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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第6章 修学旅行 交際編
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エピローグ



 休日。

 櫻井とデートに出かけた水城の家は、しんと静まり返っていた。


「……」

「……」


 水城の両親である茂と紅藍は、同じ空間にいながらも、一言も言葉を交わさない。

 喧嘩の一件以来、二人はお互いに口をきかないようになり、数週間が経過していた。


「……」

「……」


 元々茂が口下手ということもあり、櫻井にかかりきりになっている水城には、そんな両親の変化に気付くことがなかった。


「…………」


 茂がリビングを回り、シンクにたどりついた。


「……」


 シンクには、洗われていない大量の皿が、放置されていた。


「……」


 茂は紅藍を見る。

 紅藍はソファーで、寝ていた。


「おい」

「…………はい」


 少し間をおいて、紅藍が返事をする。


「皿は」


 それは茂が数週間ぶりに交わした、まともな言葉。

 紅藍は茂と目を合わせる。


「洗ってません」

「何故洗わない」

「忙しかったからです」


 紅藍はつんとした表情で言う。


「お前は専業主婦だろ? 家事をやらなくてどうする。家で一体何をしているんだ」

「こっちにも体調がすぐれない日があるんです。休日も働いてるんだからそんな日があっても当たり前でしょう」


 紅藍は茂から目を逸らし、横目で言う。


「何故家事もしないんだ? お前がやらなければ誰がやるんだ」

「あなたがやればいいじゃないですか。大体、いつもいつも私にばかり頼んで、ちょっとは協力くらいしてくださいよ」

「だから休日は手伝ってるだろ」

「手伝うって言い方がそもそも嫌なんです。こっちは志緒を育てて毎日家事もやってきました。あなたは平日に仕事に行ってただけじゃないですか」

「……」


 茂はシンクから離れた。

 

「お前は何がしたい?」

「はあ……」


 紅藍は疲れ切った様子で、ため息を吐く。


「そんなに嫌なら離婚でもしますか?」

「…………」


 茂は紅藍から目を離し、踵を返した。


「次の休みに書類を取ってくる」

「…………」


 振り返ることのない茂を、紅藍は目で追った。


「あ……」


 やってしまった、と思った。

 数週間口もきいていない茂との会話を生み出すために、故意に放置した皿が、裏目に出た。

 紅藍は引き留めて欲しかった。離婚をするはずがないだろう、と言って欲しかった。自分から話しかける勇気がないばかりに、茂の目につくように家事をさぼった。

 目につきやすい家事をサボり、会話を生み出した。


 だが、紅藍は素直になれなかった。

 どうしても茂を前にすると素直な言葉よりもまず、悪態が先に出た。

 そしてその結果が、今だった。


「あぁ…………」


 茂は離婚届を取って来ると、言った。


「なんで……」


 紅藍はその場にうずくまる。


「なんでこうなるんですか…………」


 うっうっ、と泣きながら、紅藍はソファーを涙で濡らした。


「どうして……」


 紅藍はただ、そういうことしか出来なかった。

 素直になることが出来ない自分を、呪った。

 ただ、話がしたい、と、そう言えば良いだけだった。


「どうして……」


 紅藍の意地と茂の意地がぶつかりあった、結果だった。






「あ~~~~~~」


 一人、自室で花波は声を上げていた。

 抑えきることのできないストレスが、花波を襲っていた。


「あ~~~~」


 剃刀を、持ってくる。


「聡助様……」


 花波は剃刀で自身の右手を、軽く切った。


「聡助様……」


 花波は目の下にひどいクマを残し、手首を切っていた。

 うっすらと血がにじむ様子を見て、花波は満足する。

 血が出る様子を見ると、何故か安心できた。行き場のないストレスを吐き出す方法が、分からなかった。

 形としてストレスが解消されたように思えた。リストカットは、花波にとって、とても満足できるものだった。

 やりたいと思っていたわけではなかった。

 だが、やらずにはいられなかった。 


「私には聡助様しかいませんの……」


 大量の睡眠薬を机に放置したまま、花波は己の摩耗した心を守るように、手首を切っていた。

 睡眠薬を使わなければ、眠ることも、出来なくなっていた。







「……」


 新井は自室でスマホを開いていた。

 カオフを開き、メッセージを送る。


『朋美、男紹介してくれない?』


 平田朋美。

 赤石のクラスで女子グループの先頭に立つ女に、カオフを送っていた。


「聡助……」


 櫻井の名前を口にしながらも、うるんだ瞳でメッセージを送る。


『私今男の子と遊びたい気分なんだよね』


 新井は自分の道を、踏み外そうとしていた。






「ふふふ……」


 葉月は家で、マフラーを編んでいた。


「今年ももうすぐクリスマス……」

 

 櫻井のために、手編みでマフラーを編んでいた。


「私が櫻井君の隣にいないと。櫻井君もそう思ってくれてるよね、きっと」


 櫻井が水城と付き合ったという事実を受け入れず。あるいは、受け入れきれずか。

 葉月は現実から目を逸らしたまま、マフラーを編んでいた。


「私が櫻井君の隣にいないとね……」


 葉月はうっとりとした目で、マフラーを編んでいた。





「…………」


 自室で一人、船頭はスマホを見つめていた。

 櫻井とデートをする。それが自分にとってどういう意味合いを持つのか。赤石の言っていたことはただの詭弁であり、櫻井との関係性の方が、自分にはあっているのか。


「…………」


 船頭は霧島からの連絡を待っていた。

 

 櫻井とのデートの日取りに、船頭は不安と自分への疑義が募っていた。






「うっ……うっ……」


 八谷は一人、布団にくるまり、泣いていた。


「赤石……ごめん……」


 ただひたすらに赤石への謝罪を繰り返しながら、布団の中で泣いていた。






「……」


 赤石は一人、自身の手のひらを見つめていた。

 自分が八谷にしたこと。

 八谷の感情。

 罪と罰。 

 功と罪。

 

 赤石は手のひらをぎゅっと握りしめる。


「最悪だ……」


 赤石は最悪の気分のまま、何もすることが出来ず一日を過ごしていた。



 


 それぞれが思い思いの時間を過ごす。

 体育大会が、始まろうとしていた。





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― 新着の感想 ―
[一言] 八谷さん激応援してます!
[良い点] 櫻井が時間をかけて積み上げガソリンをぶちまけまくった火薬庫に赤石が火種を放り込んだら見事に大爆発したって感じですかねこれ [気になる点] 八谷が相対的に一番マシなのがなんとも。 赤石も罪悪…
[一言] 一か月後 そこには、背中から包丁が生えた櫻井の姿が!
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