閑話 グランピングはお好きですか? 1
朝の八時半。
夏休みの朝から、赤石たちは公園でたむろしていた。
「暑い……」
赤石はタオルで汗を拭きとる。
「さて、さてさてさてさて!」
赤石の隣にいた須田が、公園を自由に駆け回る。
「私はどこにいるでしょうーーか!?」
木の後ろに隠れ、須田は言う。
「隠れてるところまで丸見えだよ」
「三、二、一!」
須田が木の後ろから声を上げる。
「そーーうです!」
「うわ!」
赤石の後ろから声がする。
「正解は、悠の後ろにいる、でしたーーー!」
赤石の背中に乗りかかった三千路が、言った。
「完全に予想外だった」
「統と目が合ったから目配せでドッキリを仕掛けたのだ」
「仕掛けたのだ、じゃない」
須田は笑いながら帰って来る。
「いやぁ、いい天気だなぁ」
「良い天気すぎるのも困り物だがな」
赤石たちは照り付ける太陽に目を細める。
朝の八時半から三人はテンション高く、話し合っていた。
グランピング。
近年流行り始めた、新しいバーベキュースタイル。バーベキューに必要な物は運営が全て提供し、バーベキューのみを、快適に楽しむことが出来る、
船頭の提案で赤石たちを含め、グランピングが行われることになっていた。
そして提案者の船頭は、まだ来ていなかった。
「あいつ自分で提案しといてこれかよ」
「まあまあ、大体朝の八時半くらい集合だから大丈夫大丈夫」
須田が赤石をなだめる。
「もう、悠ちゃんったら! 気が短いんだから!」
「誰だよお前」
「三千路鈴奈! 華の女子高生デスッ!」
「そうですか」
ピースサインでしなを作る三千路をよそに、赤石は公園の入り口を見る。
「あ」
三千路が気付く。
「三葉ちゃんと白波ちゃんじゃん。おーーーい」
「!」
三千路が手を振り、暮石に近寄っていく。
上麦は大きなあくびをし、眠たげな眼をこすりながら、暮石に手を引かれやって来た。
「よ」
「ああ」
「おっす」
上麦が軽く手をあげ、再び大きなあくびをする。
「お前髪型滅茶苦茶だぞ」
上麦はぼさぼさの髪が四方八方に向いたままだった。
「赤石、直して」
「自分で直しなさい」
赤石は上麦に手鏡を手渡す。
「ん……」
「うわっ!」
上麦が赤石の手鏡を食べようとし、赤石は即座に手を引っ込める。
「魚め」
「眠いのだ……」
「夏休みで完全にだらけたな」
「まあまあ、こんな機会じゃないといっぱい眠れないんだから」
須田が赤石をなだめる。
「甘いな統、こいつは一度甘やかせばもう二度と起きてこない。常に鞭を持ってびしばし鍛えていかないといけない」
「大丈夫大丈夫、俺がいるから」
須田はポケットからお菓子を差し出す。
「須田、出来る男」
上麦はお菓子を受け取り、頬張った。
「全く……」
赤石は大きなため息を吐く。
「しっかりしなさいよ、白波」
「そうだ……」
途中まで言いかけ、後ろを向く。
高梨が赤石の隣に、いた。
「お前いつから」
「最初からいたわよ。そんなに私の影が薄いとでも言いたいのかしら。心外ね」
「いや、いなかっただろ。遅刻してないみたいな雰囲気出すなよ」
「してないわよ、私は全然」
高梨は澄ました顔でつんとする。
「高梨、最初からいた?」
上麦が小首をかしげる。
「白波、あなた髪の毛がぐちゃぐちゃよ。仕方ないわね」
「ん」
高梨は上麦の髪を撫でつける。
サイドポーチから櫛を取り出し、髪をとかしだした。
「本当にあなたは、自分の容姿に無頓着なんだから」
「高梨、出来る女」
「あいつ出来るの判定滅茶苦茶だな」
上麦は目をつぶり、高梨に髪をとかしてもらっていた。
「三葉ちゃん、ぐへへへ、お胸の方は成長したのかな?」
「ちょ、ちょっと止めてよ三千路さん!」
「ぐへへへ、女の子同士だからいいじゃない」
「た、助けて~! 誰か~!」
三千路は後方から暮石に襲い掛かり、暮石の体を好き勝手にしていた。
「どういう光景だ一体……」
「メイド喫茶みたいな感じ?」
「そう言われるとそうにも見えるのが不思議だな」
赤石と須田は遠い目で四人を見る。
「ゆ、う、っとーーー!」
「うわ!」
船頭が後方から赤石の背中に突貫する。
椅子に座っていた赤石は船頭に席を奪われ、たたらを踏む。
「お待たせん!」
「クソが」
赤石は服の埃をはたき、立ちあがる。
「パイセン、こんちはっす!」
「おう、ラナ、うっす」
須田の後輩である安月が、須田の背中から顔をのぞかせる。
「あっれ~、赤石パイセン、女の子に席奪われたんすか~? ぷ~くすくす」
「よし、今からじゃんけんをして負けた方は帰宅することにしよう。じゃーんけーん」
「あ~嘘嘘嘘! 嘘です!」
安月が大慌てで手を振る。
「赤石パイセン、これで負けたら本当に帰りそうだから怖いんですよね」
「性格が良いから嘘をつけないんだろうな」
「いきなりいたいけな後輩の女の子を帰らそうとするようなパイセン、絶対性格良くないと思います」
安月は船頭の肩に腕を乗せる。
「ね~」
「ね~」
そして船頭と安月は笑いあった。
「いつの間にこんな交友関係が……」
三千路と暮石。船頭と安月。赤石の知らない交友関係が、どんどんと築かれていた。
「パイセンが一人でぶらぶらしてるうちに、会長の傘下たちは仲良くなっていったんスよ」
「傘下だったのかよ」
赤石は高梨を見る。
「私の眷属よ」
「そうですか」
「あなたも私の眷属に入れてあげましょうか?」
「結構です」
「大丈夫よ、痛いのは最初だけだから」
「結構です」
「そのあとは気持ちが良いわよ」
「結構です」
「交際五年目のカップル、次の段階は?」
「結婚です」
八時四十五分。
グランピングに行くメンツが、全て揃った。
「また今回も大人数だな」
「よ~し、早速皆、バス停に行きましょうー!」
「「「おーーーー!」」」
須田たちは意気揚々と、拳を上げた。




