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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第6章 修学旅行 交際編
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第231話 密会はお好きですか?



 就寝の時刻を過ぎた頃合い、櫻井のいる一室では今もまだ寝場所を決めかねていた。


「じゃんけんで負けたけど私絶対こんな所で寝たくない!」

「由紀ちゃん、もう諦めようよ」


 新井が駄々をこねていた。

 水城と葉月が櫻井の隣で寝ることとなったが、口論を続けていた。


「お~い」


 扉の外で教師の声がする。


「まずい、先生だ!」

「もう寝とかないとやばいよ!」


 にわかに一室が騒ぎ出す。


「まだ寝てない馬鹿はいないな~」

「……」

「……」


 静寂。教師によるチェックは各部屋まで届いていた。

 女子フロアを担当する神奈は一人、部屋を回っていた。


「まさかとは思うけど、男子生徒が来てたりしないだろな~」


 言いながら、各部屋を開けて回った。


「……」

「……」

「寝てるな~、よ~し」


 部屋を閉める。


「嘘!? ここ男がいたら駄目なところなのか!?」

「聞いてないよ! 一つの班で一つの部屋だと思ってたのに!」

「布団もちゃんと人数分あるよ!」


 神奈の足取りは櫻井の部屋まで迫って来ていた。


「じゃあ次はここだな~。806号室、入るぞ~」


 けだるそうな声でそう言いながら、神奈は櫻井の部屋を開けた。


「…………」


 神奈は部屋の様子をうかがう。

 消灯済み、声も聞こえない。一見して問題はなさそうだった。


「ん?」

 

 神奈は少しして、異変に気が付く。


「なんで布団が六枚……?」


 水城を含め、都合五枚の布団が並んでいるべきだった。


「この部屋、志緒たちの部屋じゃ?」


 神奈は手元の資料に目を通す。


「まあ、いいか」


 神奈はドアを閉め、再び次の部屋のチェックに回った。


「……」

「……」

「っぷはーーーーー!」


 櫻井が新井の布団から出てくる。


「ちょ、ちょっと、止めてよ聡助! 入らないで!」

「す、すまん! つい……」


 咄嗟に布団に隠れた櫻井は新井と同衾していた。

 

「だ、大丈夫だったか?」

「……馬鹿!」


 新井は自身の胸を隠し、頬を赤らめて言う。


「え、俺何かしたのか……?」

「もう知らない聡助! お風呂場でもああだったのに!」

「な、なんか悪い……」


 ぷい、と新井は視線を逸らした。


「で、でもここが女子フロアだったとはな……」

「そ、そうだよね」


 櫻井は一人、女子フロアの一室に来ていた。


「櫻井君のしおりにはのってなかったの?」

「いや、俺の部屋は確かにここって……」


 櫻井は自身のしおりを再び見返す。


「確かにここ――」


 櫻井は目をぐるぐると回した。


「悪い、もしかしたら由紀のしおり読んでたかも……」

「そ、聡助の馬鹿!」

「でも今から元の部屋帰れないよね?」

「……」

「……」


 そして再び櫻井をめぐるじゃんけんが始まった。


「由紀、もしかして俺が触った柔らかいのって……」

「それ以上は禁止!」


 新井は櫻井をぽこぽこと叩いた。







 そして翌日の朝。

 赤石は水城に言われた通り、朝食を前にして水城と会っていた。


「赤石君、ごめんね、こんな時間に」

「ああ」


 朝の五時半。お互い自身の部屋を抜け出して、会っていた。


「あはは、なんかこんな所見られたら恋人かと思われそうだね」

「いや、誰も思わないと思う」


 誰がどう見ても、水城は櫻井にぞっこんだった。


「要件は?」

「あ、そうだ。あのね……」


 水城はもじもじと指の腹を合わせた。


「やっぱり修学旅行もこれで最後でしょ?」

「そうだな」


 修学旅行最終日。朝食を食べ、昼にはバスで帰る。


「私まだ櫻井君に告白してなくて……」

「そうか」

「だから、だから!」


 水城は声を絞るようにして、必死に言う。


「今日櫻井君に告白しようと思うの!」

「…………」


 赤石は無言で、水城を見た。


「そうか」

「うん!」


 水城は嬉しそうに言う。

 目を輝かせ、今後の展開を不安がるかのように、そして期待もこめて。


「前も告白したんだろ?」

「今回は修学旅行だからパワーもらってる気がする!」


 ぐ、と水城は拳を握る。


「……そうか」


 一般に、幼馴染キャラはラブコメで必ず敗北する。

 主人公の幼馴染にある立場のヒロインが結ばれることは稀であり、主人公は幼馴染に好意を持つことは少ない。

 それは元々幼馴染としての立場を築いてしまっているからであり、恋愛で必要な刺激が少ないからだ。

 

 水城は櫻井と幼馴染。何度告白しても櫻井に取り合ってもらえないのは、幼馴染だからだった。


「で、何をしてほしいんだ」

「何も?」


 水城は唇に人差し指を当て、小首をかしげる。


「なんで呼んだんだ?」

「今まで手伝ってもらったからその恩……?」


 えへへ、と水城は笑う。


「ありがとね」


 赤石は何度か水城に対してサポートをしていた。

 赤石が班にいるとき、いないとき、細かなサポートを水城にしていた。


「なんだか今日は行けそうな気がするんだ」


 水城はうっとりと宙に目を滑らせる。

 

「昨日も櫻井君の隣で……」


 そこで口を止める。

 何があったのか、赤石はおおよそ察しがついた。


「だからもし今回駄目だったら、慰めてね?」


 てへ、と舌を出す。


「これで最後にするから」

「…………」


 水城は床に視線を落とした。


「あ、でも、ご飯が始まる前に櫻井君に告白したいから、どういうシチュエーションでどういうことを言って櫻井君に外に出てきてもらうかはちょっと相談したかったりですね……」

「そうか」


 赤石は水城の相談に乗る。

 水城はこの後櫻井を呼び出し、告白する。

 

 朝食が始まるまでに決着がつく。


 水城は果たして櫻井と結ばれることが出来るのか。

 今後この展開が櫻井たちに何を巻き起こすのか。


「楽しみにしてるよ。頑張れ」


 赤石は昏い笑みをたたえながら、水城を見た。





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― 新着の感想 ―
[一言] これもうまく櫻井が告白イベントをうまく回避したら神(皮肉です) さてどうなるやら。
[気になる点] 毎度の櫻井の茶番だが、ここまでくると流石に周りの男子も羨ましく思うどころか(こいつ頭おかしいんじゃ?)って思ってるだろうな。 [一言] 水城、櫻井が好きで告白するのは結構だが、恐らくそ…
[良い点] 神奈さん、さすポン。 うっかり八谷とは別方向に、さすがのぽんこつ。 [気になる点] 櫻井、結局お泊りか。 同室の野郎どもからのツッコミはねぇんだろうなぁ。 全員『櫻井の事だし女のとこだろう…
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