」
一人になった赤石は夜道を歩く。
「……」
数分歩いた後、赤石はふ、と公園に視線を向けた。
「……?」
ベンチの上でスマホを熱心にいじる女が、そこにはいた。
「……ん?」
目をこする。
そこにいたのは、新井だった。
赤石は公園に入り、新井の下まで歩いて寄った。
「…………」
ザッザッ、と砂を踏む靴の音がする。
冬の夜に、赤石の足音は一層大きな音で響いていた。
「裕也君……!」
「俺だ」
新井は赤石を見ると、肩を落とした。




