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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第7章 修了式 堕落編
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第252話 体育祭実行委員はお好きですか?




「目をこすると良くないぞ」

「飲み物」

「飲みさしならあるぞ」


 赤石は水を取った。


「飲みさしいらない! ジュース!」

「いつでもジュースを飲もうとするんじゃないよ」

「じゃあ新品お水! 飲みさしぬるい!」

「自分で買えよ」

「白波お金ない。赤石お金ある」

「はあ……」


 赤石は立ち上がり、自販機まで行った。


「私のためにジュースは買わないのに、白波ちゃんのためには買う! おかしい!」


 新井が赤石に反駁する。


「こうしないと癇癪起こすから」

「なら私が癇癪起こしたら買ってくれるわけ!?」

「逃げるよ」

「じゃあ白波ちゃんが癇癪起こしても逃げればいいじゃん!」

「こいつ暮石とも繋がってるから。回り回って俺の下馬評が悪くなる」

「は!? 何それ!? 私に奢らなくて回り回ってもあんたのイメージ悪くなるし!」

「お前の交友関係だろ」


 赤石はふ、と鼻で笑う。


「どうせお前の交友関係の中の俺のイメージなんて最底辺だろ」

「やっぱり私のこと見下してるあんた! 最低!」

「じゃあもうそれでいいよ」


 面倒くさくなった赤石は途中で会話を切り上げた。


「絶対許さない。謝るまで絶対許さない」

「新井うるさい」


 上麦が眉間に皺を寄せる。


「……あいつ、白波ちゃんのことも見下してるんだよ? なんであんなのと係わるの?」

「新井も私のこと見下してる! どっちもどっち!」

「えぇ……?」


 新井は上麦に苦手意識があった。

 上麦は他者を慮らない。思ったことがすぐに口から出る。

 その考え方が新井とは違ったがために、新井の不興を買うことが多かった。


「わ、私には価値があるから! 聡助がいなくても、私には価値がある! 大学生の人も私のこと大切にしてくれた! あんたは元々私のことを見下して、まともに話をしようとしてない! あんたが間違ってる」

「もうそれでいいよ。帰ってくれ」


 赤石は新井をしきりに帰らせようとする。

 恋人に振られた時、好きな人に相手にされなかったとき、同様の行動パターンに陥る者が多い。何らかの方法でストレスを解消しようとする者、忘れようとする者、自らに価値があることを疑いたくがないために、異性に相手をしてもらおうとする者。

 異性につけられた心の傷を異性に癒してもらう。自分には価値があると自覚するために。他人から認められるために。

 新井は櫻井によって出来た心の傷を、別の異性に認めてもらうことで塞ごうとした。大学生と知り合い、認めてもらい、自分の価値を自覚することで、櫻井によって生じた心の傷を、塞ごうとした。

 赤石は新井の行動原理に、一定の理解を示した。


 だが、赤石の見下した態度が鼻につき、新井はいつまでも怒りが収まらない。


「大体あんたが!」

「あれ、由紀ちゃんどうしたの、こんなところで?」

「あ、三葉っち……」


 やっほ、と暮石が新井に声をかける。


「あ、白波も何してるの、こんなところで」

「赤石、水、買う」

「え?」


 暮石は自動販売機を見た。ちょうど赤石が水を買ったところだった。


「あ、赤石君お久しぶり」

「久しぶりでもないだろ」


 赤石は水を持って上麦の下へ戻って来る。


「あ、私帰る……」

「え、何か用があったんじゃないの?」

「また後で話すし」

「そうなんだ。うん、分かった」


 暮石がやって来て話がこじれると思った新井は、その場から撤退した。


「あれ赤石君、お水あるくない?」


 ベンチの上の、飲みさしのペットボトルを見る。


「上麦が買え、ってな」

「赤石の飲みさし、嫌」

「え、それ白波のために買ってくれたの?」


 赤石は上麦にペットボトルを手渡した。


「ちべたい!」

「駄目だよ白波、なんでもかんでも赤石君に買ってもらっちゃ」

「パパ活」

「誰がだ」


 赤石は飲みさしのペットボトルを取った。


「赤石は白波に奉仕するの好き。奉仕させてあげてる」

「そんなこと言っちゃだめだよ白波! いくらだった、赤石君?」


 暮石が財布を取り出す。


「百数十円。面倒くさいから止めてくれ」

「さっき買ったのに何十円か覚えてない」


 上麦が横から茶々を入れる。


「許せよそれくらい。しまってくれ」


 赤石は暮石に財布をしまわせる。


「女子高生から金を受け取る姿はどう見ても心証が悪い」


 赤石は辺りを見渡す。辺りには生徒が沢山いる。


「そんな……同級生なのに」

「だからいい」

「じゃあ後でこっそり渡すね?」

「いや、百円ごときで恩感じないだろ。不必要だ」


 上麦はペットボトルの蓋を開け、飲み始める。


「そっか。優しいね、赤石君は」

「優しさなんてものは全部ビジネスだ。他人が感知できる優しさは取り引きでしかない。俺は百円と引き換えに暮石の好感度を上げたわけだ。これは優しさでもなんでもない。本当の優しさは、当人がいない場所でしか伝えられない。上っ面で見えるものを優しさだと勘違いしているなら、いつかロクでもない目に遭うぞ」

「相変わらず変なこと言うね、赤石君は。私怒っちゃう」


 暮石は赤石の肩を殴る。


「腹筋崩壊パンチ!」


 暮石は赤石の腹を殴った。


「……」

「反応してよ」


 暮石は頬を膨らませる。


「帰る」


 上麦は一人、帰りだした。


「あ、そろそろ次の授業あるね」

「今日は短縮だからすぐに終わるな」

「な~る~」


 上麦はペットボトルを両手で持ち、飲みながら歩く。


「飲みながら歩くな、上麦」

「こぼれない」

「危ないから」


 赤石は上麦の手からペットボトルを取りあげ、蓋を閉めた。


「セクハラ!」

「勝手に言ってろ馬鹿女子高生め」

「赤石変態! 誰か捕まえて!」

「合法だよ」


 赤石は一人、先に行った。


「赤石、お金とご飯しか良い所ない」

「も~、白波駄目だよ、色んな人に物ねだっちゃ」

「白波スタイル」

「そんな良い物じゃないよ~……」


 暮石と上麦も赤石の後を追った。






「え~、近く、体育祭がある」


 授業が終わり、帰宅のホームルーム。

 神奈は黒板に体育祭と書いた。


「この体育祭で実行委員を決めたいと思う。誰か体育委員になりたいやついるか~?」


 誰も、手を上げない。


「私は早く帰りたいから、お前らで体育委員を決めてくれ~。男女一人ずつだぞ。決まったら帰って良いぞ~」


 そう言うと神奈は椅子に座り、書類に目を通し始めた。

 生徒たちはゆっくりと話し始める。


「誰か体育祭の実行委員やりたい人~」

「「「…………」」」


 誰も、手を上げない。


「体育祭って普通運動神経良い人がやるもんじゃない?」

「「確かに」」


 生徒の目が、新井に向く。


「え、何? 私?」


 新井は自身を指さし、呆けた顔をする。


「なんで?」

「新井ちゃんってすごい運動神経良かったよね」

「え、まあ、普通だけど」

「じゃあ新井ちゃん、やってくれない?」


 生徒たちの目が新井に向く。


「いや、別に誰かいるし?」

「やりなよ、由紀」


 平田が新井に水を向ける。


「朋美……」

「もう早く帰りたいから、適当にそういうの選んで」


 このまま長引くのを嫌ったか、あるいはクジという形で自分にお鉢が回ってくることを懸念したか、平田が新井と話している所を見るのは珍しいな、と赤石は二人を見る。


「まあ別に……良いけど」

「じゃあ新井ちゃん、お願いね。次に男子の方だけど」

「……」


 沈黙している。


「別に由紀が選べばよくね?」


 再び平田が声を上げる。

 女子生徒の中で異質な存在感のある平田の声に、生徒たちが委縮する。


「私、今日彼氏待たしてるから早く帰りたいんだけど。てか、授業終わったんだからさっさと帰らせてほしいっていうか、帰ってもいい?」


 平田はゆっくりと教室を見渡す。


「えっと、それは良くないっていうか……」

「じゃあ由紀、早く選びなよ」


 平田が新井をあごでさす。


「お前が遅らせてるんだろ」


 赤石が小声で言う。


「余計な事言わんでええねん」


 三矢が赤石を小突く。


「えっと……じゃあ」


 新井はゆっくりと腕を上げ、指さした。


「え……」


 指さした先にいたのは、


「俺!?」


 櫻井だった。

 まだ諦めてないのか、と赤石は二人を眺める。

 とはいえ、櫻井以外の男子を新井が選ぶとも考えられない。


「いや、別に由紀が良いなら俺は全然良いけど……」

「はい、じゃあ決定。解散」


 平田は手を叩いた。

 神奈は新井と櫻井が体育委員になったことを受け、ホームルームを終了した。

 体育祭が、近い。






「書いてくれ」


 土曜日の昼、水城家のリビングで、茂が離婚届を置いた。


「止めてください、こんな所で」


 紅藍は離婚届をしまおうとする。


「離婚するんだろ」

「志緒がいますから」


 紅藍はてきぱきと洗濯物をたたむ。


「それより、休日くらい家事をしてくれてもいいんじゃありませんか?」

「料理も皿洗いも掃除も、全て私がしただろう」

「食洗器のスイッチを押してロボット掃除機が掃除出来るようにちょっと片付けただけじゃないですか。それくらいで家事をしたなんて言わないでください。本当の家事は、もっと大変なんです」

「自動でやってくれるならそれが一番だろう。簡単なことなら、平日お前がやっていることは何なんだ」

「私には他にもやることがあるんです」


 茂は冷蔵庫を開け、ビール缶をあけた。


「昼間からビールなんて……」

「別にいいだろう、嗜好品の一つや二つ」

「家事を手伝ってもらえませんか? 私が今洗濯物をたたんでいる所が見えませんか?」

「だからやったと言っているだろう」

「そういうのを押し売りと言うんですよ。家事には名前もついていないような細かい作業が沢山あるんです! ちょっと手伝ったからといってやった気にならないでください!」


 紅藍は声を荒らげる。


「家事でなくとも、名前のついていないような作業はたくさんあるだろう。電話をするのに連絡先を調べることを名前のない作業だと言うか? 相手が忙しいかどうかを想像することを名前のない作業だと言うか? それも含めて、電話をかけているのだろう」

「屁理屈ばかり言って、あなたはいつもそうです。五年前にレストランに連れて行かれた時もそうでした」

「今五年前の話はしていないだろう」


 平行線。

 紅藍と茂の溝は埋まらない。


「とにかく、今は家に志緒もいるんです。止めてください」

「平日は仕事。たまの休日も仕事。なら、いつ話をしろと言うんだ? 久々に取れた休日なんだぞ」

「上に志緒がいますから……」


 トトトト、と階段を下りてくる音がした。見計らっていたかのように、水城が下りてきた。


「お母さん、ちょと話があるんだけど」

「何? 志緒」


 紅藍は机の上の離婚届をぐしゃぐしゃに丸め、ポケットに入れた。

 茂はビールに口をつける。


「今度家に人呼んでも良い?」

「人って?」

「え~と」


 水城はおとがいに指を当て、考える。


「櫻井聡助君です!」

「あ、あぁ……」


 紅藍と茂の仲を裂く原因となった、櫻井。


「実は私、櫻井聡助君と恋人になりましたぁ~~! パチパチパチ~!」

「え、えぇ……」


 言葉を失う。


「だからお母さんに紹介したくて。あ、お父さんも良いよね? 明日は仕事じゃないよね?」


 水城は遠くにいる茂に声をかける。


「…………あぁ」

「やったー!」


 水城は小躍りし、紅藍は顔を青くする。


 茂は、ビールを一口飲んだ。

 櫻井聡助が、水城家に、やって来る。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 「私のためにジュースは買わないのに、  白波ちゃんのためには買う! おかしい!」 読者の庇護欲を一身に集める上麦ちゃんと 櫻井ハーレムの一構成員のお前が同格だと何故思った。
[気になる点] 水樹ちゃんの地雷の上でダンスするスタイル好きやわ
[一言] >「こうしないと癇癪起こすから」 >「なら私が癇癪起こしたら買ってくれるわけ! 新井さんよぉ…自分ところの娘が癇癪起こしたときと、よそ様のところの娘が癇癪起こしたときで対応が同じはず無いだ…
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