第249話 飲み屋はお好きですか? 2
居酒屋についた山田たちは店に入った。
「すみません、当店未成年の飲酒はお断りしておりまして」
平田たちが入るや否や、店員に声をかけられる。
「あ~、酒頼まないんで」
「……少々お待ちください」
制服のまま来店した平田たちに確認が入る。
「毎回こうなの?」
「あ~大丈夫大丈夫。飲まないから」
平田は気にかけることなく、スマホに目を落とす。
「二十二時までにご退店願いたいのですが」
「じゃあそれで」
山田は若干の不機嫌さを残しながら、店に入った。
新井たちも中に入る。制服のまま居酒屋に入るという不義理に、新井は戦々恐々とする。
「そんなビビらなくてもいいし、由紀」
「だって制服だし」
「夏服なんだから普通のワイシャツと同じっしょ。ビクビクしてるからそう思うんだって。大体飲み屋も別に来たら絶対飲まないといけないわけじゃないし。ファミレスとかと同じじゃん、名前違うだけで」
平田は堂々と入って行く。
「でも……」
「早く前行って」
「……」
新井は店の奥へと入って行った。
「うぃ~、裕也ちゃん、遅いじゃないの~」
個室に案内される。そこにはすでに、二人の男が、いた。
「え、誰その子!? めちゃ可愛いじゃん!」
「嘘だろ裕也! 誰だよ!?」
新井が入った瞬間、男たちが騒ぎ出す。
「騒ぎすぎ騒ぎすぎ、朋美と同じ高校の同級生だって」
山田は平田たちを座らせる。
「え、名前は? 名前は?」
「えっと……新井……由紀です」
「「え~~~可愛い~!」」
二人の男は、さらに盛り上がる。
「ちょっと、私の時そんなこと言わなかったじゃん」
平田は男たちの肩を殴る。
「人の女に手出せるかよ、なぁ?」
「お、おう!」
「じゃあ私もフリーだったら良かった」
「ちょっと止めてよ朋美」
山田は苦笑する。
「あ、俺安藤浩二っす。よろしくおなしゃっす!」
「俺倉田拓海で~っす! よろしくおなしゃっす!」
二人は新井の挨拶をする。
「あっ、よろしくお願いします」
なんだ、優しそう、と新井は安堵する。
「こちらお通しで~す」
席に座りほっとするのも束の間、早速料理が運ばれてくる。
「お飲み物の注文どうされますか?」
「え~っと」
山田が平田たちにメニューを見せる。
「あ~、コーラで。皆も好きなの頼んで」
「じゃあ、オレンジジュースで……」
「私もそれで」
「私はパイナップルジュース」
店員は注文を受け付ける。
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」
店員は奥へと戻った。
「え、で、由紀ちゃん、なんで今回こんなむさくるしい所に来ようと思ったの?」
「おいおい、むさくるしいって」
倉田が突っ込み、笑う。
「え、何? 失恋したから新しい恋探そう、とか?」
「……あははは」
新井はただ、笑った。
「あ~、図星だ~」
「ちょ~、浩二止めろよ~」
二人は新井を見つめ、笑う。
「えっと、私の知らない世界をちょっと見てみたいな、と思って……」
安藤と倉田はきょとんとする。
「おい~、浩二お前全然違うじゃねぇかよぉ!」
「止めろよ! お前もそうだって思ってただろ!」
がははは、と手を叩く。
「お待たせいたしました、こちらオレンジジュースの方」
店員が個室に入り、飲み物を渡す。全員に飲み物が行きわたる。
山田は手をパンパンと叩き、注目を集めた。
「よ~し、んじゃあ、今日は初めて来る由紀ちゃんとの出会いも兼ねて、まずはいっちょ乾杯しときますか~」
「「うぇ~~~い!」」
山田はグラスを高く掲げる。
「はい、新しい仲間、由紀ちゃんとの出会いを祝しまして! かんぱ~~~い!」
「「「かんぱ~~~い!」」」
飲み会が、始まった。
「かんぱ~~~~~い!」
「「「かんぱ~~~~~~~い!」」」
同日、高梨の別荘でも、少なくない人数の高校生が集まっていた。
「今日はお招きいただきありがとうやんす!」
三千路は高梨に絡む。
「酔ってるの?」
「リンゴジュースだよ?」
三千路は高梨の肩に手を回す。
赤石は高梨の別荘で、一人座っていた。
高梨は赤石の近くに座る。
「私は乾杯、という言葉が嫌いだわ」
「同意見だよ」
赤石と高梨はフランクフルトを焼く須田たちを見る。
「いかにも、やりたくもない人に無理矢理行為を強いているように見えるわね」
「そうだな」
赤石はちびちびと水を飲む。
「皆さん!」
別荘の中で那須が一際大きい声を上げた。
「本日はお嬢様のために集まっていただき、ありがとうございました。皆さんのご尽力の甲斐もあり、お嬢様はお父様からの政略結婚の破棄に成功いたしました」
「那須さんもクビにならなくて良かったっすね」
須田が口をはさむ。
「はい。今回はお嬢様が自由になられましたお祝いといたしまして、私から皆さまをご招待させていただきました」
「全く、面倒なことをしてくれたわね、真由美」
高梨は半眼で那須を睨む。
赤石は、高梨と那須が話している場面を見るのが好きだ。高梨にも気の置けない関係の人物がいることに、むず痒い嬉しさを感じる。
「お嬢様からも皆様に感謝の言葉を仰ってください」
「……」
高梨は前に立った。
「ありがとうございました」
高梨は頭を下げる。
「それでは皆様、今回はお嬢様の快気祝いといたしまして、私がご奉仕させていただきます。お外の方へどうぞ」
「「いぇ~~~~い!」」
須田と三千路が一番に外に出る。
「馬鹿どもめ」
「いいじゃない、楽しくて」
「お前が言うのは意外だな」
高梨は目を細めて須田たちを見る。
那須は流しそうめんの上から、そうめんを流していた。
「ふざけんな統! 全部お前が食べてんじゃん!」
「一番前で超速度で食べたらずっと俺のターン! 今さらそうめんを食べさせろと言われてももう遅い!」
「なろう小説止めろ!」
そうめんを独り占めしていた須田は三千路に締め上げられる。
「落ち着いてください皆さん、まだまだありますから」
那須は微笑みを絶やさない。
「なんかあれだな」
赤石は騒ぐ須田たちを見る。
「アメリカのホームパーティーみたいだ」
「郊外に別荘があって良かったわね」
二人の下に、上麦がてこてこと歩いてくる。
「二人とも、ご飯、食べない?」
「お前もそうめん食えよ」
上麦は両手で四本のフランクフルトを持ち、赤石の隣に座った。
「白波ちゃん、おっきぃソーセージだね、ぐふふふ」
どこからやって来たのか、三千路が上麦の隣に座る。
「変態!」
「消えろ」
「最低ね」
「うっ!」
赤石たちが三千路に白い目を剥ける。
上麦は赤石にフランクフルトを渡し、赤石は高梨にフランクフルトを渡した。
「いらないわよ、赤石君からそんなものもらえないわ、気持ち悪い」
「そうですか」
赤石は自分で食べた。
「そうめん流してんだからお前もそうめん食えよ」
「白波! そうめん! 激しい! 戦い!」
「なるほど」
そうめん流しでは、激しい戦いが繰り広げられていた。
「皆疲れた時、そうめん食べ放題」
「賢いな」
「んぅ~」
上麦はフランクフルトを食べながらちょこん、と座っていた。
「お前も大人になったな……」
「どこがよ」
赤石たちは別荘で遊んでいた。
 




