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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第6章 修学旅行 交際編
256/595

第227話 銭湯はお好きですか? 4




「どうしよう皆」

 

 水城が花波たちに目配せする。


「そもそもここって女湯だし?」

「当たり前だよ。私もちゃんと暖簾見て来たよ」

「おかしいな……」


 櫻井は首をかしげる。


「俺が見た時は確かに男湯の暖簾が下げてあったはずだ……」

「今はこうなった理由はどうでもいいですわ。問題はいかにして聡助様をあちら側に戻すかですわ」


 花波が仕切られた向こう側を指さす。


「……」

「……」

「……」


 一同は黙り込む。


「やっぱり出口から出るしか……」


 水城は扉を一瞥した。現在女子生徒の入浴は二班。この班が終わった後も、第三班が残っている。


「そうするしかないわよ」

「入れ替えの時がチャンスですわ」


 一班と二班、二班と三班、一時間ごとの交代の際、誰もいない時間があった。


「でも私聡助と会ったし、次の班でもし誰かがちょっとでも早く来たら無理なんじゃ……」

「そうですわね、たしかに」


 花波は暗い顔をする。


「皆何話してるの?」

「「「ひゃあああああぁぁぁぁぁっ!」」」


 水城の後ろから、女子生徒が声をかける。


「あれ、そこの人誰?」


 岩を向き、背中姿だけが見える櫻井を、指さす。


「あ、あははははははは、誰だろうね、あははははは」


 水城は大声で騒ぐ。


「え~、クイズ? ちょっと~、こっち向いてよ~」


 女子生徒が櫻井の背中に触れようとしたとき、


「あ! この子ちょっとのぼせちゃったんだって! 少し体洗ってくるね!」

「私も行きますわ」

「私も!」

「私も!」

「あ、そうなの? ごめんね、突然」


 水城たちは櫻井を囲み、温泉から上がらせる。


「すまん、水城!」

「ちょっと! 喋ったらばれちゃうよ!」


 水城たちはこそこそと櫻井を守る。

 他の女子生徒から離れた、端の洗い場に水城たちが徒党を組み、小さくなって櫻井を隠していた。


「ちょっと! 押さないでくださいまし!」

「仕方ないし! 聡助が隠れないんだから!」

「櫻井君大丈夫……?」

「は、恥ずかしいよぉ……」


 水城たちが櫻井を押し込める。


「ちょ、ちょっと水城、何か柔らかいものが俺の背中に……」

「ひゃあああぁぁっ!」


 水城が咄嗟に飛びのく。出来た隙間を花波がサポートし、隠す。


「ちょっと何をしているのですの、水城さん! あなた聡助様を守るという意識が希薄ですわよ!」

「だ、だって……」


 水城は先ほど櫻井の背中に押し当てていた胸を直視する。


「裕奈、お前も何か柔らかいものが……」

「じっくりご堪能してくださいませ」

「おいおい……」


 櫻井は花波たちによって、隠されている。


「何なのよ、あの状況……」


 八谷は温泉に浸かりながら、櫻井たちの状況を遠巻きに眺めていた。


「ちょっと水城さん、あなたそんなところでぼーっと突っ立ってるのなら、仕切りの隙間でも探してきてくださいまし! 聡助様が通れるような隙間がないか、探してきてください!」

「わ、分かった!」


 水城はふんす、と意気軒高に、仕切りに向かった。


「恭子ちゃん」

「?」


 水城が八谷を見ると、水城は八谷に手招きしていた。

 八谷は湯から上がり、水城の下へと行く。


「恭子ちゃん、櫻井君を逃がしたいんだけど、大丈夫かな?」

「どういうこと?」

「櫻井君が逃げれるような隙間ないかな?」


 水城は仕切りを触りながら確かめる。


「全然ないわね」


 八谷も共になって探すが、見つからない。


「やっぱり隙間なんて……」


 水城が湯につかる。床伝いにも、探す。


「……あ」

「あったの?」


 水城は温泉が、男湯と女湯で仕切られていないことに気付く。

 視界だけは仕切られているが、湯自体は男湯と女湯で共用となっていた。


「お湯の中なら、続いてる」

「嘘」


 八谷も手を伸ばす。手の届く範囲でなら、八谷も仕切りには触れなかった。


「おでんみたいなこと?」

「なんでおでんで例えたのか分からないけど、たぶんそういうことなんだと思う」


 水城は慌てて櫻井の下へと戻る。八谷は岩の陰に隠れた。


「皆、あったよ! 仕切りがないところ!」

「やりますわね、あなた」


 行きますわよ、と花波は立ち上がり、新井、葉月も立ち上がった。

 輪になって、櫻井を運ぶ。


「聡助様、足元にお気をつけください」

「サンキュー、花波」


 櫻井は下を向いたまま、進む。


「それにしても裕奈、お前裸見られても平気なのか?」

「何を言ってますの? 聡助様に見られて私は嬉しい限りですわ」

「でも前俺と同じ部屋泊まった時、俺が風呂入ったらあんな恥ずかしが……」

「それは二人きりだったから私もつい……」

「……」

「……」


 沈黙。


「え?」

「ふえ?」


 素っ頓狂な顔をする新井と葉月。


「ええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」


 悲鳴。


「どどどどど、どういうこと!? 裕奈ちゃんと聡助が一緒にお風呂!?」

「ふわぁ……」


 葉月がその場にくずおれる。


「そ、そそそそそ聡助様、そそそそれは、だって! そういうこと……」


 花波も慌てふためく。


「あ」

「うわ!」


 そして足を滑らせ、櫻井を押してしまう。

 押された櫻井はそのまま温泉の中に倒れこむ。


 ざばん、と大きな音がした。

 温泉に落ちていく音がした。


「ちょっと~、温泉にダイブしちゃ駄目じゃん~」

「もう~ハッスルしすぎてない?」

「大丈夫?」


 女子学生の注目が櫻井に行くが、花波と葉月の体で櫻井は隠れている。

 夜。

 時計の短針も九の刻を過ぎたころ。絶好の快晴が日がな続いていたこの日、月夜は満点の光を放っていた。

 

 外気に触れ、温泉の役割を十全に果たしているその女湯で、櫻井が新井に向かって倒れこむ。

 あたたかな湯気が櫻井の頭を刺激する。白く曇った湯気が櫻井の視界をかすめていく。あまりの出来事に森閑としたその温泉で、櫻井は新井を押し倒していた。

 美しい月夜に照らされ、煌々と銀色に輝く新井の髪。短髪ながらも水気を吸い、光に照らされ、きらきらときらめいている。

 スポーツが得意で体の引き締まった新井の双丘に、櫻井の両手が添えられていた。凹凸が激しく、張りのあるその双丘に、光の加減も相まって、より一層その美しさを演出する。

 ぽたぽたと、櫻井の髪から水が落ちる。落ちた水は新井の頬を撫で、そのまま落ちていく。


「あ……」


 あまりの出来事に言葉を失った新井は、自身の胸を見た。

 櫻井の手で撫でられた胸を見ているうちに、櫻井から水が降ってくる。ぽと、と振った水におどろき、びく、と体を跳ねさせる。

 ちゃぷちゃぷと、水の流動的な音だけがその場にこだまする。

 

 引き締まった、美しいプロポーションをした新井の体に見とれた櫻井の目は、自然、全身をくまなく見てしまう。一糸まとわぬ新井の全身を、目にしてしまう。

 

「や……!」


 今まで見たことがなかった新井の表情。ずっと男勝りでボーイッシュ、櫻井に好意ばかりを伝えていた新井の、見たことのない表情。湯気のせいか。頬は赤く染まり、うっとりとした目に光が見える。新井の目に映る自分の姿すら、はっきりと見えてしまう。

 子供のころとは似ても似つかない、異性としての新井の姿。今まで意識してこなかった新井の、見たことのない性の部分。湯気を通しても見えてしまう、新井の全貌。白く滑らかな素肌に吸い付くように、湯が新井の体を囲む。


 橙の間接照明と月の光によって闇を切り裂かれたその場所だけが、櫻井と新井にとっての聖域となる。

 新井を押し倒している、という自覚だけが、櫻井の自意識を刈り取って行く。


「由紀――」


 咄嗟に言葉を発したとき、


「やああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 新井は大声を上げた。


「すまん由紀!」

「櫻井君こっち!」


 水城は脱出口を指さした。


「恩に着る水城!」


 櫻井は湯の中を潜水し、そのまま男湯へと向かった。


「そ、聡助の手が……私のおっぱいに……」


 新井は高揚とも羞恥とも言えない表情で、恍惚と自身の体を撫でていた。


「聡助が私の裸を……」


 新井は自身の体を改めて、見ていた。

 





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― 新着の感想 ―
[一言] じ、地獄の章だ... 応援してます
[一言] なんでだろう。殺意が沸いてくるような。
[一言] 主人公が櫻井くんなら絶賛されてそう 典型的ななろう主人公やしな
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