閑話 グランピングはお好きですか? 3
「パイセン~」
安月が赤石の下へとことこと走ってくる。
「パイセンって偏食らしいスね」
「偏食の定義によるな」
「偏食であること認めてるようなもんスよね、ぷぷぷ」
安月は鼻で笑い、レモンをどさどさとカゴの中に入れた。
「まあ私は? 偏食なんてないんで? レモンでもたくさん食べれますけど?」
半眼で口端を釣り上げながら、安月は赤石を見た。
「いや、安月ちゃん、レモンこんなに食べる人いないから戻してきてよ」
「え?」
船頭はレモンの入ったパックを、安月に渡す。
「じゃあよろしくね?」
「は……はい」
安月はとぼとぼと、レモンを持ち場に戻しに行く。
「ふっ……」
「……!」
去る安月の背中を、赤石は鼻で笑う。
「ちょっとちょっとちょっと! パイセン! 何笑ってんスか!?」
レモンを戻した安月は早足で戻ってくる。
「本当性格悪いスね、パイセン」
「言われてるぞ、上麦」
「白波、何でも食べる」
「赤石パイセンに言ってるんスよ。もう少し須田パイセンのこと見習ったらどうすか?」
安月が須田を指さす。
須田は暮石と高梨と共に食材巡りをしていた。
「俺と統貴は違うからな。人間は自分とは違うものを持つ人に魅かれるっていうからな……」
赤石は遠い目をして言う。
「何が自分とは違うものを持つ人に魅かれるスか。パイセンの場合引かれる、でしょ。この一瞬でその俗説が間違ってることが分かったスよ」
安月はぐちぐちと文句を言いながら、再び須田の下へと戻った。
「全く、子供じみたやつだな」
「本当」
上麦は赤石の隣で腕を組みながら言う。
「お前もだよ」
「?」
上麦は自分を指さし、小首をかしげた。
「じゃあそろそろ会計しよ~」
船頭は須田たちにも言い、カウンターへと向かった。
「いくらになると思う?」
須田は赤石に言った。
「一人頭二千円弱と考えて、一万三千ってところだろうな」
「ほう、じゃあ俺は一万円ジャストで」
「私は一万千円にするわ」
「突然」
高梨が横から出てくる。
「白波八千円」
「じゃあ私一万五千円にしようかな」
上麦と暮石が言う。
「負けたらどうする?」
「負けたやつが負けてない奴からビンタされる」
「え、普通にやだよ!」
暮石が声を上げる。
「ほんの冗句だ」
「赤石君は真顔で言うから全然ジョークに聞こえないの!」
だんだんと床を蹴り、暮石は怒った。
船頭が会計を終え、他のメンバーが集まる。
「ゆかり、いくらだった?」
「え、なんで?」
船頭は赤石にレシートを見せた。
「一一三四〇円。高梨がニアピンだな」
「当たり前よ」
「上麦が三三四〇円、暮石が三六六〇円の差だから暮石が負けだな」
「なんで~、も~!」
暮石は頬を膨らませ、レシートを見た。
「白波もうちょっと買っててよ!」
「え、白波のせい?」
上麦はきょとんとする。
「ちょっと、私がいないうちに何皆で楽しそうなことしてんの」
「楽しそうではないだろ、特段」
赤石たちは店を出た。
「よし、じゃあ会場に行こーー!」
船頭を先頭に、そこからは徒歩でグランピング会場へと向かった。
「重い~」
上麦がレジ袋を持ちながら、よたよたと歩いていた。
「じゃあ持ってやるよ」
赤石が上麦のレジ袋を持つ。
「赤石助かる」
「ああ」
赤石は右手に飲料水を、左手に上麦から受け取ったお菓子を持った。
「やっぱり統貴は頼りになるわね」
「もちのろん」
高梨は須田が持つレジ袋の量を見、感心した。
「俺はこの中で一番鍛えてるからな!」
「だって」
船頭が赤石を見る。
「鍛えてなくて悪かったな」
「まあまあ、そう怒らずに」
「お前がまいた種だよ」
赤石たちはグランピング会場についた。
「じゃあ受け付けしてくるからちょっと待ってて」
「ああ」
船頭は森に設置されたコテージへ行き、受付に行った。
「白波、あなた赤石君に荷物渡したのね」
「重かった」
「赤石君、あなた白波にだけ優しいわね」
「俺は博愛主義者だよ」
「嘘おっしゃい。醜い欲望が透けて見えるわ」
「なんでだよ」
上麦は気楽な顔でぷらぷらとしていた。
「白波可愛いから皆によくしてもらえる」
「あなた将来ひどい目に遭うわよ」
「白波お金持ちと結婚して玉の輿」
「堂々としてるわね」
「本心に忠実なところが上麦のいいところでもある」
赤石は上麦を買っていた。
「受け付けしてきたからこれ持って~」
コテージから出てきた船頭がバーベキューに必要な物を渡す。
「あそこで私たちバーベキューしてください、って」
「なるほど」
赤石たちは木製の机、椅子が並ぶ区画に立ち入る。
「今日一日取ってるからそこまで急がなくて良いって」
「なるほど」
船頭たちは荷物をその場に下ろす。
「暫く準備あるから皆は遊んできて良いよ~」
船頭がひらひらと手を振る。
「俺は面倒だからここにいる」
「じゃあ私もここにいようかしら」
赤石、高梨はその場にとどまることを選択した。
「ああ、じゃあ俺も」
須田も名乗りを上げるが、
「須田パイセン、相撲取りましょうよ」
安月が須田に話しかける。
「いや、俺も準備しようと思って」
「大丈夫スよ、全部赤石パイセンがやってくれますから」
「行って来いよ」
「あ~……分かった。じゃあ行く」
須田は安月に手を引かれ、外に出た。
「よ~し! かかってこいラナ! 俺が相手だ!」
「うおおおおおおおおおぉぉぉぉ!」
安月が須田に突進する。
須田は安月を軽々と持ち上げ、軽く投げ飛ばした。
「うげっ!」
「わはは! まだまだ俺には敵わねぇなぁ!」
「白波も!」
上麦が須田に向かう。
こともなく倒される。
「あはは、ちょっと体格差あるなあ」
「私も行く!」
暮石が挑み、三千路も挑むが、敗北する。
「つ、強すぎる……」
「わはは、ほらほら、その程度かぁ!?」
須田を中心にして、三千路たちがかわるがわる須田に突っ込んでは投げ飛ばされる。
その様子を赤石たちは遠く離れた場所から見ていた。
「楽しそうね」
「全く」
「悠人も行けば?」
「面倒だ。準備をしてる方が面倒じゃない」
「悠人って本当省エネだねえ」
「出来るだけ楽して生きていきたいんだよ」
船頭たちは食料をクーラーボックスに入れ、網を設置する。
「おら!」
「くそぉ!」
「はっはっは、まだまだだなぁ」
「うわああぁぁ!」
須田は次々と投げ飛ばす。
「いや~、なんて言うのかな」
船頭が須田たちを見ながらつぶやく。
「楽しいね」
「…………ああ」
「そうね」
船頭たちは須田の相撲大会を穏やかな目で見ていた。




