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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第7章 修了式 堕落編
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第261話 動画編集はお好きですか?



「赤石さん」

「…………」


 翌日、自席に座るや否や花波から声をかけられた赤石は、苦虫を嚙み潰したような顔をする。


「そんな顔しないでくださいまし」

「……」

 

 きゅぴきゅぴ、という効果音が似合いそうな花波の喋り方に、赤石は不快な顔をする。


「赤石さん、甘いものはお好きですか?」

「あまり」

「そうなのですね。困りましたわね」


 花波はカバンの中をごそごそと探す。


「銃でも出す気か? 法治国家だぞ」

「また面白いことを言いますわね、あなたは」


 花波は笑顔でカバンの中を探す。

 怖くなった赤石は前を向いた。


「赤石さん? 人が話している時はきちんと顔を向けてくださいません?」

「……」


 赤石は櫻井のいる位置を把握しながら、花波に振り向いた。


「甘いものが苦手なのですか?」

「苦手ではないが、健康に悪そうだからあまり率先して摂取はしない」

「若いころから健康を気にしますのね」


 若干の毒のある言い方に、赤石は安堵する。


「では赤石さん、私の焼いたクッキー、もらってくださいませんか?」

「……どうも」


 赤石は花波からクッキーを受け取った。


「……」


 クッキーを見る。


「食中毒とか」

「またまた、ひどいですよ、赤石さん」

「…………」


 赤石は再び顔を強張らせる。


「誰?」

「花波裕奈です、花波裕奈をよろしくお願いします」

「選挙カー?」

「当たりです!」


 花波はびし、と指さした。


「何楽しそうに話してるの?」


 赤石と花波の下に暮石がやって来る。後ろから上麦もやって来る。


「お菓子!」


 上麦は赤石の手からクッキーを強奪した。


「化け物め」


 上麦はその場で食べ始めた。


「赤石さん、私が渡したんですからきちんと食べてくださいません?」

「俺のせいじゃないだろ」


 花波は再びカバンからクッキーを赤石に手渡した。


「どうも……」


 赤石はクッキーと上麦を見比べる。


「上麦、体に不調とか……」

「美味しい! 花波料理上手い!」


 上麦は満足した顔で言う。


「やあやあ、盛り上がってるね、皆」


 霧島がやって来る。


「何しとんや、お前ら」


 三矢、山本も来る。


「なんか変じゃないか、こいつ?」


 赤石は花波を見る。


「なんや、そんなきゃぴきゃぴして。ええことでもあったんか?」

「裕奈ちゃん、ここに来てキャラ変かい? その選択は吉と出るか凶と出るか……」

「何を言っているんですの、二人とも。私は今実験をしていますの」

「実験……」


 赤石と三矢は顔を見合わせる。


「教室で実験とか言うとるやつ、めっちゃ痛――」

「そこまでにしよう、ミツ」


 赤石は話を止めた。


「あ、あと暮石さんにも上げますわ」


 花波はカバンからチョコレートを取り出し、暮石に差し出した。


「あ、ありがとう。でもなんで?」

「私が入院してご迷惑をおかけしましたから、そのお返しですの」

「あ、あぁ! なるほど! ありがとうね、花波さん」


 暮石はチョコをしまった。


「さぁ、他の人にも上げてきますわ」


 花波は立ち上がり、教室を回り始めた。


「変な物とか食べたんちゃうか、あいつ……」


 明るい花波の振る舞いに、赤石たちは困惑していた。





 放課後、赤石は終業式に作るビデオの編集室へと向かう。


「あ~かい~し君っ!」

「はい!」


 後ろから唐突にぶつかられ、赤石はたたらを踏む。


「私だ!」

「会長……」


 生徒会長、未市要が腰に手を当て、立っていた。


「フィジカル強いですね」

「女性に向かってフィジカル強いとは、失礼な! よぅし! もう一度だ!」


 未市は両手を上げ、足を小刻みに動かする。


「外国のコメディアニメの走り方」

「~~~~」


 未市は嬉しそうな顔をする。


「久しぶり!」

「はい」


 未市の敬礼に、赤石は返答で返す。


「おんぶしたまえ!」

「嫌です」


 未市は赤石に小走りで寄った。


「廊下を走らないでください」

「会長には走っても良い権限がある!」

「ありません」

「おぶりたまえ!」


 未市は両腕を上げた。


「おんぶって、そういう店でやるオプションだとすら思ってますよ、俺は。密着度が高すぎる」

「ならばいい、私がおぶろう!」


 赤石の言葉を歯牙にもかけず、未市は赤石の前に立ち、赤石をおぶった。


「まだましですけど、下ろしてください」

「下ろす!」


 唐突に手を離し、赤石はバランスを崩しながらも、降りることに成功する。


「ジェットコースターみたいな人ですね」

「今度行こうか! ジェットコースター!」

「本当に話が通じないな……」


 赤石は半眼で未市を見た。


「私は楽しいものが好きなのだ! いつだって! さ、行こう赤石君! 私たちの楽園リゾートへ!」

「要さん、人の話を聞かないってよく言われません?」

「美人だからね!」

「……そうですね」


 赤石は未市と編集作業へ向かった。


「諸賢! 編集作業は順調か!?」


 未市はコンピュータ室に併設されている事務室へ来た。


「ああ、会長、と、赤石君」


 編集係である岡田は、やつれた顔で笑いかけた。


「随分やつれてますね、岡田さん」


 赤石は荷物を置き、岡田に対面する形で座った。


「ああ、ただでさえ受験で忙しいのに、体育大会の準備までさせられて、家に帰ったらご飯作って掃除して編集作業して、僕はもう瀕死だよ。ゲームならすぐにでも捕まえられる状態だろうね。僕だったら真っ先に宿屋に向かって体力を回復するよ」

「大変ですね」


 赤石は水を飲んだ。


「赤石君、どうしてそっちに座るんだい、こっちに来て編集出来たのを見てくれよ」

「あぁ、はい」


 赤石は岡田の隣に座った。


「仲睦まじいな、君たち!」

「普通ですよ」


 はっはっは、と未市は笑う。


「岡田さんも会長といてよく疲れないですね」

「疲れるよ、僕は、本当に。会長は話が通じないんだ。人の話を聞こうとしない。すぐに自分の話をしだす。自分は他人にさんざ迷惑をかけておいて、他人の迷惑は一切許さない。おまけに自分は美人だから何をしても良い、と傲慢におっしゃる。僕は精神性の病気じゃないかと疑ってるんだけどね」


 精神が追い詰められているからか、普段聞かない岡田の毒を聞き、赤石は少し驚く。


「それに、すぐに人前で裸になる。この部屋で僕と彼女しかいないのに、突如として服を脱ぎ始めた時は困ったよ。後ろが向けなかったからね。こんなものは新手のストレス要因だよ。ハラスメントとして国に報告しておいてくれないかい」

「えぇ」


 赤石は後ろを振り向き、未市を見る。


「ちなみに要さん、なんか今から着替える予定とか」

「エッチだな、君も! 変態め! そんな予定はない!」


 未市は鼻を鳴らす。


「だが、どうしてもというのなら、今ここで脱ぐこともやぶさかではない!」

「いや、こっちが要求したみたいになるじゃないですか」

「要求しているだろう! このド変態め!」


 赤石はパソコンに再び視線を戻す。


「変態! クズ! エッチ魔人!」

「それで、これが出来た動画なんだけど」


 岡田は編集ソフトを動かし、赤石に動画を見せる。


「なるほど……」


 赤石は動画を見る。


「私の体が見たいのなら好きにすればいい! あぁ! 私はなんて不幸なんだ! こんな美少女に生まれてしまったがばかりに男の汚い欲望をぶつけられて! だが! それでも! 私はくじけない! 何故なら、美少女だから!」

「これ、撮影期間ってもう終わってるんですか?」

「いや、終わってないよ」


 赤石は動画を見る。


「そう……ですか」


 赤石は言葉を取り下げた。


「なんだい? 何か言うことがあれば」

「いや、ここは人の向き逆の方が良いかもな……と思ったんで」


 左を向いて話し始める生徒の指摘を、する。


「向きによって敵と味方が別れるっていう技巧があるらしいんですよ。今までもこっち向きが主人公側だと思ってたので、どっちが主人公か分かりにくくなるかと思うんですが、でもまた撮影するのもあんまりですかね……」

「……なるほど」


 岡田はスライダーを戻し、再び該当の箇所を見始めた。


「よし、撮り直そう。言われてみれば、そうだね。もう疲労が溜まって何が何だか分からなくなってきたよ……」

「いえ、すみません」


 岡田は撮り直しを決意する。


「もういい! 私の役目なんて、どうせ美少女性を振りまくことくらいなんだ! 美少女がそこにいるだけでどうして男たちはこんなにも争ってしまうのか! あぁ! 憎い! 私は自分自身が憎い! そしてこの生まれ持った美しさを生かしきれない自分が!」

「会長」


 身悶えしている未市に、岡田が声をかける。


「撮り直しましょう」

「分かったぞ!」


 未市と岡田は再び案を練り始めた。

 赤石は脚本と同時に、絵コンテを修正し始めた。


「楽しいな!」


 未市は楽し気に、笑った。


「会長はうるさいだけですけどね」

「ね」

「なんだと!?」


 赤石たちは動画を作っていた。








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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新あざます。 [一言] 花波は洗脳が解けつつあるか? 赤石君はいつも通りだな! しかしハーレムメンバーが赤石と関わってるのに櫻井が噛みついてこないだと……?
[一言] …生徒会長、久しぶりだけど…ここまで人の話聞かなかったっけ…奇人だったのは覚えてるんだけど…人を振り回すだけで攻撃性が高くないのがせめてもの救いか… 花波はあれか。前の統との話の内容から、…
[気になる点] 櫻井が現れない?何を待っている?
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