閑話 グランピングはお好きですか? 4
相撲を終えた須田たちは帰って来る。
「帰ってきたぞ、悠」
「そうか。もうすぐ出来るぞ」
「ごめんな、悠だけにやらせて」
「勝手にやってんだよ」
赤石は肉を網に乗せる。
「白波も手伝う」
上麦も、肉を網に置いていく。
「ごめんね皆、私たちだけ遊んでて」
「いいからいいから」
船頭は暮石を席につかす。
「じゃあ皆適当に座って~」
上麦は赤石の右隣に座り、須田を右隣に招いた。
「須田、こっち」
ぽんぽんと椅子を叩く。
「悠の隣が良かったけどなあ」
「文句、駄目」
上麦は肉を網に乗せていく。
「肉ばっかり乗せるなよ。野菜も乗せろよ」
「……!」
上麦は驚いた顔で赤石を見る。
「じゃあ焼いていくね~」
スーパーで買ってきた食材を、船頭と赤石がどんどんと焼いていく。
「ゆかりパイセン大好きっス!」
「現金だなぁ、安月ちゃんは」
はい、と船頭は安月の近くに肉を置く。
「白波、あなた汚らしい男二人に挟まれて、危ないわよ」
高梨が対面から言う。
「誰が汚らしいだ」
「はははは、マジかよ」
須田は豪快に笑う。
「皆焼けてるやつからとってね~」
船頭はほいほいと肉を焼いていく。
「ありがと~、船頭さん、あとで代わるね」
「いいからいいから~」
暮石は野菜と肉を取り、頬張る。
「美味しい~」
満面の笑みで、暮石は咀嚼する。
高梨たちも、皆一様に笑みを浮かべながら食事を楽しむ。
「皆で食べる。美味しい」
上麦は自身の皿に大量に肉を乗せ、言う。
「おいお前どんだけ肉取ってんだよ。需要と供給が一致しないだろ」
「白波、肉、食べる。肉、育つ」
「ゴーレムみたいな喋り方になってるだろ。おい自重しろよ」
「ふっ」
「自嘲してどうすんだよ!」
暮石たちの視線も上麦に注がれる。
「白波、あなたお肉ばかり食べてたら大きくならないわよ。野菜もちゃんと食べなさい」
「白波肉好き!」
「そんな偏った食事をしてるから全然成長しないんじゃないの。野菜も取りなさい」
高梨が上麦の皿に野菜を乗せていく。
「悪魔!」
「私たちの取るお肉がなくなるでしょう」
上麦は肉だけを食べる。
「須田助けて!」
「そのために統貴を横に置いたのね」
上麦は須田にすがる。
「いやいや、肉の脂っていうのは、野菜と一緒に食べることで美味しくなるんだよ。上麦も肉と野菜一緒に食べてみな」
「ん~~」
上麦は肉とキャベツを同時に食べる。
「……美味しい」
「美味しいのかよ」
赤石はキャベツを上麦の近くに置く。
玉ねぎ、キャベツ、カボチャなどの野菜を上麦の近くに置く。
「あはは、白波野菜包囲網」
暮石が手を叩いて笑う。
「悪魔石!」
「なんとでも言うといい」
赤石は肉が行きわたっていない場所へ置いていく。
「じゃあ俺交代するわ、悠」
「じゃあ頼む」
須田と赤石が位置を変える。
暮石と船頭も同様にして席を代わる。
「さあ、おれの肉は……」
赤石は自身の皿を見た。
肉がなくなり、野菜だけになっていた。
「てめぇ!」
上麦は口をもごもごと動かしながら、幸せそうな顔で微笑んでいた。
「吐け! 吐き出しやがれこのハイエナ女!」
「ちょっと悠人、まだまだお肉はあるからそんな狭いところで争奪戦広げなくても~」
船頭がどうどう、と赤石をなだめる。
「このためにこの席を狙ってたのか」
「肉美味い」
「はあ」
赤石はため息をつき、野菜を食べ始めた。
「まあいいよ、なんでも」
「赤石、諦め症。白波のこと許してくれる」
「怒ってももう肉は返って来ないからな。仕方ない」
ぎゃあぎゃあと騒ぎながら、一角が騒々しくなる。
「それにしても人多いな」
赤石は周囲を見た。
コテージを拠点にして、机と椅子の並べられている整然とした区画に、多くの家族、学生たちが肉を焼いていた。
そこら中で肉が焼ける音がし、肉の焼ける匂いが立ち込める。
「まあ流行ってるからね~」
船頭が咀嚼しながら言う。
「あとで山登り行かね?」
「賛成~」
須田の提案に手が上がる。
「なんか全然関係ないんだけど、暮石ちゃんお肉焼くの上手くない?」
船頭の下に運ばれた肉を見ながら、言う。
「こんなものに上手いとか下手とかあるのか?」
「あるからあるから! なんていうかな、肉が網に全然引っ付いてないんだよね」
「あ~、やっぱり飲食店の娘だからかな」
「「「飲食店の娘!?」」」
一同が声を同じくして、暮石を向く。
「え、な、なに? どうしたの皆」
「どうしたのって、私そんな事初めて聞いたし」
「いや、俺もだ」
「私もよ」
「白波どうなのよ」
「白波は知ってた」
上麦を除き、他全員は初めて聞いたことに驚いていた。
「まさか上麦、お前、だから暮石と一緒に……」
「白波、そんなに卑しくない」
「まだ私たちが小さいころね、白波が皆から孤立してたから私が家に呼んだんだ。そこでご飯振る舞ってあげて、その時から白波と私は一緒にいるんだ」
「なるほど」
そんな涙ぐましい過去が、と赤石は上麦と暮石を見やる。
「立派になったな、二人とも」
「何も見てないでしょ!」
暮石は拳を振り上げる。
「でも上麦は孤立しそうだな、確かに」
「そ~。白波すぐ思ったこと言っちゃうから本当ひやひやしてて」
「白波嘘もつける」
上麦は赤石の目を見た。
「赤石……面白い」
「…………」
赤石は半眼で上麦を見下ろす。
「ともとかにもすぐ反発しちゃうから正直、今もひやひやしてる」
「平田偉そう。白波嫌」
「なるほど」
「何をなごんでるのよ、あなたたち。今は暮石さんの家の話だったでしょう」
高梨が途中で会話に入る。
「そ、そうだった。暮石ちゃんの家お店なんだ~」
「焼き鳥屋みたいなとこ」
上麦が頬張りながら言う。
「居酒屋みたいなところってことね」
「串打ち三年焼き一生、ってやつか」
「どうだろ~」
あはは、と暮石は笑う。
「三葉、料理上手い」
「やっぱりお店の子だから料理上手いんだ~」
へ~、と船頭が手を合わせる。
「今度暮石ちゃんの家も行ってみたいな~」
「ダメダメ、ダメで~す」
暮石がバツを作る。
赤石たちは料理に舌鼓を打った。
食事を終えた赤石たちは、片づけをしていた。
「はい、白波スイカ」
暮石が上麦にスイカを食べさせる。
「美味しい」
「うん、でも私の指まで食べないで」
暮石は上麦を甲斐甲斐しく世話していた。
「人間とモルモットだな」
「言い方よ」
赤石はふ、と笑う。
「でも白波ちゃんっているだけでその場の空気変わるよね」
「まあいるだけで空気が変わる奴っていうのは、どこにでもいるもんだろうな」
船頭は炭を冷やしながら言う。
「悠人お肉足りた?」
「満腹だよ」
「良かった良かった、白波ちゃんにすごい奪われてたからね」
「天災みたいな物だ」
須田は赤石に寄りかかる。
「やっぱり自然の中で食べるとなんか美味く感じるよなあ」
「俺は正直家で食べた方が美味いな。外で食べたら砂埃とかつくだろ」
「も~、本当悠人って嫌なことばっか言うし」
「この意見に関しては結構いろんなところで聞くはずだぞ」
赤石、須田、船頭の三人は笑う。
「それにしてもゆかりが企画なんて珍しいな」
「ちょっと思いついたんで~」
いや~、と船頭は頭をかく。
「夏休みももう終わるからね~」
「他の奴らは誘わなかったのか?」
「ん~…………」
船頭はおとがいに指をそっと当てる。
「今はあいつらとつるんでないな~」
「なんで?」
「なんでって、大学受験も近いし、そろそろ遊んでられないかな~、って」
「…………そうか」
赤石と船頭は無言で片付けをした。




