第268話 体育祭はお好きですか? 3
『続きまして、昼のプログラムを始めます』
昼休憩が終わり、体育祭の目玉である午後のプログラムが始まった。
『まずは、四×百メートルリレーです』
今大会の最大の目玉であるリレーが、始まった。
「お~し、予選張り切ってくぞ~」
「お前ら、絶対勝つぞ!」
「「「おーーーーー!」」」
男子生徒は輪になって、鬨の声を上げる。
「相変わらず体育祭で勝ちたい奴が多いもんだな」
「マジキモい」
人が少なくなった席で、赤石と黒野は二人でこそこそと話していた。
「こんなくだらないことで一致団結して勝とうって思ってるところが本当気持ち悪い。人の輪をつなぐための大会が、結果的に失敗した人間を頭ごなしに叱って、どんどん人の輪をぐちゃぐちゃにしてる。こんな大会なくなればいい」
「言いすぎだろ」
「赤石は私に意見する権利ない」
赤石や黒野、ほか余った生徒が呆然とプログラムが進むのを待っていた。
「まあ日よけで他人が運動してる様子見るだけで一日が過ぎるなら楽でいいだろ」
「そこは同感……」
黒野はもじもじと指をもてあそぶ。
「でも、元々私運動できないし、こんなことで一致団結してる奴ら嫌い」
「まあ個人差あるからな」
「赤石は運動は?」
「普通だよ。俺はなんでも、普通だよ」
「一般人……」
「だな」
赤石と黒野は静かな時間を過ごしていた。
「四×百メートルリレーに出る方はここに並んでください」
体育祭の実行委員が、リレーに出る選手を並ばせる。
「じゃあ順番に、名前を教えてください」
実行委員は先頭の生徒から順に、名前を聞く。
「四×百メートルリレー、超楽しみなんだけど」
「実質これが本番みたいなところあるし」
そして同じく体育祭実行委員である甘利は、四×百メートルリレーの選手として並んでいた。
「名前教えてください」
「矢野浩平」
「矢野浩平……え~っと……」
実行委員の女子生徒は名前を探す。
「ない……ですね」
「は? ない?」
「はい、ないですね。次のプログラムは四×百メートルリレーなんですけど、合ってますか? 間違えてませんか?」
「いやいや、間違えてない間違えてない。絶対これだって」
「おかしいなぁ……」
女子生徒は頭をかく。
「ちょっと、甘利」
矢野は立ち上がり、後方にいる甘利の下へと向かった。
「え、矢野、なに?」
「俺の名前ないって言ってんだけど」
「え? え?」
女子生徒は困った顔をしながら、矢野の後ろをついてきた。
「え、いや、でも、だって……」
甘利は焦り、声が詰まる。
申請書を書いたのは櫻井であり、甘利ではなかった。甘利は申請書の中身を把握していない。
「え? ちゃんと申請してくれたんだよな?」
「え、えっと……」
甘利は額に冷汗をかく。
「甘利さん、申請書に書きました?」
「わ、分からない……」
「なんで分かんねぇんだよ! 何してんだよお前! これ出れなかったらどうすんだよ!」
矢野は声を荒らげる。周囲にいる女子生徒が怯え、甘利と矢野から距離を取る。
「申請されてないと登録されてないと思います……」
「えっと……えっと……」
甘利はおろおろと周囲を見渡すが、申請書は甘利しか知らない。小さなトラブルが、起きていた。
矢野に問い詰められ、甘利は泣きそうになる。
「あ、あの、須田さん!」
焦った実行委員の女子生徒は、同じく四×百メートルリレーの選手である須田の下まで駆け寄った。
「おう、どうしたのやっちゃん」
「四×百メートルリレーに出る、甘利さんのクラスの人が違ってて……」
「? どういうこと?」
「甘利さんのクラスの四×百メートルリレー、あそこの矢野さんが出るんですけど」
「ほう」
「でもこっちの紙には書いてなくて」
「どれどれ」
須田が紙を覗き見る。
「あ~」
須田は膝を打つ。
「これ見方間違ってるね。裏があるから」
「裏……あ」
女子生徒は紙を裏返し、矢野の名前を発見した。
「おいおい、しっかりしてくれよ、やっちゃん~。まさか人ならざる者とか混じってんじゃないだろな~?」
「す、すみません!」
女子生徒は頭を下げた。
「まあまあ、学校のイベントなんだから、適当でいいっしょ。適当で。一回軽くリハーサルもあったし、多分進行には大きな問題はないはず。次から裏とかも見ると見逃さないんじゃない?」
須田は女子生徒を慰めた。
須田の下に視線が集まる。
「こら! 何見てんだ! 見世物じゃねぇぞ!」
須田は帽子を外し、頭の上で振り回した。
「落ち着けよ、舞台はまだだぞ、天才チンパンジー」
「誰が天才チンパンジーだ! 誰が!」
須田と同じく四×百メートルを走る男子生徒に、揶揄される。
須田は目線を引き受け、女子生徒は再び生徒の読み上げに戻った。
「あいつはまた、ダサい役回りしてんなぁ」
赤石と黒野は小さなトラブルが起きている須田の周辺を見ていた。
「あれが……須田?」
「ああ。お前は修学旅行で会ったんだっけか?」
赤石は背もたれに背中を預け、リラックスした状態で聞く。
「まあ」
「へ~。あいつ本当ダサい立ち回りだよな」
「ふ……」
黒野は須田と赤石を交互に見た。
『続いては、四×百メートルリレーです』
四×百メートルリレーが始まった。
『さあ、速い、速い、一組速いです』
粛々とプログラムは進んでいく。
「なんで放送部って体育祭の時、感情全くないんだろうな」
「疑問」
『三組、頑張ってください』
「頑張ってくださいなんて言われたら情けなさ過ぎて笑える」
黒野と赤石は二人で、放送部にツッコミを入れる。
「次は統の出番だな」
須田はアンカーとして、四×百メートルリレーを走る。
『四組、速い、速い』
須田は一番にバトンをもらい、一着でリレーを決めた。
『一着は、四組』
放送部が順位を読み上げていく。
「これで統のグループは決勝進出か」
「これ予選?」
予選を決め、四×百メートルリレーは終了した。
「俺らのクラスも何組か決勝行ってるみたいだな」
「どうでもいい……」
赤石のクラスの学生たちも続々と帰って来る。
「やあやあ、悠人君。見てたかい? 予選ブロック」
「ああ。お前はどこにいたんだよ」
「ちょっと散歩をね」
霧島は人差し指を立てる。
「そして! 我らが佐藤君と由紀ちゃんが見事決勝行きを決めたようだね!」
帰って来た新井と佐藤に、霧島は拍手する。つられて、他の生徒も拍手をする。
「い、いやぁ……そんな……」
「別に……」
佐藤、新井たちのグループは拍手を受け、顔を背けた。
「さあ、決勝は最終プログラム。待ち遠しいね!」
霧島たちは新井、佐藤の決勝を待った。




